ジェームズからの新居の招待状が届いたのは、結婚式から半年近く経った12月のことだった。
指定された日時は2週目の土曜日。一瞬今の魔法省での業務を思い浮かべ、その辺りならひとまず落ち着いた休日を過ごせそうだと思った私は、すぐにペンを取り「楽しみにしてるね」とふくろうに返事を持たせた。

もちろん、その間が暇というわけではない。
私はこの間に、神秘部で狙いをつけていたもう1人の死喰い人候補────ラヴグズ氏を追い詰めていた。

こちらが杖を抜くなり本性を現してきた魔法ゲーム・スポーツ部の役人と違って厄介だったのが、彼が"神秘部"に属しているということ。これについては、魔法省の人でも何をしているところなのかよくわかっておらず、ほとんど日中は姿を見かけないということが難点だった。
噂では死や時間、愛などについて調べている、なんて言うのだが────なるほど、形のないものの研究とあればそりゃあ機密事項も増えるだろうし、その分人一倍警戒心も強くなるだろうし、人前に姿を現さないのも納得だ。

しかし私はある時、大チャンスに恵まれることとなった。
実は次に締結する予定のルーマニア国際条約において、現地査察へ行く前にルーマニア出身の職員から不文律の慣習や文化を先に聞いておくように指示されたのだ。そしてそのルーマニア出身の職員というのが、ラヴグズ氏だった。

「ラヴグズさん、お忙しいところすみません」

神秘部のデスクに用もなく行けば怪しまれる────そう思ったのでこれまでなかなかここに踏み込めずにいたのだが、デスクに行けるどころか本人と直接話せるなんて、この機会を逃す手はないと思えた。

ラヴグズ氏はお世辞にも人当りの良い人とは言えなかった。明らかにイライラした様子で、防音の効いた小部屋に向かう私について来る。

「こちらは忙しいんだ。ルーマニアとの形ばかりの国際条約だなんてそんなものに力を貸す暇は────」
「ええ、そうでしょうね。死喰い人との両立生活はさぞやお忙しいことですから、こちらも手短に済ませます」

時間がないのはこちらも同じだ。その挑発に乗るような形で、私は"本題"にさっさと切り込むことにした。
ラヴグズ氏の顔色がさっと変わる。恐れ────いや、これは、怒りだろうか。

「死喰い人? 何を言っているんだ。バカにするつもりならお前の上官に────」
「ご自由にどうぞ。ただ、あなたの弟さんを先日私の仲間が捕らえた時、同じ死喰い人としてあなたの名前も挙がっています」

これは嘘ではなかった。騎士団のメンバー、エメリーンがラヴグズ氏の弟を捕らえ、尋問していた時に、兄も同じ死喰い人の人間あることを明かしたそうなのだ。

「あんな奴は兄弟でもなんでもない! ラヴグズ家に死喰い人など出すわけがなかろう、あいつがただのはみ出し者だっただけだ! 私には関係ない!」
「そうですか。ですがあなた、夏の間、周りの職員は全員半袖の軽装をしている中でもひとりだけずっと長袖でしたよね。聞くところによれば、死喰い人の腕には全員共通の刺青が入っているとか…」
「言いがかりはいい加減にしろ! 誰がどんな格好をしていようが自由のはずだ!」
「仰る通りです。ただ、念のため────袖を捲っていただけますか?」

永遠と食い下がる私に、ラヴグズ氏はイライラした調子で袖を乱雑に捲った。
そこには、墨の跡ひとつない毛の生えた腕があるだけ。

────しかし、そんなことはとっくに想定済だった。

私がここで彼に袖を捲ってもらったのは、"一見何もないただの腕"を見るためなんかじゃない。"魔法で巧妙に隠された呪いの印"を現れさせることだった。

死喰い人の腕には、先述の通り髑髏の形をした刺青が彫られている。いざという時にヴォルデモートのところへすぐさま行けるようにとか、ヴォルデモートが近くにいる時に反応するとか────まあ、要は私達騎士団のメンバーが持つ赤色のシグナルと同じようなものだ。
ただ、そんな物騒なものが彫り込まれていれば、日中にこうして一般市民と共に生活している隠れ死喰い人にとっては色々と支障が生じる。そこで彼らは普段、とある特殊な呪文をかけてその印を消しているのだそうだ。これもまた尋問中にわかったことなのだが、それは出現呪文────"アパレシウム"でも見ることができないそうなのだ。

闇の印を腕に見るためには、おそらくヴォルデモートが考案したのであろう呪文を使う以外に、道はない。

「失礼しますね」

私はつかつかとラヴグズ氏に近寄り、反論の隙を与える前にその腕に杖を当てた。

アパレオ・モードル

その瞬間、ラヴグズ氏は酷い火傷を負ったかのように腕を勢いよく引っ込め「がぁっ!」と苦悶の声を上げた。

しかし、時既に遅し。
────ラヴグズ氏の腕には、闇の印といわれる髑髏の模様がゆっくりとうねっていた。

「どうやら"はみ出し者"はあなただけではなかったようですね」
「ちっ…違うんだ、これは…昔! 昔に無理やり従わされた時につけられたもので────今は、もう関係ない! 俺は闇の帝王などに仕えたりしていない!」
「そうですか。ではあなたには然るべき保護が必要と思われますので、ダンブルドア先生の元へご案内します」

拒絶の意思を示すラヴグズ氏に、ふつふつと怒りがこみ上げる。
わかっている。この怒りは、レギュラスの怒りだ。

あの日────突然私の家を訪ね、謎の話をし、一方的に去って行ったレギュラス。
しかし彼は私に"怒り"という確かな感情を遺して消えた。
ヴォルデモートは間違っている。ヴォルデモートに従わない。ヴォルデモートを、自分が滅ぼす。

────本当の離反とは、こういうことを言うのだ。
元々絆や愛のようなものを軽んじている闇の陣営。「もう離れたいから」と言って出された辞表を簡単に受理するほど、ヴォルデモートは甘くない。生涯の忠誠を誓うか、さもなくば死が待つのみ。
レギュラスの最期を見てしまった後だと尚更、ラヴグズの振舞いはあまりに幼く浅はか極まりないと言う外なかった。

「────っ!」

ラヴグズは逃げ道がないと悟ったのか、唐突に杖を抜いた。

「アバダケダブラ!」

そんなこと────私が、想定していないとでも思ったか!

迸る緑の閃光を、私は盾の呪文で一度防いだ。逸れた死の呪いは近くにあった机に直撃し、バーン! と大きな音を立てて粉々になる。
間髪入れず、私は妨害の呪いをラヴグズにかけた。彼もまた何かの魔法をかけようとしていたようだが、寸前で私の呪いの方が早く彼に届き、ラヴグズは後方の壁に背中からもろにぶつかった。

「エクスペリアームス!」

体勢を整えられる前に、武器を回収。「アクシ────」ラヴグズは杖を取り返そうと呼び寄せ呪文を唱えているのが聞こえていたので、その前に無言で失神呪文をかけ、彼の行動を封じた。

そして、もうすっかりお決まりになった仕上げとして縄で縛りあげる。ついでにこの間リリーからもらっていた強力な眠り薬を喉に流し込み、石化呪文もかける。

これで、どれかひとつの魔法の効力が切れても彼の動きは封じられるだろう。むしろここまで徹底的に意識も体の自由も奪ってしまえば、相乗効果を発揮して活性化呪文を唱えて呪いを解いても言語や動きにしばらくは障害が残るかもしれない。

私は目くらまし呪文をかけると、「外訪してきます」と自分の部署に一声かけた上で、ラヴグズを連れ魔法省を出た。行き先はもちろん、ホグワーツだ。

────リーマスが卒業して以来、叫びの屋敷は騎士団が死喰い人を尋問するための場所として提供されている。ヴォルデモートに近づくための情報を聞き出し、その上で魔法省に通報し裁判を行うという流れだ。
そのため、ここにはホグワーツと同じレベルの防御魔法がダンブルドア先生によってかけられていた。ここの扉は、"悪意ある者"には決して開けないようになっている。唯一その戸口を開けるのは、私達騎士団のメンバーだけだ。

ホグワーツに寄る前にホグズミードに姿現しすると、叫びの屋敷へラヴグズを連れて行く。特別な魔法で戸口を開けると、中にある固い椅子に彼を座らせ、足枷を嵌めた。
あとは手首を椅子の背に巻き付けて縛ってから、再び戸口を閉じれば────「アクシオ! 私の杖!」

「しまっ────!」

失神、石化、睡眠、あらゆる方法で彼の自由を奪っていたはずなのに、私は足枷をつけるため屈んでいる間にラヴグズに杖を奪い返されてしまった。急いでその場から飛びのき、彼から距離を取る。

「残念だったな、リヴィア。我々はそんな子供のお遊びみたいなやり方でくたばるほど軟弱じゃないんだよ」
「へえ、それはそれは、ヴォルデモートも教育熱心なものですね。うちの母親でももう少し人道的でしたが」

軽口を叩きながらも、私の額には脂汗が浮かんでいた。
どうする。さっき彼を無力化できたのは、単にまだ戦闘の準備が整っていなかった彼の隙に付け込めたからだ。完全に臨戦態勢に入り、殺意をビンビンに張っている今のラヴグズを、ひとりで相手しきれるだろうか────。

「インペディメンタ!」

考えるより先に、ラヴグズの妨害の呪いが射出された。私は慌てて近くにあったテーブルを盾にし、呪いを代わりに受けさせる。強力な妨害の呪いを受けた机は一瞬で木屑と化した。

「勝ったつもりだったか? 良い気なものだ、この穢れた血の優等生ぶったガキが────」
「その様子だと、私の評判もそこそこ出回ってるみたいですね」

私はラヴグズの杖腕を狙って「レダクト!」と粉砕呪文を唱えた。うまくいけば杖腕の骨くらいは粉砕できるかもしれないと思ったのだが、ラヴグズはそれを素早く盾の呪文で弾き、一歩一歩私の方へと近づく。

平然とした態度を装ってはいるが、私の心臓はバクバクと早鐘を打っていた。
仲間もいないこの状況下、相手は私よりずっと年上の熟練された死喰い人。
勝機はあるか────? それとも、私も小指の爪を握ってヘルプを出すべきか?

「ステューピ────」
「レダクト!」

しかし、次にラヴグズが放った失神呪文は今度こそ私の粉砕呪文で散り散りに舞った。まるで赤い花火だ。強固な防護魔法がかかった屋敷の中では、その呪いが外に漏れることもなく、ただ古びた木製の家の壁を数枚剥がすに留まる。

────花火────。

私は────こんな時だというのに、赤く鮮やかに散ったその光を見て、なぜだか年末にシリウス達と派手に花火を燃やした日のことを思い出していた。

戦いの日に備えながらも、学生時代の頃のように笑い合ったあの日。
日付が変わるまでカウントダウンをし、新年を迎えると同時に打ち上げた色とりどりの花火。

敵の魔法でこんな気持ちになるなんて本当に皮肉なことなのだが────私は確かに、そんな光景に勇気づけられていた。

やれる、気がする。
死喰い人とはいえど、相手は同じ魔法使いただひとり。
若いとはいえど、こちらだって騎士団のメンバーとして正式に迎え入れられた成人の魔法使い。

いつまでも頼ることばかり考えてたらいけない。
いつまでも、自分に自信がないまま怖気づいていてはいけない。

私はすっくと立ちあがり、杖を構え直した。

ラヴグズは複雑な杖の動かし方をしてみせ、無言のまま私に魔法を放った。
しかし────。

「残念ですが、それは見慣れていますので」

それは、相手を逆さ吊りにする呪い────レビコーパスの動きだ。
今でも鮮明に覚えている。ジェームズが、OWL試験の最終日にスネイプに向かって全く同じことをしていた。

私は冷静に反対呪文を唱え、ラヴグズの魔法を相殺した。

「フリペンド!」

そして、射撃呪文を唱え、今度はこちらが先手を打つ。

ラヴグズは赤い閃光を噴出させると、私の杖から出る光と自分の光を一直線に繋いだ。銀色の光と赤の光がぶつかっているところは、ちょうど私達の中間点。
────互角だ。私は今、死喰い人と互角に戦えている。

そのことが、私の勇気を後押しした。グググ…と、私の銀色の光がどんどん赤い光を押し返す。

「っ!」

劣勢を悟ったラヴグズはすぐさま手を引いた。捻じ切るように光線の繋ぎ目を絶つと、杖を構えて私の心臓にぴたりと向ける。

でも、不思議と怖くはなかった。
戦える。私は、戦える。

アバダケダブラ!
ボンバーダ・マキシマ!

死の呪いに応えたのは、最大出力で対象を砕け散らせる呪文。
本来なら硬い岩や障壁物などに対して使われるもので、同じ粉砕呪文のレダクトより多少精密さには欠けるが、その分威力は大きい。しかもマキシマがつくことにより、それはどれだけ堅牢なものであっても────たとえ死の呪いであっても、粉砕することが可能になると踏んでいた。

ラヴグズの放った緑の閃光は、私の杖先から放たれた光に見事に弾かれた。
しかも弾かれただけでは終わらない。元はひとつの光だったその呪いは、私の魔法によって四方に飛び散り、防御魔法のかけられた壁に跳ね返って縦横無尽にいくつもの閃光を描き出したのだ。

右から飛んでくる光を避けても、すぐに頭上から別の光が落ちてくる。
まずい。下手に威力の高い粉砕呪文を使ってしまったせいで、相手の呪いがいくつにも分散してしまった。ひとつの魔法より流石に効力は落ちるだろうが、何せラヴグズが使ったのは死の呪い。当たって無傷ということはまずあるまい。

私は足元を掠めた光をなんとかジャンプして避けてから、屋敷の天井に向けて杖を高々と挙げた。

「フィニート・インカンターテム!」

その瞬間、この部屋にかかっていた魔法が全て消滅した。
────呪文効果を強制終了させる魔法をかけてしまったので、もしかするとこの屋敷自体の防御魔法も切れてしまっているかもしれない。後で調べてもう一度かけなおそう────そう思い、ラヴグズの方を見た時だった。

「────!」

ラヴグズは、床に倒れたきり動かなくなっていた。
道理で追撃の呪いがかかってこなかったわけだ。彼もこの呪いを避けるので精一杯になっているのだろうかとも思っていたが────私は嫌な予感を胸に、彼にそっと近寄った。

「エクスペリアームス」

念のため、彼の武器は自分の手元に置いておく。それから彼の頭上に静かに膝をつき、その首に手を当てた。

────脈が、ない。

「…死んでる……」

死んでしまった。

彼は、自分の魔法を私に防がれた結果、自らの呪いによって命を落としてしまったのだ。

「────……私が…?」

違うだろう。これはラヴグズが放った死の呪いだ。私が彼の命を奪おうとしたわけじゃない。

でも、私がこうして死の呪いを乱反射させたせいで、彼は命を落としたのだ。

手が、ガタガタと震える。

わかっている。わかっていた。
戦うということは、こういうことなのだと。
戦う以上、必ず誰かの命は潰えていくものなのだと。

覚悟していたつもりだった。

なのに────まさか、こんな形で私が誰かの命を奪うなんて。

私は────私は、"そういう場所"にいたんだ。
覚悟していたはずだった、と卒業してから思うのは、これで何度目になるのだろう。

もう動かないラヴグズを見て、私の手だけでなく、内臓の全てが震えていた。

死ぬ覚悟はしてきた。ヴォルデモートのことだって、"仲間と一緒に"殺すつもりだった。

体から力が抜け、ぺたりとその場に座り込む私。

わかってる。ここにいるのは死喰い人だ。ヴォルデモート本人ではなくとも、限りなくその存在に近い者。どちらにしろ、必ずその身は確保しなければならない。

「私が…私が殺したんだ…」

もはや誰にも聞こえないはずの声で、私は呟いた。
死んだ。人が、死んだ。私の魔法によって、死んでしまった。

戦うって、そういうことなんだ。
誰かを倒すって、今までずっと曖昧な言葉で濁してきたけど────結局、殺すか殺されるかの、どちらかしかないんだ。

「闇の魔法使いに対しては、一度無力化させた程度では絶対にその闇を取り払うことはできない。なぜなら僕らだって、一度や二度闇の魔法使いに破れたところで、決して屈さないからだ。だから僕は────ホッグズ・ヘッドで君に止められて一度は杖をしまったけど────きっと同じことがあったら、また徹底的に叩きのめそうとすると思う。相手にまだ戦う意思がある限り、こちらへの敵意がある限り、こちらもそれを全力で折りに行く。そして学生のうちからこんなことを言うのはアレだけど…仮に向こうが僕を殺そうと言うのなら、僕だって相手を殺すつもりで敵対するつもりだ」

5年生の時、シリウスがそう言っていたことを思い出した。

彼はあの時から────いずれ私達がこういった場面に直面することも、考えていたのだろう。
私はやっぱりどうしても、彼のようには強くなれなかった。

わかってる。私がここで彼を殺さなければ、私の方が彼に殺されていた。
でも────どうしても、思ってしまうのだ。

この人は、日中は魔法省に務めていた"普通の"役人だ。家に帰れば家族もいるだろう、ヴォルデモートと仲良くすることができていなくとも、死喰い人とは────それこそ私達でいう騎士団のように、同じ理想を掲げて笑い合っていた日々があったかもしれない。
敵に対してこんな風に感じてしまうのは、騎士団の人間として相応しくないのだろうけど、それでも────。

「……」

私は黙って立ち上がると、震える手で頬を一発叩いてから屋敷の防御魔法をかけなおした。
戸口にはしっかり木の板を張り付け、そのままホグワーツに入る。

門の呼び鈴を鳴らすと、出てきたのはマクゴナガル先生だった。

「リヴィア、どうしたんですか、突然────」
「先生────。死喰い人を1人、殺してしまいました。尋問する前なのにすみません。今は叫びの屋敷へ置いてありますが、処理はいかがいたしましょう。私が彼を発見したのは魔法省ですから、戻しますか? それともホグズミードで戦闘となってしまったと事実通り報告しましょうか」

私が淡々と"殺した"と言った時、マクゴナガル先生の顔が強張った。

「────ひとまず、ダンブルドア先生に報告しましょう。あなたに怪我はありませんか?」
「ありません。少し転んで擦りむいたくらいなので」
「わかりました。死喰い人の名前はわかりますか?」
「ガイル・ラヴグズです。魔法省の神秘部に勤めている者で、私が半年以上追っていた人間でした」

マクゴナガル先生はそれだけ聞くと、「お待ちなさい」と言ってひとり校舎に戻って来た。
どのくらいの時間が経っただろう。ラヴグズが死んだとわかって以来、時間の進み方がどうなっているのか全くわからなくなってしまった。まだ昼のような気もするし、深夜のような気もする。
程なくして、マクゴナガル先生はダンブルドア先生を連れて戻って来た。

「イリス、ラヴグズを捕まえたそうじゃの」
「はい。…いえ、殺しました」
「…いいや、それは違うじゃろう?」

先生は叫びの屋敷に向かいながらも、厳しい口調で私の言葉を訂正させる。

「"誰かを殺そうとして殺す者"と、"誰かを守るために死なせてしまった者"、両者の結果は同じでも、その心に根差す信念は全く違うのじゃ」

────先生の言っていることは、ぼーっとした頭の私にはうまく呑み込めなかった。
先生は叫びの屋敷に入り、事切れたラヴグズの姿を確認すると、「これはわしから魔法省に連絡しよう。君は家に帰り、温かいご飯を食べて、シャワーを浴びてしっかりと眠りなさい」と言った。

「先生、私────」
「イリス、騎士団に入るということは、こういうことなのじゃよ。よく覚えておきなさい」

もはや、それ以上私に何かを言わせる気はないようだった。
ダンブルドア先生はラヴグズを連れて、どこかへと姿くらまししてしまう。

「────騎士団に入るということは…こういうこと…」

私の脳には、いつまでもダンブルドア先生の言葉が反響していた。



[ 127/149 ]

[*prev] [next#]









×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -