その後、私達は医務室へと行き、それぞれのベッドで口を開くことを一切禁じられたまま一晩過ごすことになった。
黙っていると、どうしてもさっきまでの戦いを思い出してしまう。呪いの掛け合いなら今までにも幾度となくあったが、ああしてグループでかかってこられたものをこちらも集団で応戦するなんて────そんな、まるで"戦争"のようなことをしたのは初めてだった。

そして、初めて見たものがもうひとつ。
許されざる呪文をが禁忌指定になっている理由がよくわかった。────あんなもの、とても正気でかけられるような魔法じゃない。

そう思いながら、遠くのベッドで眠らされているのであろうスネイプのことを考えた。
彼はあの時、どう見ても正気じゃなかった。確かにクルーシオは、本気で相手を拷問しようとし、それを楽しむ気概すら持って放たなければ大した威力を発揮しないと聞いている。
スネイプに、本気でリリーを傷つけるつもりはなかったはずだ。期せずしてジェームズに当たってしまった時のあの最初の反応を見れば、それはわかる。だから彼の言っていた、"むしろ彼女を物理的に傷つけたくなかったからこそあの呪文を選んだ"という動機にも納得していた。一瞬だけムカムカするような気持ちにさせて、すぐ解放するつもりだったのだろう。

もちろん、そうは言っても禁忌呪文は禁忌呪文。スネイプを擁護するつもりは一切ない。
ただ、彼の行動原理は────元はと言えば、全てリリーに振り向いて欲しいという実に少年らしい淡い恋心だった。
リリーに見てほしい。リリーに自分のすごさをわかってほしい。

そんな彼にとって、ジェームズはどう映っていたんだろう。どこにいても目立って、みんなの人気者で、ヒーローと呼ばれるに相応しい姿へ成長していくジェームズ。そんな彼が、自分よりずっとずっと後にリリーのことを好きだなんて言い出して、その無垢さを失わないまま彼女にアピールをし始めた。
自分の方がずっと前からリリーのことを愛していたのに。自分の方がずっとリリーのことをよくわかっているのに。

擁護するつもりはない────が、どうしたってそのことを考えると悲しくなってしまうのだった。
スネイプは確かに頭が良い。実力もあるし、十分どんな分野でも活躍していけるほどの素質を持っているだろう。誰よりも愛情深く、そして狡猾である彼がスリザリンに選ばれたのは至極当たり前のことで────しかし、それが全ての過ちでもあった。

彼は、あまりに不器用すぎたのだ。
リリーに振り向いてほしいと思う彼にとって、"望むものを全て自分の手で手に入れてきた"ヴォルデモートの姿はどう映ったのだろう。ヴォルデモートこそ、スネイプにとっては"真のカリスマ"に見えたのではないだろうか。
スネイプがリリーを従わせたいと思っていたわけではないと思う。でも、全ての人が頭を垂れ、欲したものを簡単に手中に収めてしまうヴォルデモートの"偉業"は、当時何をしてもリリーの心が離れていくばかりと焦っていたスネイプにとってあまりにも眩しく映ってしまったのではないだろうか────闇が眩しく見えるだなんて、なんとも皮肉な話だ。

私はもちろん、ジェームズとリリーにはうまくいってほしいと願っている。私は最初からジェームズのこともリリーのことも好きだったし、スネイプとはうまくやれていなかったから。

でも────でも、何年も大切にしてきたリリーへの愛情という名の宝石がこんな形で壊れてしまうなんて────悲しいなんて言葉じゃとても言い表せないほど辛く苦しい思いに苛まれ、私は触れられるはずもない自分の心を掴むように、ぎゅっとシャツの胸元を握りしめた。

未成年達の平穏な学園生活でさえ平気でかき乱し、あろうことかまだ思想の定まっていないうちからそんな若者達を自分の配下に収めようとするヴォルデモート。彼のやり方を、とても許せるわけがない。スネイプも他のスリザリン生も、誰一人として根からの悪人などいなかったはずなのに、あんな風に私達と敵対させて────。会ったことも話したこともない、顔も本名も知らないような男に、私はただふつふつと怒りがこみ上げてくるのを感じていた。
そして私はベッドの中でひとり、静かに決心する。

もう迷わない。私は、徹底的に闇の勢力に抗ってみせる。

────そうなると、残る疑問がひとつ。

ホグワーツ内でヴォルデモートの指示を受けていた首謀者が、誰だかわからないままだ。

「どうしてあいつなんかが首謀者になるんだ。どうしてあいつなんかが僕より先に闇の帝王のお手を取りに行くことが許されるんだ。僕はただ、僕のことを見て欲しいだけなのに────」

スネイプは、自分がリーダーでないことを自白した。そしてあの言い方は、あの場に誰も首謀者がいないことをはっきりと示していた。だってあそこにリーダーがいたなら、スリザリングループに指示を出すなり、それこそスネイプと言い争うなり、誰かしらに何かしらの"リーダーとしての行動"が表れるはずなのだから。

────まだ、誰かいるの?
ここにきてなお顔を見せない、ヴォルデモートの手を取りに行く、闇の魔法使いが。

しかしその時、マダム・ポンフリーが私のベッドを訪ね、睡眠薬を調合して飲ませに来てしまった。飲むまで立ち去らない様子だったので、仕方なく私も考え事を一旦諦め、その水薬を口に含む。

効果は抜群だった。私は1秒数える前に、深い深い眠りへと落ちていったのだった。










翌日、比較的軽傷だった私とシリウスが校長室に呼び出された。
リーマスとピーターは既にマクゴナガル先生に自分の知っている範囲のことを話し終えていたらしい。戦いに加わっていない以上校長室でわざわざ報告するようなことはない、ということだろうか。
リリーは外傷こそ少なかったものの、心の傷がひどかった。朝起きてもまだ涙の止まっていない彼女に、マダム・ポンフリーは外出を許可しなかった。ジェームズは逆に心だけ元気だったものの、呪いの効果なのかまだ体を自由に動かせないようで、こちらも外出禁止。

「どこまで話す?」

校長室への道すがら、シリウスに尋ねられた。

「全部話すよ」
「スネイプが"クルーシオ"を使ったこともか?」

私は一旦立ち止まり、シリウスの顔を見た。いつも通り何の表情も浮かんでいないその顔を見て────私はなぜ彼がここでわざわざスネイプの名前を出したのか、考える。

「じゃあシリウスは言わないの? バナマンが死の呪いをかけてきたこと」
「言うさ。それとこれとは別だ」
「別、って?」
「君がスネイプに肩入れしてないことは最初からわかってる。でも────君は、エバンズの親友だろ」

ああ────そういうことか。
彼はスネイプの心配をしていたわけじゃない。スネイプにとって不利なことを言ってまたリリーが心を痛めるのではないかと案じている私を心配してくれていたのだ。

「なんだ、君もスニベルスの肩を持つのか?」
「そうじゃない。私はリリーに傷ついてほしくないんだよね」


3年生の時、シリウスと交わした会話を思い出す。なんだかもう、随分と昔のことのように思えるが────あの頃はまだシリウスに、そこまで気遣える余裕はなかった。私にも、そこまでの覚悟を持つことはできなかった。

あれから私達は、すっかり変わってしまった気がする。自分の心の成長もそうだし、互いの身の回りの人間関係も────そうだ。
もうあの頃とは、何もかもが違う。シリウスが私のことを心配してくれるのは嬉しいが、そういうことなら尚更、ここで私がこれ以上迷うわけにはいかなかった。

「────リリーはもうとっくに、スネイプのことを庇うことをやめてるよ。昨日…あの子自身でその最後の情も断ち切ったと思う。だから────私も誰かを心配することはやめて、全部話す。それに、ダンブルドア先生に嘘や隠し事をしても無駄なんでしょ?

最後に少しだけ冗談めかして言うと、シリウスは溜息とも微笑みともつかない吐息を漏らした。「そういうことなら、僕も全部話すよ」と言ったところで、校長室の前に到着する。

ダンブルドア先生は、顔中に深い皺を刻ませて、深刻そうな表情で背の高い椅子に座っていた。入室した私達にいつも通りホットミルクを出し、「昨日は本当に大変じゃったのう」と私達を労ってくれているが、なぜか一番疲れているのは先生自身のように見えた。

「君達にとっても相当なショックだったじゃろうが────もはやここまでのことが起きておきながら、君達を"無関係"と切り捨てて、すぐにふかふかのベッドに返してあげることはできなんだ。事の"起こり"はリーマス達から既に聞いておるから、シリウス、イリス、どうかあの場で"何が起きて、どう終わったのか"を教えてくれぬか」

私とシリウスは一度視線を合わせ、それから昨夜起きた全てのことを話した。
誰と誰が杖を向け合っていたのか。誰が何の呪いで誰を動けなくしたのか。
スネイプがリリーに何をしようとして、そしてリリーがそんな彼に何をしたのか────。

「────ふむ」

血相を変えてマクゴナガル先生が現れたところまで話すと、ダンブルドア先生が深い溜息をついた。

「よくわかった。突然の襲撃に、慣れていない戦闘────君達は、またしてもよくやってくれた。自らの正義を決して折ることなく、闇の魔法に立ち向かってくれたことに、わしは心からの敬意を表したい」

それはありがたいことなのだが、今私が欲しい言葉はそんなものではなかった。もちろんダンブルドア先生だってそんなことは百も承知で、それでもなお私達を変わらず"守られるべき学生"の立場として扱おうとしているだけなのだろうが。

でも、「ここまでのことが起きておきながら無関係とは切り捨てられない」と────私達を"当事者"だと思うのなら、私は先生の話も聞きたかった。

────結局首謀者は誰で、どのようにヴォルデモートからの指示を受け、そして首謀者の命令で動いていた彼らがどうなるのか、ということを────。

「さて、君達が勇気をもってここまでしてきたことを全て話してくれた以上、わしも相応の誠意で応えねばなるまい。君達は知りたいと思うじゃろう、これは一体誰の計画で、関わった者がどうなるのかということを」

私の頭の中を全て見透かされているようだった。私とシリウスの「はい」という返事を待つ間、ダンブルドア先生がその皺だらけの脳みそでどこまでの情報を開示すべきか考えているような、そんな錯覚に陥る。

「────今回の件に関わった者の処遇は、本人達の話を聞いてから判断する予定じゃ。だからそれまでは待っていてほしい。そして、あのグループを率いた者についてじゃが、あそこには必ず誰か1人、リーダーと呼ばれる存在がいることだけならわかっておる。ただ、それが誰かということとなると────わしの勝手で君達にこの推測を聞かせることはできないのじゃ、すまぬ」

────そして得られた答えは、"無"だった。

私達は全てを話した。向かい来るもの全てを無効化し、その上で然るべきところに報告だってした。私達には私達のできることを、できる限りの力をもってやったのだ。

それに対する見返りが、結局「加害者側と話すだけ(おそらくまた彼らは"ホグワーツ規格"での罰だけ受けて放免されるのだろう)、首謀者の名は明らかにしない」という、何も事態を進展させない、情報とすら言えない情報だけ。

やり場のない気持ちがこみ上げる。当事者だと認められておきながら、まだ私達は事件の蚊帳の外だと言われているようだった。

「────しかし」

そんな私の心中をどう思ったか、ダンブルドア先生は話を続けた。

「この件については、学生同士の喧嘩の枠を超えたと判断し────わしも、騎士団を動かして鋭意調査中じゃ。…騎士団の存在は、2人とも知っておるな?」

突然先生の口から「騎士団」という言葉が飛び出し、私はつい顔を上げてしまった。そして同時にそれによって、今まで自分がずっと唇を噛み締めたまま俯いていたことにも気づいた。

騎士団って、世間一般には存在を隠された秘密結社じゃなかったっけ?
良いの? そんなに簡単に名前を出して。それとも私達が"当事者"であることの見返りが、その存在の開示だということ?

「し…知ってます」
「知ってます」

思わず狼狽えた私に対して、まるでそんなことは当たり前だと言わんばかりに毅然とした態度で答えるシリウス。私達の反応を見て、ダンブルドア先生は「うむ」と一息入れて、再び口を開いた。

「今回、彼らが君達を襲撃したことが、彼らの独断によるものなのか、それともヴォルデモートの指示を受けてのことなのか、それは未だ調査中としか言えぬ。しかしイリス、シリウス、騎士団は確実にヴォルデモートの企みを阻止するため、ホグワーツの警備を固めておる。辛い目に遭ったばかりで安心しておくれと言うのは心苦しいが…大人の魔法使い達も、君達と同じくらい全力で闇の魔法に抗っておると、それだけはどうか理解しておくれ」

「はい」と素直に言葉にできたかどうか、わからなかった。
必要以上に首を突っ込むなと言っておいて、何かに巻き込まれた時には煙に巻かれる。そりゃあ、私にできることなんて何もないとは思っていた。できる範囲内でこの人の力になろうと、バレンタインの頃にはそんなことだって思っていた。

でも、騎士団の防御網の中に入る前に、私達は敵の攻撃に晒されている。
まだ子供だからと、たったそれだけの理由でいつ来るとも知れない味方を待つのって、なんだかとても滑稽なのではないだろうか。

たとえ直接ヴォルデモートと対峙するだけの力がないとしても────敵が同格の生徒であるというのなら、私達にだって同じだけの"指示"があっても良いんじゃないだろうか。
いや、そこで"指示"を待ってるから、私はまだ子供って言われるのかな。

ダンブルドア先生と話す度に極端に振りきれる自分の"どこまでやれるのか"というバロメーターが、迷うように「自分もこの戦いに参加させろ」と「出過ぎた真似はしないと約束します」の間でふるふる震えていた。

「何よりわしは今、それ以上に君達を"標的"にさせてしまったことを深く悔いておるのじゃ。────だからイリス、シリウス、君達の判断次第にはなるが、今後のことを相談したい」

すると、先生は私達の名前を改めて呼び、そんなことを言い出した。

「相談…?」

訊き返した私に「さよう」と頷くと、ダンブルドア先生は2本の指を立てた。

「当然、学校にいる間は先生方が常に君達を守れるよう、より一層注意の目を光らせるように言っておくつもりじゃ。それが"教師"と"生徒"の権利と義務じゃからのう。ただ今後────この学校を卒業した後は、どうしたいかね? 同じように強力な魔法使いの警護下で安全な暮らしを送るか、それとも危険に身を投じて────騎士団のメンバーに肩を並べ、積極的に闇の力を打ち砕きに行くか。君達がわしの元を離れた後の在り方について、もはやわしに決める権利はない。君達自身に選んで欲しいのじゃ。わしらには、そのどちらを選んでも応えられるだけの準備がある」

"安全"を取るか、"危険"をとるか。
まだ学生という不安定な立場である私達に、ダンブルドア先生は2つの道を指し示した。
こうなってしまった以上、私達はただ歩いているだけでこれまで以上に邪悪で強力な敵から狙われ続けるのだろう。それが変えられないというのなら、"守り"と"攻め"のどちらを選んで生きて行くか、私達は選ばなければならない。"そもそも問題に関わらない"という道は選べないのだ。

────なるほど、だから"当事者"か。
だから私達を、もう無関係だと言って、もはや安全が保障されていない校長室の外に勝手に帰すことができなかったのか。

でも、待って。
今の先生の言葉って、それじゃまるで────。

「僕達が、騎士団に入れるということですか」

私の疑問を声に出したのは、シリウスだった。心なしか、その声に希望のきらめきが宿っているような気がする。

「それとも危険に身を投じて────騎士団のメンバーと肩を並べ、積極的に闇の力を打ち砕きに行くか」

それは明確な"入団の勧誘"だった。"危険"を選び、"攻める"ことを選ぶというのなら、騎士団と共に在ろうと────そう、誘われていた。

「そうじゃ。もちろん未成年、および学生である間は流石に騎士団の仕事を任せるわけにはいかぬが────。君達は昨日、大人の魔法使いでさえ手こずるような戦いに見事打ち克ってみせた。その功績を讃えることはあれど、謗ることはできまい。君達がゴドリック・グリフィンドールの名に相応しい勇気と気高さを持っていることも承知しておる。だからわしは、君達が安全を望むのなら最大限そのようにしてやりたいし、もし安全を捨ててでも闇の力を戦いたいと言うてくれるのなら────」
「騎士団に入ります」
「僕もです」

私達の判断は────考える瞬間もないほど、ほぼ本能的なまでの速さで決まった。

「過去を追うだけじゃダメだ。かといって、根拠もないことに怯えてたって仕方ない。僕は、真実を知り、予想しうる未来に備えて、戦いたい。君と同じだよ、イリス。僕だって、僕の嫌うものに真っ向から反対したいんだ。確かに不死鳥の騎士団が具体的に何をしてるのかは知らない。でも、何をしたがっているのかはよくわかってる。だから僕はあそこへ行くんだ。せっかく生まれてきたんなら、僕が良いと思う世界を取り返すために、僕の命を使いたいんだ」

夏休みの間、真夜中のデートに連れ出してくれたシリウスは、夜空の明かりを一身に集めてそう言った。

私だってそうだ。
自分の最も忌み嫌うもの。自分が許せないものには徹底的に対抗していくと、そう心に決めて────そういう生き方を、もうとっくの昔に選んでいた。

昨日の戦闘があって、ようやく心が固まった。
まだ大人の世界の、本物の戦争を知らない私に何ができるだろうと悩んだこともあったが────なんてことはない、ただ私は"そこにある悪"に"ここにいる善"を持ってただ突っ込めば良いだけなのだから。それに私には、このブレスレットがある。このブレスレットが守っていてくれる限り、私は無敵なのだ。何も、恐れることなどない。

私達の表情を見たダンブルドア先生が、初めて微笑んだ。

「そうは言うても、まだ騎士団はちゃんとした組織として機能できていない。君達が一番知りたいであろう情報を、そして今の君達が最も必要とすべき身の安全を、外部から確保できないのはそのせいじゃ。しかしもし君達が来年卒業して、まだその意思を変えずにいてくれるのなら────その時こそ、全ての知と力を結集して、正式な"不死鳥の騎士団"を創設するメンバーとなっておくれ」

それから先生は、これから話を聞くスリザリン生達の発言如何によっては退学させる"可能性"もあることを伝えた。本来であれば生徒に許されざる呪文を使った時点でホグワーツから退学させるべきではあるが、それが彼らの意思ではなく────つまりヴォルデモートに操られていたりした場合は、彼らもまたヴォルデモートの"被害者"として、卒業するまではホグワーツで守らなければならないことを理解してほしい、と付け添えたのだ。

「────未成年や学生という、まだ頭の柔らかい時期を過ごす子供は非常に繊細なのじゃ。君達のように固い志を持って自らの敵と相対する者もおれば、自分の意思や希望など関係ないままに気づいたら"他人の計画の片棒を担がされていた"ということもよくある。君達にとっては全員退学させても気が済まないかもしれぬが────教師として、わしは第一に生徒を守らねばならないのじゃよ」

ただ単に迫りくる脅威から守るだけなのではなく。
自らの意思と関係なく悪事に手を染めさせられた"害意のない加害者"も守り、矯正していかなければならないのだと。

ダンブルドア先生はそう最後に言って、私達を退室させた。

「────あの中に、本当は私達に杖なんて向けたくなかったなんて人、いると思う?」
「さあ、首謀者が何て言ったか次第なんじゃないのか」

シリウスは珍しく、ダンブルドア先生の意見に賛成しているようだった。こういう時なら、いの一番に「全員退学させろ」デモでも始めそうなものなのに。
まあ、私より余程"大人の世界"を知っているシリウスのことだ、ダンブルドア先生の言うことにも一理あると、ちゃんと理解したのかもしれない。

「少なくともスネイプはエバンズに杖を向けたくなかっただろうな。そのせいで後から飛び出たプロングズに倍以上の呪いをかけたわけだから、害意がないとは言わせないけど」
「まあ…うん、そうだね」
「それより、ダンブルドアから直々に騎士団入団のオファーが来たんだぞ。まずはそれを喜ぼうではないか、同志よ」

卒業後、騎士団という謎の組織に入って闇の魔法使いと戦う自分────。
今まで想像していながらも、どこか空想の一部と思い込んでいたそんな未来が、初めて指先を実体のあるものとしてかすめたような、そんな気がして────私は、ここに来てまたひとつ"自分の生き方"が定まっていく感覚を味わった。

それはとても苦くて、酸っぱくて、でも少しだけ甘いような────そんな不思議な感覚だった。



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