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 今はまだ(twst・トレイ)


 ※監督生設定


 今日の授業も終わり、残すは部活のみになった。今日のサイエンス部の活動はまず、植物の世話と経過観察だ。日に日に赤く熟れていっている苺の様子を見るのが楽しみだと植物園へ向かう途中、「トレイ先輩!」と高い声に呼ばれて振り返ると、見知った少女が小走りに駆け寄ってきた。
「こんにちは、お疲れさまです」
「ああ、お疲れ。なまえ」
 こうやって俺の顔を見るなり向かってくる所や、しっかりとお辞儀をするところが可愛らしい。後輩にこれだけ分かりやすく慕われてるとやはり嬉しいし、下の兄弟がいる自分としては尚更だ。
 おまけに、この少女は何かにつけてトラブルに巻き込まれる質なので、ますます目を掛けてしまう。
 互いに挨拶すると、ふといつも連れている相棒が不在なことに気付いた。最も、彼女にこの言葉を言うと複雑そうな顔をされるが。
「そういえばグリムの奴はどうした? 姿が見えないが……」
「六限目の魔法史で寝てたので、トレイン先生に呼び出されてそのまま……今頃はこってり絞られてると思いますよ」
 頭の中で容易に想像できた光景に思わず笑ってしまう。きっとなまえは何度も起こしたんだろうが、グリムがそのたびに舟を漕いでいたんだろう。相変わらず大変そうだなと労うと「本当ですよ、でも今日はとばっちり受けなかったんで早く帰れます」と、にやり顔を見せた。
「エースとデュースもいないんだな……ならせっかくだし、寮まで俺が送って行こう」
 幸い、なまえの住むオンボロ寮は学園と近いし、部活に遅れることもないだろう。そして寮が近いと言えど、女の子をひとりにするというのは忍びない。
 案の定、申し訳ないと提案を断ってきたが、俺がしたいだけだから気にしないでほしいと諭すと「じゃあお言葉に甘えて……ありがとうございます、トレイ先輩」とまたお辞儀をした。
 他愛もない話をしながら並んで歩いていると、窓側にいたなまえがふと足を止める。忘れ物でもしたのかと聞くと
「あれ、何してるんだろうなって……」
 指差す先を見ると、中庭と青緑色の頭が目に入る。
 顔は見えないが、おそらくジェイドであろう人物がテーブルにカップを並べていた。彼の所属するオクタヴィネル寮はカフェを経営しているからその為の試作だろう。自分もなんでもない日のパーティーが近くなると、作るケーキに合う紅茶を探す目的で何杯か淹れるから。
 その事を説明するとなるほど、と納得したように何度か頷いた。
「紅茶って茶葉によって量も蒸らし時間も変わりますもんね」
「よく知ってるな」
「えへへ……好きなんですよ。あ、そういえばモストロ・ラウンジに珍しい茶葉が入ったって聞いたなあ、今度飲みに行こうかな」
 その言葉を聞いた瞬間、俺以外の人間が作ったお菓子や紅茶を口にするのを想像しただけで吐き気を覚えて眉をひそめてしまい、彼女が俺の方を見ていなくてよかったと安堵する。
「あまりこういう言い方はよろしくないけど、アズールの事だ。いくら珍しい紅茶といえどぼったくりに近い価格だと思うぞ?」
 少なからず彼がどんな男が知っているんだろう、顔を青くしながら「確かに……」と項垂れた姿に罪悪感を覚えないわけではないが、背に腹はかえられない。
「わざわざ金を払って行かなくても、うちの寮に来れば紅茶なら淹れるしケーキも好きなのを俺が作るよ、な?」
 物で釣るという幼稚な行為をしてでも止めたかった。
 行ってほしくない。やめてくれ。そう祈りながら必死で笑顔を作る。
「本当ですか!?」
 先ほどのつぶやきなんてなかったかのように、目を輝かせて何をリクエストしようかと思案する姿にほっとしていると「ふふっ」となまえから笑みがこぼれた。
「どうした?」
「トレイ先輩ってお兄ちゃんみたいだなって。優しくて頼りになりますし」
 俺を見て、俺の事で笑ってくれる。たったそれだけで渦巻いていた汚泥のような気持ちが消え、心が軽くなる。なのになまえのその言葉に心臓を鷲掴みにされたように胸が苦しくなった。
 ああ、そうか。俺はこの子の事を妹のようになんて見ちゃいなかったんだ。
 庇護欲? って言うんですかね、いつも本当にありがとうございますなんて無邪気に笑うお前に抱いてるこの感情の正体が、そんな暖かな類でない事は今はまだ知らなくていい。

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