静かで古びた家に、重い沈黙が降りる。

昨日の襲撃により、ジェームズ、リリー…君達はヴォルデモートが最も危険視し、最優先に殺すべき標的となってしもうたのじゃ────。

ヴォルデモートが私達騎士団を殊更に敵視し、積極的に殺そうとしてきているのは知っている。現に昨日だって、グレイバックは私達が"騎士団だから"という理由でヴォルデモートを引き連れてきたのだから。

しかし、"昨日の襲撃によって"、"最優先に殺すべき"とされた────というのは、どういう意味だろうか。
最優先に殺されるべきは(とてもそんなことなど考えたくないが、あくまで敵側の考えとして)ダンブルドア先生のはず。仮に何らかの理由で本当に私達を殺す順序が上がったとして、それが昨日の防戦一方…しかも大怪我を負ってなんとか逃げ切っただけのあの醜態をきっかけにしているというのなら、それには一体どう理由をつけたら良いのだろう。

「────詳しく、事情を聞かせていただけますか」

未だ信じられずにぐるぐると先生の発言を反芻している私に対し、リリーがハッキリとした声でダンブルドア先生に説明を求めた。事情がどうあれ、自分達が危険視され、徹底的に狙われることとなったそのこと自体は正面から受け止めているようだ。

ダンブルドア先生はひとつ溜息をついた。杖を一振りし、ソファに乗っていた埃を綺麗に吹き払うと、私達に座るよう促す。

「────事は、ひとつの"予言"に始まる」

予言────。マグルの世界でも、それは"未来を先に言い当てるもの"としてよく知られている。しかし所謂占い師のような人々が告げるその予言は、大抵星の動きだったり、あるいは生まれ持った"何か"(私にそんな力はないので"何か"と言う外ないのだが)で当たるとも知れない未来をさも確定していることのように言ってみせる────失礼を承知で言えば、ただの戯言でしかない。

「予言とは────その、言葉通り、未来の言うことを言い当てる"それ"のことで合っていますか?」

同じくマグル生まれのリリーが、私と同じ疑念を抱いたのか、失礼にならないよう気を遣いながら尋ねた。

「さよう。マグルの世界にも"予言"という概念は存在しておろうが、そも、こちらの世界における"予言"は占星術の類とは全く意の異なるものなのじゃ。それらの者は、言葉通り未来を"予見"することができるのじゃ。…とはいえ、恥ずかしい話なのじゃが、わしもそこまで占いというものを信じておるわけではなかった。しかし────極稀に、本物の予言者というものが確かに存在しておったようでの。わしは先日、未来を"識っている"本物の予言者と出会った

やはり魔法使いの言う"予言"は、私達が"おまじない"として聞き入れる占いの類とは全く違うもののようだ。自分がその予言者と対面していない以上、どこがどう違うのか実感を持って説明することはできないのだが────根拠のないことは口にすることすら憚るダンブルドア先生が「予言」を基にリリー達に警告を発していることからして、その予言者の口にする言葉が"本当に実現する未来"であることは間違いないのだろう。

ダンブルドア先生はその予言者から、何を聞いたのだろう。
答えは────すぐに出てきた。

「その予言は、端的に内容を説明すれば────"来年の7月末に、闇の帝王の手を三度逃れた者の間に、帝王を打ち破る力を持った子供が生まれる"というものであった」

頭の真上に雷を落とされたかのようだった。

来年生まれる子供が────闇の帝王を打ち破る?

部屋に再び静寂が訪れる。ダンブルドア先生の────いや、その名も知らない予言者の言葉は、あまりにも突然のことで────言葉の意味がどれだけ簡単なものだったとしても、喉につかえてとても呑み込めたものではなかったのだ。

「ジェームズ、リリー、君達は昨晩、ヴォルデモートの手から逃れた。それが何度目のことだったか、覚えておるかね?」

2人とも、答えなかった。
私は頭の中で彼らとヴォルデモートが対峙した回数を指折り数えた。最初は12月の初旬。二度目は2月の半ば。この時私は同じ場におらず、翌日に手紙が送られてきたことでそれを知ったものだった。

そして、三度目が────昨晩────。

ヴォルデモートと戦ったことを私に知らせないなんてことを、リリーはしない。現に2月には本人から手紙が送られてきているし、そうでなくともヴォルデモートや死喰い人との戦闘が発生した時は騎士団へ報告し、全員と共有する義務を負っている。

昨日をもってジェームズとリリーが三度、ヴォルデモートの手を逃れるという"予言"の内容を実現させた。

そして────昨日リリーの妊娠が発覚した。状況から見て、昨晩彼女が突然吐いたのはつわりの症状だったのだろう。そこから計算すると、今の時点での出産予定日は7月前後────もし、予定通りにその日が来るとしたら、7月末はぴったりその時期と当てはまってしまう。

「────本当なんですか? 本当に、その…その予言者の方は、私達のことを知って…」

リリーの声は震えていた。ダンブルドア先生の言っていることを疑っている様子はない。しかし、だからといって簡単にその言葉を信じたようにも見えなかった。

「いや、"彼女"が"君達"の存在を知ってあの予言をしたようには思えなんだ。リリー、"予言"とは"事実"なのじゃ。君はマーリン勲章が何かしら素晴らしい功績を残した"誰か"に渡ることは、当たり前のこととして知っておるじゃろう。しかしそれが"誰に"渡るかまでは考えたことがあるかな?」
「い、いいえ…」
「それと同じことなのじゃ。"彼女"にとっては、"闇の帝王を打ち倒す者"がある一定条件下に現れることは知っておったが、それが"誰か"まではわからぬ」

先生はその予言者と同じように、「ヴォルデモートを倒す者が生まれる」ことを確信しているようだった。

「あの方はおそらく────僕の推測でしかないが────もはや一度殺したところで完全には潰えないはずだ」
「何それ────そんなの、人間の域を超えてるじゃない」
「そうだ、リヴィア。お前達が対峙している相手は、もはや人間じゃないと思った方が良い」


私は心の中で、レギュラスに問いかけていた。
本当にそんな人が────この世に生まれてくると、あなたもそう思う?
一度では殺せないあの男を、何度でも殺し、最後には完全に命を絶つなんて────リリーとジェームズの子供に、本当にできると思う?
だってあなたは、ヴォルデモートの"一部"を破壊することにでさえ、あなたひとりの命を全て使ってしまったというのに。その子は、たったひとりでヴォルデモートを殺せる力を持って生まれてくるというの?

もしそれが本当のことだったとしたら────レギュラスの死は、一体誰にどんな意味をもたらすというのだろう。私達は、そしてきっとレギュラスも、"ヴォルデモートに対抗する大勢の者"が少しずつ命を削りながらヴォルデモートの命の灯を吹き消していくものだと思っていた。

それが、たった1人の────男の子かも女の子かも知らない、まだリリーのお腹の中で人の形すらとっていない"それ"によって成し遂げられてしまうとしたら、いよいよレギュラスの死の意味がわからなくなってしまう、と思った。

そして同時に────生まれた時から生きる意味を定められているなんて、なんて残酷なことなんだろう────そんな哀しみもせりあがってきて────私は、ぎゅっと唇を噛みしめた。

「だからわしは今日、皆をここへ集めた。おそらくじゃが────この話は、ヴォルデモートの耳にも既に入っておるはずじゃ。あやつにとって、自分を滅ぼしかねん者が生まれることはどうにかして避けたいじゃろうからの。決死の覚悟で、生まれる前────あるいは生まれた後にでさえ、この予言に該当する者を血眼になって探し当て、殺しに来るじゃろう」

それでジェームズとリリーが最も危険視され、真っ先に殺すべきターゲットにされてしまったのか。そっと2人の表情を盗み見ると、どちらの顔も真っ青になっていた。ついさっき先生にリリーが妊娠したことを報告した時の面影は、すっかり消えてしまっていた。

「ジェームズ、リリー、これから君達は、何よりも厳重に保護され、完璧に安全を保障された環境下で生まれてくる子を守らねばならぬ。嬉しい話の後でこんな暗い話を聞かせてしまったことを許しておくれ。しかし猶予がないのじゃ。わしは一刻も早く、君達に最も強力な加護を授けなければならぬ」

リリーとジェームズが不安そうに顔を見合わせていた。
私は改めて、これまで通ってきたゴドリックの谷の環境について思いを巡らせる。魔法使いが周りに住んでいる村。人の気配を常に感じながらも、全体的には人目につきにくく、どちらかというと寂れた印象の方が強い村。

確かに、何かを隠すには程良く賑やかで、程良く静かなところだ。

ただ────。

「あの、先生」

私は授業中のように小さく手を挙げて、先生に発言の許可を求めた。

「何かね?」
「この場所は確かに、"環境"だけを考えれば、隠れ住む場所としては最適だと思います。ですがここは、ゴドリック・グリフィンドールの出身地、スニッチが初めて鋳造された場所────少しばかり、私達に縁がありすぎませんか? 私がもし誰か自分の敵を探そうと思ったら、その敵が安心できる場所────縁があったり、周りに守ってくれる人がいたり────そういう場所をまず訪ねてみると思うのですが」

先生は頷いた。その所作だけを見れば、先生の質問で当てられた生徒が正確な答えを導いた時のものと同じ。しかし先生の表情は、かつてないほどに厳しかった。

「君の指摘はもっともじゃ、イリス」

先生もわかっているのなら、なぜわざわざそんな場所を選んだのだろう。

「この場所を安全だと考えた理由は主に3つある。1つ、実はわしも以前ここに住んでいたことがあっての、この場所は何かと目をつけておきやすいのじゃ。そして2つ、これは1つ目の理由とも絡むのじゃが────この村には、わしが信頼を置いている最も優れた魔女が住んでおる。彼女なら、きっと君達を守ってくれることじゃろう。そして3つ────わしは、君達のうちの誰かに"忠誠の術"をかけようと思うておる」

忠誠の術。

教科書でしか読んだことがないが、その魔法の存在はよく知っていた。

それは、簡単に言うと、秘密を人の心に閉じ込めてしまう強力な魔法。
何か隠したいものやことがある時、"秘密の守人"と呼ばれる、その名の通り"秘密"を守る人間を1人ないしは複数人選出する。やり方は私も知らないのだが────何かしらかの魔法を用いてその守人に"忠誠の術"をかけ、秘密を魂の奥深くに刻み込む。

そうすると、守人以外はその秘密を一切口外できなくなる。たとえその秘密を知っていたとしても、それを知らない他人に伝えることがどのような手段をもってしてもできなくなってしまうのだ。

秘密を暴く方法はただひとつ、守人が"自主的に"その秘密を口にすること。

つまり、私達のうちの誰かが秘密の守人になれば、選ばれた者が口外しない限り、永遠にリリーとジェームズの居場所は知られないことになる。選ばれなかった者でも、"最初からこの場所を知っている者"であればここを訪れることはできるが、それでも守人が秘密を守っている間は、例えば私達の後を追ってきても、偶然この場所の目の前を通り過ぎても、決して中にいるリリー達を見つけることはできない。

日頃はダンブルドア先生と、ここに住んでいるという魔女による監視を。そしていざという時の切り札として、"秘密"を丸ごと人の中に閉じ込める"忠誠の術"を。
なるほど、そう言われてみると彼らの警護体制は完璧なように思われた。

それなら僕が

私がようやく事態を呑み込んだところで、きっぱりとした口調のシリウスが力強く手を挙げていた。

「僕が秘密の守人になります。プ…ジェームズとリリーの秘密を守るなら、僕が最も相応しい」

リリーもジェームズも、何も言わなかった。
当然のことだろう。せっかく子供に恵まれたばかりだというのに、その子供がヴォルデモートを打ち倒すなどというとても重く、過酷な運命を背負って生まれてきてしまうと知らされたのだ。愛する子供が生まれることを喜びたいのに、ヴォルデモートを倒すひとつの活路が見えたことに希望を見出したいのに、それについてまわる危険が多すぎる。彼らは彼らの意志で自らの命を懸けることを決断したが、子供にまで生まれる前から同じだけの覚悟を持たせなければならないなんて、あまりに生まれてくることへの代償が大きすぎる。

ダンブルドア先生の手前気丈に振る舞っているが、リリーは今にも泣き出しそうなのを堪えているように見えた。

そんな彼らの方をあえて見ないまま、シリウスはダンブルドア先生のことをまっすぐ見据えている。

「僕が彼らを守ります。僕が、彼らの命を魂に刻みます」

その声に、表情に、迷いはなかった。

聞いた話では、秘密の当事者はもちろん、守人となった者にも相当な危険が伴うとのことだった。秘密を知りたがる者がこぞって守人を襲撃し、磔の呪文で拷問したり、服従の呪文で秘密を暴こうとしたり、それこそ死より過酷な目に遭わされてきたという歴史が残されている。

しかしシリウスは、真っ先にその危険を負うと言った。
────そして、きっと私達は全員、最初に名乗りを上げるのはシリウスだろうとも思っていた。

当然、私にだって同じだけの覚悟はある。リリー達とその子供を守るためなら、自分の命など安いものだ。リーマスだって、ホグワーツでの友情を決して忘れたりはしないだろう。ピーターも、きっと彼はひどく怯えるだろうが────それでもこれまで導いてくれた友人を、絶対に見捨てたりはしない。

それでも、私達はシリウスが適任だと思っていた。
彼ならきっと、心にひとつの迷いも恐れも不安も抱くことなく、笑ってその秘密を魂の奥に沈ませ続けることができる。
私のように、つい相手の事情まで自分の損得に組み込んだりしないシリウス。
リーマスのように、慎重になるあまり迷うことをしないシリウス。
ピーターのように、何かを恐れたりすることがないシリウス。

彼は"何があろうと秘密を守る"というそれを愚直に行う上で、私達の欠点を全て補うだけの素質と気概を持っている人間だった。そして彼は、誰よりもジェームズのことを想い、いつだって共に生きている人間だった。

彼ならば────と、私達の誰もが思ったことだろう。

ダンブルドア先生もそれは予想していたのか、ひとつ頷いてみせてから「ジェームズとリリーもそれで良いかな?」と確認をする。
2人は真剣な顔のまま頷いた。

「では、これから術をかけるが────リーマス、ピーター、イリス、すまぬがその間、少しばかり外で待っていてくれるかの?」
「はい、わかりました」

リーマスとピーターはすぐに立ち上がった。
私も後に続き立ち上がり────そして、リリーの手を握る。

「リリー」

赤ちゃん、おめでとう。
とても嬉しいことのはずなのに────その直後に、こんな話を聞かされてきっと戸惑っていることだろう。戸惑い、困惑し、そして小さな絶望すら覚えているかもしれない。
優しいリリーのことだから、もしかしたら騎士団に入ったことを後悔すらした瞬間があったかもしれない。自分がこんなところにいなければ、生まれてくる子がこんな運命を背負わずに済んだのにと。
それとも、あの3回の戦いの中でヴォルデモートを殺せなかった自分を、また責めていたりするのだろうか。

新たな命が生まれる、そんな幸せを、当たり前の顔をして喜ぶことすらできない。
私は騎士団に入って1年以上経つというのに、まだ"騎士団に入る"ことの本当の意味を理解できていなかった。

私達は、人々の安全を守るために存在しているのであり、そうである限り、私たち自身に安全がもたらされることはないのだ。

でも────それでも、私達はリリー達の子供が生まれてくることを、心から嬉しいと思ってるよ。
たとえそこにどんな危険があったとしても、たとえその子がどんな呪いを背負っていたとしても、私達はその子の誕生を心から祝福するよ。

そんな気持ちを込めて、私はリリーの目をまっすぐに見た。
彼女は目を潤ませていたが────私に何かを言わせようとはしなかった。

「ええ、イリス…。ありがとう」

私の言いたいことは全て伝わっている。そんな確信を得たところで、私はリーマスとピーターと共に家の外に出た。

「────ジェームズとリリーのどちらに似るか、なんて喧嘩をしていたのが随分昔のことのようだな」

戸口に座り込んだリーマスが、乾いた声で言った。

「…そうだね」
「生まれてくる子供は何も知らないうちから、ヴォルデモートを倒す運命を背負わされるんだね」
「…そうだね」
「残酷なことだと思うよ。子供ならもっと────」

子供の頃、狼人間に噛まれ、"普通の暮らし"ができなくなってしまったリーマスは言葉を詰まらせた。周りにいる幸せそうな子供を見ては、望んでもいない生き方を定められてしまったそんな環境を恨んでいたのかもしれない。今、彼の脳は、これから生まれてくるリリー達の子供の姿と幼い自分を重ねているのだろうか。

「…そうだね」

私は曖昧な相槌しか打つことができなかった。

「…でも、ジェームズとリリーならきっと、子供に寂しい思いなんてさせないくらいたくさん愛情を注ぐんじゃないかな」

暗い雰囲気の中で、私達を元気づけるように言ったのはピーターだった。

「ピーター…」
「例のあの人は怖いし、自分達が狙われてるなんて知ったら僕は────僕はもう、どうなっちゃうかわからないけど…。でも、ジェームズ達だったらきっと、そんなことにも負けずに、子供を立派に育てるんじゃないかな」

いつになく声の大きいピーターを見て、私とリーマスは目を見合わせた。

「…それもそうかも」
「プロングズが例のあの人ごときにビクビクしてるなんて、考えられないもんな」
「うん。シリウスが守っていてくれてる限り、その子はきっと幸せな人生を送れるよね。少なくとも、然るべき時までは────」

いつかきっと、"その時"はやってくるのだろう。
どれだけ避けても、その子とヴォルデモートが対峙する未来は避けられないのだろう。

でも、その時までは。

その子が自分を呪ってしまわないように。その子が絶望してしまわないように。
リリーとジェームズになら、それができる気がする。だってリリーとジェームズだよ、そんなの、何かを呪ったり絶望したりする暇なんてないくらい、楽しいことを探し当ててくるんじゃない?

「ワームテール、君ってやっぱり良いこと言うなあ」

少し元気を取り戻した様子のリーマスが、初めて笑った。ピーターも眉を下げながら「守人はシリウスかもしれないけど、僕らも一緒にジェームズ達を守ろうね」と言う。

────闇の魔法使いの勢いに、知らず呑まれていたのかもしれない。
私もピーターに元気づけられたような気持ちになって、シリウス達が術をかけられ終えるのを待っていた。

「ただ、そうなると────僕はむしろ君とシリウスが心配だな」

しかし、まだ重い空気の抜け切っていない様子のリーマスがぼそりと私に向かってそう言った。

「私?」
「これは"ジェームズとリリー"の秘密だ。考えてもみなよ、ジェームズが真っ先に命を託す相手がシリウスだったとしたら、リリーが同じように最も信頼しているのは誰だと思う?」

────私だ。

「おそらく敵は、秘密の守人が誰かわからない間は、まずシリウス本人と────それから君のことを一番に狙ってくると思う。当然、自分の意志で自白しない限り秘密が漏れることはないから、"自白したい"と思わされるほど酷い仕打ちを受ける可能性だってある」

リーマスの言うことはその通りだった。守人としてシリウスのことを心配したは良いが、同じだけの危険性を私も持っているのだ。守人が誰かわからない間は、シリウスも私も同じ立場として扱われることになる。

怖くないと言えば、それは嘘だ。
しかし私は、決してそれを悲観してはいなかった。

「だから、くれぐれも警戒して。守人でなくとも、いや…そうでないからこそ、必要以上に身を守るくらいでちょうど良い」
「ありがとう。でも、狙われるってことは私がリリーの一番の友達って誰から見ても明白だってことでしょ? 危険なのは皆一緒なんだから────どうせ一緒に背負わなきゃいけないなら、私はちゃんと文字通りリリーの一番傍で、あの子を守るよ」

一蓮托生、ってよくジェームズも言っていたなあ。

恐怖に勝る友情のお陰で、私の声は思ったより力強く出た。それを見たリーマスは少しだけ驚いたような顔をして、それから────笑ってくれた。

「本当に強くなったね、イリス」
「なあに、まだ1年生の頃の私と重ねてるの?」
「いやいや、会う度強くなってるなあって。お母様の顔色を窺ってた時のことなんて思い出してないよ」

やがて、ダンブルドア先生がひとり、玄関を開けて外に出てきた。

「術は完了した。待たせてすまなかった、2人ともお入り。わしはそろそろ学校に戻らねばならぬのでな────先に、お暇させていただくことにする」
「ありがとうございました、先生」
「先生もどうぞ、お気をつけて」

先生は私達の表情を確認するようにじっくりそれぞれと目を合わせると、姿くらましをしてその場から消えた。部屋の中では、リリーとジェームズ、それからシリウスが居間のソファに座って談笑しながら私達が戻ってくるのを待っていた。



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