その日以来、私はアパートを出てシリウスと一緒に彼の家に住むことが決まった。
理由は単純、「そちらの方が安全」だからだ。
今までは"一緒に住む理由が別になかった"からそれぞれの家で暮らしていたが、これからは私達が秘密の守人の筆頭候補として常に狙われることが想定される。それを考えた時、バラバラにいてそれぞれ襲撃に遭うよりも、少しでも一緒に過ごす時間を増やすことで、襲われても連携を取りながらうまく逃亡できるように(そして常に互いの安否を確認できるように)しておいた方が何かと都合が良かったのだ。

当初は部屋をすっからかんにして名実共に引越しをするつもりでいたのだが、「一応アパートの方もそのまま残しておいた方が良い。僕の家が使い物にならなくなった時、一時的な避難所として使える」と彼が言ったので、結局私は生活に必要な荷物だけをまとめて彼の家にお邪魔することになった。

「秘密の守人としての生活って窮屈そう。シリウス、耐えられる?」

私からすればその部屋は十分すぎるほど広かったのだが、とにかく何かしらの敷居があるだけで「狭い」と言うような男にとっては、迂闊な行動ができないと自分を戒めるのは相当大変なのではないだろうか。

そう思って尋ねると、シリウスは耳を疑うような言葉を返してきた。

「ああ、秘密の守人なら、ワームテールに代わることになった

ワームテールに、代わることに、なった?

「……は!?」

思わず思い切り大きな声を出してしまった。

「何考えてるの!? ピーターに代わってもらうなんて、あなた…だってあの時はあんな真っ直ぐ手を挙げて、何の躊躇いもなく立候補してたのに!」

シリウスが怖気づいた…という線はまずないだろう。でも、だからといってどうしてそこで誰か他の人────しかもよりによってピーターを立てる必要があるのか。

私が混乱することは予想していたのか、シリウスは落ち着いた様子で「まあ座れよ」と促した。もはやそこに反抗することすら煩わしく、私は早く事情を説明してほしい一心でどすんとソファに腰掛ける。

「良いか。君も重々承知してる通り、秘密の守人には相応のリスクが伴う。いくら拷問や真実薬を飲ませても、本人が"言うぞ"と思わない限りその秘密は漏れないからな」
「だから、そんな役割をピーターに任せたら────」
「いや違う。外面的には、僕が守人だと思い込ませるんだ

────囮作戦、ということだろうか?

私の顔色が僅かに変わったことで、シリウスの語調も少し和らいだ。それまでは私が何を言ってもグサグサと言葉のナイフで反論してくることがわかっていたので、彼の言葉もどこか堅かったのだ。

「良いか、これはプロングズとリリー、ダンブルドア、それから僕と君、最後に当事者のワームテールだけの秘密だ。それ以外の奴らには引き続き僕が守人だと思い込ませる。もう君も察しはつけたかもしれないが、あいつらの間に生まれる子供がヴォルデモートを倒しうる人間だって話が向こうに漏れてる以上、敵も僕達が忠誠の術に頼ることは容易に想像するはずだ。その時、真っ先に狙われるのは────」
「シリウスか私」

リーマスとの会話を思い出しながら、私は言葉を引き継ぐように自分と彼を候補に挙げた。

「────そうだ。敵はまず、僕らを拷問しようとするだろう。ところがどっこい、その僕達は秘密を一切持っていない。僕らは────まあ確かにしんどい目に遭うわけだけど、少なくとも敵は要らない労力を割き続けることになる。そしてそれが続く限り、プロングズ達が安全でいられる時間は延びていく」

シリウスが怖気づくことはない…その程度の想像で済ませていた自分が恥ずかしくなってしまった。秘密を放棄することによって、自ら敵陣に積極的に乗り込もうとしているんじゃないかとそんな気がしたのだが────彼はそこまで短絡的な人じゃなかった。
敵だって、目の前にご馳走がぶら下がっていれば飛びつくに決まっている。彼はできるだけ敵の視線を自分に向けさせるようにして、本当の秘密を守っている人間────ピーターからできるだけ目を逸らすようにしているんだ。

「守人をリーマスじゃなくてピーターにした理由は?」
「あいつらが一番侮ってるだろうからさ」
「…リーマスには言わないの?」
「言わない。これは当事者だけが知るべき問題だ」
「私は正確には当事者じゃないけど」
「何を言ってるんだ、ここまで聞かせておいて、何もしないなんて言うわけないよな?」

なるほど、囮として私も存分に暴れろと、そう言いたいわけか。

「オーケー。それじゃ、私も秘密の守人ごっこで遊ぶことにするよ」
「信頼してるぜ、ハニー」
「そろそろ勇気と無謀の違いを理解してほしいところですけどね、ダーリン」

シリウスから聞いた話によると、あの日は結局何もせず(対外的には"シリウスに忠誠の術をかけたということにしておき)、その翌日にピーターだけが改めてリリー達の家に行き、ダンブルドア先生から忠誠の術をかけてもらったのだそうだ。

ジェームズから聞いたと言っていたシリウス曰く、ピーターは相当怯えていたらしい。ただ、ロンドン郊外の小さな空き家に安全対策を施し(端的に言えばシリウスの実家に施しているものと同じような魔法だそうだ)、そこを隠れ家として移り住むことと、そして支障がない限りはネズミの姿で過ごすこと────この2点を挙げられた時に、ようやく身の安全を確信したようだった。

こうしてそれぞれ、不本意な新生活が余儀なくされることとなったのだが────私に限っては、シリウスと一緒に暮らせるという点においてこれは必ずしも不幸なことばかりとは思っていなかった。リリーからはしょっちゅう手紙が送られてくるし、相変わらず魔法省にはどうにもきな臭い役人が何人か在籍している。友人の命がこれまで以上に危険に晒されていると思うとどうしても心が痛むが、充実しているといえば充実した生活を送れていた。

「ただいま」
「おかえり、リリーから手紙がまた来てたぞ」

へとへとになって帰って来た私を、シリウスが笑顔で出迎えてくれる。
彼の活動時間帯は基本的に深夜だった。ならず者の集まるパブに出入りしたり、夜襲を仕掛けようとしている死喰い人を止めたりと、昼間に仕事をしていないメンバーはこうして夜の安全を守ることを命じられているのだ。

だから彼は、朝になって私が出勤する頃に帰り、仮眠を取った後に分担した家事をこなし、夜になると出かけていく。すれ違っているようにも見えるが、朝と夜だけは必ず顔を合わせようと約束しているので、この時間は貴重な私のリラックスタイムだった。

「何か変わりはあった?」
「いや、特に何も。プロングズは暇だって暴れ出すくらい安全らしい」
「それは良かった。シリウスの方は?」
「────そろそろ追うより追われる側になった、ってとこかな」

彼と一緒に暮らし始めて1ヶ月が経つ。
ヴォルデモートが"予言"の内容を知ったはずというダンブルドア先生の言葉通り、私達はいつも誰かの視線を感じていた。詳しく話を聞くと、昨晩彼はパブを出ようとした瞬間、外にある小さな草むらの陰から呪いをかけられたのだそうだ。ひゅっと心臓が縮んだような感覚になって続きを促すと、彼はそれを持ち前の反射神経で躱し、即座に石化呪文をそちらの方へ放ったとのこと。後から確認すると、それは死喰い人として元々彼が追っていたはずのニッグズという男だった。

「向こうから来てくれるなんてサービス精神が旺盛だと思うだろ?」

傷ひとつ負わず、元気いっぱいに私と一緒に夕食をとりながら、呑気な口調で彼は言った。

「そんな悠長なこと言ってないでよ、下手したら死んでたかもしれないのに」
「…蕩けた顔で言われても説得力がないんだよなあ…」

あっ、と私は急いで表情筋を締める。
本当においしいものを食べる時に私の顔が緩み切ってしまう癖を知っているシリウスは、上品にクスクスと笑った。

これでも彼は、同居を始めた直後は料理の腕が壊滅的になかったのだ。それまでまともに自炊をしたことがないというのだから当たり前といえばそうなのだが、初日に黒い塊(しかも何かウゾウゾと蠢いていた)を出された時には流石に器用な彼にもできないことがあるものかと却って安心してしまったものだった。
しかし、彼は1週間でちゃんと食べられるものを作るようになり、2週目には「おいしい」と言えるものを作り、そして今では私の表情筋を全て奪い去る────つまり最高級においしいご飯を作ってくれるようになった。こういうところが天才と呼ばれる所以なのだろう。何年経ってもなかなか料理が上達しない私はそこに少しだけ悔しさを覚えながらも、毎晩こうして彼のおいしいご飯をご馳走になっている。

「リリーは何て?」
「あっちはあっちで大変そうだったぞ。プロングズがろくに外出できないので癇癪を起してるんだと。お腹の中の子の方がよっぽど静かだって」
「そりゃまだ何も動かないでしょ。むしろジェームズの方がちょっと成長しすぎた姿で生まれてきた赤ちゃんみたいなものなんじゃない?」

外に出たくてウズウズしているジェームズの姿が容易に想像できてしまい、私は口の中のスープを噴き出さないよう一生懸命唇に力を入れた。

「ベッド脇のボードに置いてあるから、後で読むと良い。それより君は、今日どうだった?」
「うーん、なんか最近どうにも誰かに尾けられてるような気がするんだよね」

もちろん、まだそれが死喰い人だと断定できる段階ではない。ただ例えば、出先から戻った時にデスクの引き出しの中身の配置が若干ズレていたりだとか、私の煙突飛行ネットワークの使用履歴を閲覧した記録が残っていたりだとか、明らかに私の素性を探ろうとしている"誰か"がいるのは間違いなかった。

しかしそんなところでボロを出すようでは"優等生"は名乗れない。そもそも会社には会社でしか使わない公的な物しか置いていないし、煙突飛行の行き先はこれまでもずっと使っていた自宅付近のバーだ。そこに出てからわざわざ目くらまし術を自分にかけて、それからシリウスの家に姿現しするようにしている。

私もシリウスも日中、あるいは夜間に外を出歩く限り危険はつきまとう。外に出ている間は嫌でも警戒態勢に入るので構わないのだが、この家の場所だけは特定させないようお互い細心の注意を払っていた。リラックスできる時間が少しもなくなってしまうと、先にこちらの精神の方がやられてしまうからだ。

シリウスは手を止め、私を凝視した。

「尾けられてる!? いつからだ!?」
「気づいたのは1週間くらい前。まあまだ死喰い人のやったこととは限らないし、今はこっちも好きにさせ…るように見せかけて、証拠集め中」
「…まあ君ならその辺りはうまくやるだろうが、気をつけろよ」
「うん。この場所がバレるようなヘマはしないよ」
「そうじゃない。君が怪我をしたり、危ない目に遭ったりしないよう────自分の身を守れって言ってるんだ」

イライラしたような口調で言うシリウス。私のことを、心から心配しているようだ。
こんなところで「愛されてるなあ」なんて思ってしまう私は、危機意識が薄いのだろうか。

ただ、これまでだったら私も自分が尾行されているなんて気配を察知した瞬間にすぐさま攻勢に転じていたかもしれない。私はリリー達が予言によってヴォルデモートから狙われる立場になったことがわかってから、自分の気持ちが若干変わっていたことを感じていた。

これまで、"自分の理想"のために戦っていた私。
"罪のない人"という漠然としたものを守ろうとしていた私。

そのスタンスが変わったわけではない────が、今の私は"リリーとジェームズを守りたい"という強い衝動に突き動かされていた。

顔を知らない誰かのためじゃなく。利己的で移ろいやすい自分の思想のためじゃなく。
何より大切な不変の友情。彼女達を守るという使命は今、私の心の一番大きな場所を占めている。

私が元々許せないと言っていたラインは3つ。
差別を助長する行為。
無力な相手に遊びで邪悪な呪いを使う行為。
そして────友人を傷つける行為だ。

前者2つについては、「私にとっての正義が誰かにとっての悪になりうるかもしれない」という脆い前提を基に成り立っている。つまり、私は"今の私"を信じてあらゆるものと(時には自分とも)戦っているわけだが、例えば5年生の時────シリウスから「闇の魔法使いは一度倒しただけでは決して屈しない。無力化させるだけでは意味がない」と教わったことで自分のラインを修正することがあったように、それは事情によって変動しうる要素でもある。

しかし最後のひとつだけは、誰に何を言われようとも譲れない。
私は友人を守るためなら、どれだけ自分の身を危険に晒そうとも、どれだけの過酷な戦いが待っているとしても、決して躊躇ったりはしない。

今の状況は、私が最後にして最も強固に守り続けているラインを著しく脅かすものだ。
そうである以上、私はあまり自分の身の安全に頓着していられなかった。私を尾行している者について調べていることだって、それを通して"その者が何をしようとしているのか"を知り、リリー達に危害を及ぼそうというのなら排除するつもりだという、それだけのこと。

私は肩をすくめ「自分の身くらいは守れるよ」と、照れ隠しのように言ってみせた。

「そういえば────」
「あのさ、イリス」

そして話題を変えようと、今日魔法省で聞いてきた話を彼に語ろうとしたところ、ちょうど何かを言おうとしていたらしいシリウスと言葉が被ってしまった。

「何?」
「いや、君からどうぞ」

すっかり出鼻を挫かれた様子でシリウスが手を差し出してくるので、彼の話の内容が気になりつつも私は自分の話を先にすることにする。

「そういえば、今日魔法省で指名手配犯が増えてたよ」
「なんだ、そんな遅すぎることを今頃やるなんて、魔法省は今まで冬眠でもしてたのか?」
「まあ、そんなとこ。ちなみに名前はベラトリックス・レストレンジとルシウス・マルフォイ」

その名前を告げた瞬間、彼の顔色が変わった。
私はその反応を予想していた。ベラトリックス・レストレンジとルシウス・マルフォイ────正確にはその妻、ナルシッサ・マルフォイはどちらもブラック家出身の人間だった。

「ブラック家が今何か表立って悪いことをしてるわけじゃないから、誰も直接その名前を口にしようとはしてない。でも────ごめん、回りくどく言うと却って失礼になるだろうからハッキリ言うよ。ブラック家は、ヴォルデモートに与してると思われてる」

シリウスは硬くなりすぎた牛肉のような顔をして空になった皿を睨んでいた。

もちろん"ブラック家"の人間が何かをしたという話は出ていない。筆頭候補だったレギュラスは────もはやこの世にいないだろうし、長男であるシリウスは真っ向からそれに反対して家を出た。それ以外の若い女性は全員他の純血家系に嫁いでおり、むしろ問題を起こしているのはその嫁ぎ先の方でのことなのだが────。

今や、ほとんどの聖28族は邪悪な魔法使いであると見なされているようだった。これは何も一般市民が後ろ指を指しているだけでなく、聖28族の末裔本人達も自らを「新たな時代の開拓者」と闇の魔法の正当性と恐ろしさを誇大化しているところにも原因がある。

そうなると、直接ヴォルデモートに加担していないとしても、純血主義を掲げるブラック家だって槍玉に上げられるのは時間の問題だったことだろう。
私はこれをある程度予想していたのでたいして心が動かなかったが、ブラック家の長男であるシリウスにとっては厄介事がひとつ増えたくらいには思っておいた方が良いかもしれない。もはや政府や一般市民は味方になってくれないのだという悲しい事実を、彼が守った誰かに刺されてしまう前に、私は知らせておきたかった。

「…面倒なことになったな」
「それもあって、私、これからベラトリックスを追う任務も任せられたから」
「は!?」

それは本当のことだった。先日、ダンブルドア先生に「魔法省の内情視察と共にベラトリックス・レストレンジを追ってほしい」と言われたのだ。おそらく狙いは────。

「危険すぎる! それなら僕が行った方が────」
「うん、多分ダンブルドア先生は、それも織り込んでると思う」

────狙いは、シリウスを動かすことにあったのだろう。
ただ、シリウスひとりにレストレンジを追わせたところで、街中で2人が戦っているところを見た人は「仲間割れだろうか?」と思ってしまうことだろう。つまり、シリウスの悪いイメージは彼ひとりの力では決して払拭されないということだ。

しかしそこに私がいれば、状況は変わる。
魔法省の役人であるイリス・リヴィアがシリウスと組んでレストレンジと戦っている────それを見た人々はこう思うだろう。「ブラック家からも反旗を翻す者がいたのか」と。
実際、クラウチ家のように聖28族でありながら闇の魔法使いを嫌悪している家系もある。残酷なことだが、誰かに望んだ通りのイメージを持たせるためには、他者の協力が不可欠なのだ。

「だから、あなたにも手伝ってほしい。私はどうしても夕方から深夜にかけてしか動けないけど、あなたは逆に深夜から明け方までなら自由に動けるはず。2人の時間が重なる深夜、レストレンジの足跡を追おう」
「…僕、ダンブルドアはもう少し人情のある奴だと思ってたよ」

私はにっこり笑ってシリウスの溜息を受け流した。
先生に人情がないとまでは思わないが、私は先生を要らない情をかけてこない良い采配者だと思っていた。だってそうでもなければ、レギュラス追跡の任務を"極秘"で私に与えてくるとは思えない。

「私の話は終わり。シリウスの話は?」
「あー…いや、やっぱりなんでもない」

先に私が彼にまつわる悪い話をしてしまったせいで、言いにくくなってしまったのだろうか。ここで更に突っ込んで吐かせることもできなくはないだろうが、きっぱりと「なんでもない」と言えるような話なのであれば、きっと緊急性のあることではないのだろう。彼の頭の中には忌々しい家のことで今一杯になっていることだろうし、私は後ろ髪を引かれながらも「わかった。また今度話して」と言うに留めた。

夕飯を食べ終えると、シリウスは外出の支度を始めた。私はその間にシャワーを浴び、寝る準備をする。

「今日はどの辺に行くの?」
「トテナム・コートの辺りだ。マグルのニュースで不審者が出たって言われてる。魔法省は報道してないようだけどな。────まったく、脅威から目を逸らすんじゃなくて向き合う覚悟を持たせろってちゃんと言っておけよ」
「ただ向こうの気持ちもわかるよ。知らない方が幸せなことだってあるし」
「それじゃあ知らない間に死んでるだろ」
「それもわかってるって。言ってはいるけど一向に聞き入れてもらえないからそういう理由で自分を納得させてるんじゃん」
「フン」

不機嫌そうな顔をしながらも、ベッドに入った私の額にシリウスは小さなキスをした。

「シリウス」
「うん」
「朝ごはん作って待ってるからね」

これがいつもの挨拶。お互い、外に出る時には必ず────どんな形になっても必ずここに帰ってくると、約束するのだ。

「楽しみにしてる」

シリウスはその時ばかりは機嫌を直し、にっこり笑って私の髪を綺麗な手で撫でると、家を静かに出て行った。
私はひとり、暗い部屋で眠りにつく。

外には危険がいっぱいだ。いつ命を落とすとも知れない。その上私達は、ヴォルデモートを打ち倒す力を持つ子の"秘密"を守る最後の砦だと思われている。
状況を考えればどう見ても悲観的な要素しか並んでいないのに────私にしては珍しく、落ち着いた気持ちでいた。

リリー達が元気であることを定期的に知らせてくれているからかもしれない。毎日シリウスの笑顔を見られるからかもしれない。今の私には、悲観して然るべき状況でさえ笑って暮らせるだけの、"笑顔の天才"がついている。そのことが、思っている以上に力強く私の心を支えてくれていた。

『親愛なるフォクシー、パッドフット

そちらは変わりないかしら? 考えてみたら、あなた達2人が一緒に暮らすのってこれが初めてのことよね。自分とは関係ないのに、私、ちょっとワクワクしてるわ。
でももちろん、それは私達のためだっていうこともわかってる。誰よりも危ない立場だというのに、嫌な顔ひとつせずに守ってくれてありがとう。

私達も元気でやってるわ。プロングズなんて、満足に外を歩けないからって最近は変装術に気合いを入れてるの。フォクシーにもう少し変身術の応用を習っておけば良かったって悔しがってるわ。
お腹の子の方がプロングズより静かなの。まあよく考えればそれも当然なんだけど、いるってわかるとどうしても意識しちゃって。早く産んで、あなた達に会わせるのが楽しみだわ。

それから、この間ダンブルドア先生から、あなた達が新しい任務を与えられたと聞きました。詳しい話は知らないけど、ただでさえ私達のせいで危険な状況に陥れられてるんだから、くれぐれも気をつけてね。

ワームテールとムーニーも、この間手紙をくれました。2人とも元気みたい。
お腹の子が生まれたら、ぜひまたみんなで集まりましょうね。

愛を込めて リリー』


リリーは、内容を見られることを恐れてか、手紙の上でだけは私達のことを渾名で呼んでいた。こんなことになるなら、リリーにも何か名前をつけておけば良かったなあなんて思う。
何にせよ、彼女もあまり落ち込んでいないようで良かった。

"予言"の話を初めて聞いた時は、私達全員がショックを受けたけど────でも、起きてしまったことは仕方ない。あとは最悪の事態を防ぐために全力の方法を取り、その中で少しでも笑いながら幸福に暮らすことこそが、敵にとって最もダメージを与える方法だ。

そして、そのことにかけて彼らの右に出る者はいなかった。無から笑顔を生み出す天才。
私は改めて、彼らと深い友情を結ぶことができて良かったと思った。



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