クリスマス休暇が始まった。
今年はジェームズたち4人組は、揃ってジェームズ家に招待されているらしく、ホグワーツに残る生徒のリストに署名をしなかった。

「イリスも来る?」

ジェームズに一度そう尋ねられたけど、私はリリーがホグワーツに残ると聞いていたので、「ううん、また今度誘って」と断ることにした。

今年のクリスマスにグリフィンドールで残っていたのは、私とリリー、それから名前を知らない1年生が1人と、7年生数人だけだった。大広間には、同じように7年生が何人か、他の寮からも残っている様子がうかがえる。うちの寮の1年生がひとりしかいないことを少し心配してたけど…その子は、レイブンクローの1年生を見つけるとぱっと笑って駆け寄っていった。顔がよく似てるから、双子なのかもしれない。
スリザリンのテーブルには、誰もいなかった。

「今年の7年生って寮を超えて仲が良かったらしいの。たぶん、最後の思い出を一緒に残したいんだと思うわ」

リリーはそう言っていた。なるほど、確かに人数が少ないからと1つのテーブルに集められた席で、7年生同士が寮関係なく楽しそうに喋っているのが見える。

「良いね、ああいうの。楽しそう」
「そこにスリザリンがだーれもいないっていうのが、ちょっと笑えるわね」

あいまいに苦笑いを返しながら、私たちはイブの夜を過ごした。
チェスをして、最近読んだお気に入りの本を交換して、夜がとっぷり暮れた頃に眠る。

翌朝、外を見ると雪が降っていた。
枕元には────去年と同じように、クリスマスプレゼントの箱が積みあがっている。…おや、でも去年より1つ多いみたいだ。

差出人を確認すると────お母さま、お父さま、パトリシア、リリー…それから、シリウス達4人組からのプレゼントが届いてる! なにこれ、大きい袋!

「おはよう、イリス。メリークリスマス」

物珍しさから4人からのプレゼントに最初に手をつけたところで、隣のベッドで眠っていたリリーがゆっくり起き上がった。

「おはよう、メリークリスマス」

リリーもベッド脇のプレゼントに「わあ」と歓声をあげ、開封作業に取り掛かった。

4人組からのプレゼントは────大きな包みに入っていたけど、中に4つのアイテムが入っていた。カードには"悪戯仕掛人より 偉大なるパン職人様へ"と書いてある。

まずひとつ、防衛術のイラストつき参考書。リーマスからだ。教科書なんかよりずっと説明がわかりやすくて、呪文の唱え方と効果が動く絵になって現れるので、見ているだけでも面白かった。

ふたつ、これは…ダイアゴン横丁で見た、かくれん防止器だ。危ないものが近くにあると光って知らせてくれるとかなんとか聞いた気がするけど…きっとピーターだな。

みっつ、今度はクィディッチ選手らしきユニフォームを着た男の人の、ミニチュア人形だった。つつくと辺りをブンブンと飛び回り、3分くらいどこかへ飛行の旅をした後、私のベッドまでお行儀よく戻ってきた。その動きに反応してかくれん防止器がピカピカと光る。これは絶対ジェームズからだろう。まるで箒に乗ってるミニチュアジェームズをかくれん防止器になったピーターがもてはやしてるみたいだ、と私は笑ってしまった。

最後…シリウスからの贈り物は────驚いた、ブレスレットだ。細いシルバーチェーンの先に、深紅のビーズアクセサリーのチャームがついている。さすがに本物のルビーではないだろうけど、パッと見ただけなら宝石と見間違えてしまうほど、キラキラときれいに輝いていた。────でも少しばかり、私には大人っぽすぎるような気がする。

私はシリウスが"アクセサリー"なんていうしゃれたもの(しかも私にはまだ分不相応といえるようなもの)を贈ってきたことに少しだけ驚いて────でもそれが入っている箱に刻まれたお店の名前が、マグルの間でちょっとした人気をほこるロンドンの雑貨屋さんのものであることに気づき、その"真意"を見抜いた。

シリウスってば、こんなところまで"反逆"しなくても良いのに。

「わあ、素敵ね、そのブレスレット。誰から?」
「シリウス」
「ブラック!? えっ、ブラックって…その…えっ?」

リリーはおおいに戸惑っているみたいだった。「ただの友達にこんな繊細なアクセサリーを贈るなんてどういうつもりなの?」と訊きたがっているのがよくわかる。
どういうつもりもなにも、これは…。

"僕らはグリフィンドール生だ。そして僕は純血主義には絶対従わないぞ"っていうシリウスの決意表明だよ」

赤いルビーに似たチャームは、グリフィンドールの証。
マグル御用達のお店で買ったのは、魔法族の不遜な態度への反抗の証。

かわいらしい形に紛れて、シリウスがどこまでも"自分"を誇示してがっているのがよくわかるプレゼントだった。しかもそれを、半端な態度でいつまでもウロウロしている私に贈ってくるところまで含めて、完璧としか言いようがない。これは私に着けさせるためのものじゃなく、私に"自分を理解させる"ためのものだった。だからこんなにも大人びたものなんだ…。

ジェームズほどわかりやすくふんぞり返ったりしない人だけど、この人もたいがい目立ちたがりなんだよなあ…。
いつ買ったんだろう。休暇でジェームズの家に行った時、ロンドンでも歩く機会があったのかな。

戻ってきたら訊いてみよう。

リリーからのプレゼントは、これまた素敵なペンダントだった。同じように華奢なシルバーチェーンの先に楕円のクリスタルチャームがついてるけど、こっちは杖先でとんとんとつつくと自分の好きな色に変えることができる。私の持っている私服ともよく合うデザイン(少しチャームが大きめだった)で、こちらはちゃんと"私が着ける"ことを前提に選ばれていることがわかった。

「リリー、これすっごく可愛い! ありがとう、毎日つけるね」
「イリスこそ、素敵なピローミストをありがとう。これ…ユリの香りね? とっても良い匂い…」
「魔法のお陰で、ワンプッシュで香りを強めたり弱めたりできるから、嫌じゃなかったら使って」
「嫌だなんて! 私、これとっても気に入ったわ!」

パトリシアからは、あたたかそうなセーターが贈られてきた。黒いセーターの目立たない隅っこに、金色の糸で獅子の刺繍がほどこされている。シンプルで、着やすそうなデザインだ。きっと手作りしてくれたんだろうな。

私はパトリシアからもらったセーターを着て、リリーと一緒に大広間へ行った。7年生たちが早くも席について、ワイワイ楽しそうに喋っている。隅の方に1年生が2人、7年生の陰に隠れるようにこそこそと…それでも笑顔を浮かべながら、話しているみたいだった。

「イリス、とても素敵なセーターじゃのう」

私とリリーが先生方に近い席に座ると、ダンブルドア先生が青い目をキラキラさせながら私に話しかけてきた。まさか校長先生が私に────しかも名前を呼んでくれるなんて思っていなかったので、私は思わずぴゃっと飛び上がる。

「あ、ありがとうございます…! これ、あの…パトリシア…ここの卒業生のパトリシア・ラン…ええと、ベルベットが作ってくれたんです…」
「おお、パトリシアはよく覚えておるぞ。ハッフルパフのとても優しい子じゃった。そうじゃったな、リヴィア家への入学案内は全部パトリシアがやってくれたからとても助かったと、次の休暇にはぜひ伝えておくれ。それからリリー、きみの髪飾りもその豊かな赤い髪によく似合っているよ」
「あっ、ありがとうございます…。母からの贈り物なんです…」

私と同じように飛び上がって、リリーも珍しく慌てながらお礼を言った。
すごい、この人、今までの生徒全員覚えてるの?
そういえばマクゴナガル先生も初めてうちへ来た時、パトリシアを見てすぐ「ミス・ベルベット」って名前を呼んでたし────魔法使いの先生になる人って、みんな桁外れな記憶力を持ってるのかもしれない。

「ダンブルドア先生って、すごいのね」

食事が始まり、ガヤガヤといっそう騒がしくなった大広間の中で、リリーがこそっとそう言った。
本当にそう思う。










その後、リリーが図書室へ行ってくると言ったので、私はその間にかねてからやってみたいと思っていた"ホグワーツ探検"に繰り出してみることにした。
別にこれは何も、去年校内の地図を作ろうとしていた4人組────悪戯仕掛人ってさっきは自称してたっけな────に触発されたわけじゃない。ただこの広い校内に何があるのか、私も純粋に興味があったのだ。

リリーとは、夜になってから課題を一緒にやっつけようと約束している。17時くらいに戻れば良いかな、と私は食後の散歩の意味も含めて、校内を歩き回る。

去年は授業に遅刻しちゃいけないからと、先生から教わった各教室への順路を覚えることだけに徹していた。でもこうしてあてどもなく歩いていると────ホグワーツがどれだけ広大で、そして魔力に満ちた場所なのか、改めて思い知る。
階段の数が多い。肖像画が絶えず喋っている。扉かと思ったらただの壁だったり、ウワサによればある一定の手順を踏まないと開いてくれない部屋もあるらしい。

最後にグリフィンドールのある東側の塔へと戻る手はずだったので、私はさっそく逆側の西塔から歩いていくことにした。何度か階段で足を踏み外しながら(いや、だって今の今までそこに確かに段があったし…)、通行禁止と言われているところ以外をくるくると巡回する。

シリウスとジェームズもこんな気持ちだったのかな。校内探検は新しい発見ばかりで、とっても楽しい。肖像画の中の人が親し気に話しかけてくれたり、うさんくさそうな目でじろりと見てきたりするものだから、歩いているだけなのに全く飽きなかった。たまに通りがかるゴーストも「やあ、メリークリスマス」と言ってくれる人もいれば、「こんなところに下級生がなんの用だ!」とケンカを売ってくる人もいた。…うん、シリウスたちならきっと、通行禁止のところも素知らぬ顔をしてズンズン歩いているんだろう。この間また管理人のプリングルに捕まったと楽しそうに話しているのを聞いたし。

唯一厄介なのが、ピーブズだった。ポルターガイストのピーブズは、歩いている人を見るだけで何かしら度を越したイタズラをしかけないと気が済まないたちらしい。入学した時から「あいつには気をつけろ」と言われていたし、実際今まで幸運なことにほとんどお目にかかることはなかったんだけど────。

こーんな昼間っからこんなところで、グリフィンドールのお嬢ちゃんがなーにしてるのかなー?

まさかのまさか、何も用のない西塔の4階で、私はピーブズに出くわしてしまった。
手に持ってるのは…ウワ、ゴミ箱じゃん。こちらにぶちまける気満々のピーブズがスイーッと近寄ってくるので、私は慌てて中央塔の方へ逃げ出した。

「なにも! フクロウ小屋に行ってただけ!」
「なんにも後ろめたいことがないのに逃げてる悪い子ちゃん、だ〜れだ!」
「それはピーブズがゴミ箱を持って追いかけてくるからでしょ!」

こっちの話なんて聞きやしない。耳障りな笑い声を上げながら、余裕しゃくしゃくで私がボタボタ走っている後ろをつけ回してくる。
私はとにかく逃げた。校内探検なんてとてもやっていられない。自分がどこを通っているかも忘れて、ただ階段を昇ったり降りたり、部屋を通り抜けたり通り抜けられなかったり────。

ピーブズはいい加減、私を追い回すことに飽きたらしい。それまで執拗に背後をついてきていたところを、突然加速して私の頭上に構えると、大釜くらいあるんじゃないかと思われるゴミ箱を一気にひっくり返した────!

エバネスコ!!

それは、初めて唱える呪文だった。変身術の課題をやっている時に、参考書の後ろの方のページでたまたま見つけた"消失呪文"。
でも────変身術は、私の得意分野。ピーブズがぶちまけてきたゴミは、全部私に降りかかる前にきれいに消えた。

ピーブズ!!!!!

するとその時、私の叫んだ声より遥かに大きな声が廊下に響き渡った。ビリビリと威嚇するような声におそるおそる振り返ると────マクゴナガル先生が、怒った顔でこちらにずんずんと歩いてくる。

「2年生を執拗に追い回すとは何事ですか! 失せなさい!」

ピーブズはゴーストの血みどろ男爵にしか敬意を表さない、って聞いてたけど、マクゴナガル先生の迫力に勝てる人なんて誰もいなかったらしい。侮辱するような言葉を並べ立て、ベーッと舌を出してスイーッと消えていった。

「まったく…。怪我はありませんか、ミス・リヴィア」
「はい…すみません、ありがとうございます」
「先程の消失呪文は見事でした。ちょうど来年度に教える予定の呪文だったので、ぜひその際のデモンストレーションはあなたにお願いしましょう。────ですが、なぜこんなところに?」
「ああ…さっきふくろう小屋へ行っていて、戻ろうとしたところでピーブズと会ってしまったので、無我夢中で逃げていたところで…。すみません、今から寮に戻ります」
「そうですね。あるいはミス・エバンズと一緒に校庭を散歩しても良いかもしれませんよ。もう今は雪が止んで、よく晴れていますから」

マクゴナガル先生は、ピーブズへの怒りなど一瞬で消し去り、優しい口調でそう言ってくれた。とっても厳しい人だけど、この先生はたまにこういうことを言ってくれる。せっかくの休暇なんだから、おおいに楽しみなさいと言われているみたいで────私は「ふくろう小屋に行った」と嘘をついたことに良心を痛めつつ、「ありがとうございます。後で誘ってみます」と答えた。

マクゴナガル先生が去って行った後で、改めてその場を見回す。

────えーと…ここ、どこ?

ピーブズから必死で逃げていたせいで、現在地を確認しそびれてしまった。こんなことになるならマクゴナガル先生と一緒に戻れば良かった。どうしよう、ホグワーツの中で迷子だなんて…クリスマス休暇じゃ、人の通りはぐっと減る。次にここを誰かが通るのがいつになるのか────考えたくもなかった。

廊下の窓の外から見た感じだと、結構な高層階にいるみたいだ。それに、校庭の景色からして…校舎の中央付近にいるのは間違いなさそう。
さて、じゃあここからどう東塔に戻れば良い? 私はウロウロと行ったり来たり、廊下を歩きながら考える。
ここが中央塔なら東側へただ向かえば良いんだけど────と、東側へ足を向けるが────私がさっきここに来たのは逆方向からだ。あんまり記憶はないけど、辿った道を思い出しながら見覚えのあるところまで戻った方が確実に帰れるはず。
一度また元の位置に戻り、でも結局来た道なんて覚えてないしなあ…と再び東側へ。

ああ、こんなことになるなら、もう少しホグワーツの見取り図とか歴史とか、そういう学校内のことがよくわかる本をもう少し読んでおくんだった。そうだな、この機会にグリフィンドールとスリザリンの対立について歴史を学んでみるっていうのも良いかも…って、いけない、いけない。あまりにも絶望的な状況で現実逃避をしてしまった。まずは校舎内の間取りがわかる何かがほしいな…。

西へ東へ行ったり来たりしながら困り果てていると────3回ほど廊下を往復した頃だろうか、私はふと、目の前に大きな扉が現れていることに気づいた。

「!?」

なにこれ、今までこんなのあった!?

石壁に、ぴかぴかに磨かれた扉。取っ手は真鍮で────なんというか、とりあえずこんな目立つ扉があったら、来た瞬間に気づいているはずだということだけはわかった。
ということは、これは今…たった今、私の前に現れたということになる。

でも、なんで?

私は好奇心で近づいて、そしてためらった。この部屋、入っても大丈夫だろうか。知らないところに入って、そこがもし立ち入り禁止の場所だったら────何か校外の危ないところにつながってたら────それこそ、規則違反じゃ済まないかもしれない。

恐怖心が広がり、私はなかなか取っ手を取れずにいた。

────でも、今現れたってことは、この部屋は私を助けてくれる部屋なのかもしれないよ。

すると、心の中の私が(去年度末、マルフォイに立ち向かうかどうかで迷ってた理性を溶かした本能の声だ)聞こえた。

────だって、迷ってて困ってて、とにかくここがどこかだけでも知りたい…って願ったら突然現れた部屋でしょ。ここはホグワーツだよ。"困ってる人を助けてくれる部屋"があっても全然不思議じゃないよね。

確かに。でも、もしそれが"困ってる人を更に陥れる部屋"だったらどうする?

────じゃあちょっとだけ開けてみようよ。取っ手から絶対手は離さないで、隙間から中を覗くの。危なさそうだったらすぐ閉めて、またあてどもなく歩けば良いよ。

心の声は、いつだって弱腰な私の背を押してくれる。
私は、真鍮の取っ手に手をかけた。

そっと、音を立てないように薄く開き、中を覗く。
────そこはまるで、図書館のようだった。

────なんか、大丈夫そうじゃない? お目当てのもの、見つかりそうじゃない?

ここがたまたま隠し図書館だったのか────それとも、私の願いに呼応してくれたのかはわからない。でも、たくさんの本や絵画、そして────あっ、ホグワーツの地図がある!

そのことで一気に心が決まった。私は扉を開いて、中へと入る。

ホグワーツの地図は、抜け道こそ書いてなかったけど────去年度末、シリウスたちが見せてくれた忍びの地図とそっくり似ていた。あの羊皮紙に書き込まれていなかった残りの3/4も、全部記してある。

ええと、それで、私は今どこにいるんだろう。

そう思った瞬間、地図にぽっと小さな明かりがついた。そこは、中央塔の8階────。
これ、私の現在位置ってこと?

確かに外の景色から考えるに、その場所は今私がいるところとよく似ていた。

「えっと、待って、じゃあここは何の部屋?」

意味があるのかわからないまま、私は地図に問いかけた。

すると地図は再び光り────『わたしは必要の部屋。あったりなかったり部屋とも呼ばれているよ。』と金色のインクでその部屋の名前を明かしてくれた。

必要の、部屋。
図書館じゃないんだ。
必要の部屋────必要の部屋────。
必要のあるものが、置かれてる部屋…?

それならこの世の全てがここに詰まってるんだろうか、と思ってぐるりと見回すも、そこにあるのは見たところ本や絵画や地図だけだ。面白いアイテムや実用的な道具が置いてある様子はない。

そこで私は、この扉が現れる前に自分が考えていたことを思い出した。

ああ、こんなことになるなら、もう少しホグワーツの見取り図とか歴史とか、そういう学校内のことがよくわかる本をもう少し読んでおくんだった。そうだな、この機会にグリフィンドールとスリザリンの対立について歴史を学んでみるっていうのも良いかも…って、いけない、いけない。あまりにも絶望的な状況で現実逃避をしてしまった。まずは校舎内の間取りがわかる何かがほしいな…。

おそるおそる、本棚の蔵書を見て回る。
『ホグワーツの歴史』、『ホグワーツに隠された魔法の部屋について』、『ホグワーツ創設者伝記シリーズ』、『スリザリンはなぜ離反したのか?』────最初に見た棚に、タイトルも著者もあべこべなのに────的確に、私が読みたいと思った本が、揃っている。

"必要の部屋"。

それって────"何かを必要としている人が通った時に、それに応えてくれる部屋"ってこと?

今回は、私が帰り道を探していたから(そしてついでにホグワーツの歴史を知りたいと思ったから)────こんな部屋が現れたの?

今私は、これまで考えたこともなかったような、神秘に溢れた部屋にいる。
…思わずぶるりと身震いした。

こんな────こんなすごい部屋が、ホグワーツにあったなんて。
扉をくすぐらないと開かない部屋も、騙し階段も、この部屋に比べたら全然たいしたことない。

これぞ魔法だ。これこそが、本当の魔法なんだ。

私は現在位置とグリフィンドールの寮への一番の近道だけ確認すると、部屋を出た。扉はその瞬間、元の何も装飾がないただの壁へと戻ってしまった。

そして、再び廊下をうろつきながら、今度は別のことを考える。
もしこの部屋が本当に必要としているものを用意してくれる部屋なのだとしたら、次にこの扉が現れる時は────本当に現れるのかはわからないけど────その中身がまるっと様変わりしているはずだ。

そうだな…なんかこう、お花がいっぱい咲いてる部屋に行きたいな…。今は冬であんまり花が咲いてないけど、春の花…チューリップ畑とか、こんな真冬でも再現できる?

チューリップ畑を思い浮かべながら、往復すること三度。
目の前には私が部屋を出た瞬間消えたはずの扉が、また現れていた。

今度は私も、ワクワクしながら扉を開く。

わあっ!

私は思わず歓声を上げた。
目の前に広がっているのは──── 一面のチューリップ畑!
すごい、良い香りもするし、部屋の中なのに青空が広がってる。そよそよと風も吹いていて、とても心地良い。
試しに中に入り、畑を散歩してみると、あるところでこれ以上進めないことがわかった。視覚的にはまだチューリップが咲き乱れてるんだけど、どうやらここには壁があるらしい。ということは、この青空もそう見せかけただけのただの天井かな。

自分が入学以来────クィディッチを初めて見た時と良い勝負ができるほど興奮していることに気づく。
すごい、すごい。シリウスたちはこの部屋のこと、知ってるのかな。
この部屋があればなんでもできちゃうよね。すごいな、楽しそうだな。

でも────ここに来る時は、慎重に動かなきゃ。

楽しいことをするのは良いけど、ここに入るところを誰かに見られたら大変なことになりそうだ。こんな魔法に満ちた部屋、ひょいひょい入って良い場所だとは思えない。もしかしたらここ、立ち入り禁止の部屋なのかも…。

いつものようにせっかく高揚した気持ちに、すぐリヴィア家の教えという冷たい水がぶっかかる。私はトボトボと部屋を出て、扉が消えるのを確認した。
浮かれちゃいけない。誰かに見られてもいけない。何をしているのかも知られちゃいけない。

この部屋のことは、黙っていよう。

────ああ、でも────"仲間"になら、話しても良いかもなあ。
私は早くクリスマス休暇が終わって、"彼ら"が戻ってくるのを────心から楽しみにしていた。



[ 21/149 ]

[*prev] [next#]









×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -