小説 | ナノ

Main
[ name change ]

 キスの日(白猫・アレン)


 独りで過ごすのが当たり前だった日々に、一人の女が入り込み。女を連れて毎日野宿するのはと思い、たまにだが宿屋を使うようになり。その彼女と未だにベッドこそ別にしているが、同じ部屋で寝泊まりするようになって、はや数ヶ月。
 そろそろ寝るかと電気を消そうとしたところ、名を呼ばれた。何かと思えば、「今日ってキスの日なんだよ」と一言。
「それがどうした。なんだ急に」
「たまには、アレンくんからキスしてくれないかなーって」
「くだらん。いいから早く寝ろ」
 要求を一蹴し、再び消灯しようとすれば、耳元でわあわあ喚かれる。
「ちょっとくらい良いでしょー! ねえねえアレンくんってばー!」
「うるさい、騒ぐな! すればいいんだろう、すれば!!」
 確かに、思えばいつもキスをするのは、なまえからだった。
 笑みなど浮かべながら、俺からの口づけを今か今かと待つコイツは、きっと俺が唇にするなどと思っていないだろう。そう思ったら無性に腹が立ってきて、たまには驚いた顔を見てやろう。そう思った。
 重ねた唇は柔く、ほんのり熱い。掴んだ腕は下手に力を入れたら、きっと折ってしまいそうなほど。
(なんて、か弱い)
 触れる程度のはずだったものが二度、三度と口づける内に変化していく。噛み付くように。角度も変えて。
 もう少しキスがしやすいように、掴んでいた肩をシーツに押し付けるようにする。
「……へ?」
 戸惑うような声がしたが、今の俺にはどうでも良かった。覆いかぶさり、そのまま貪っていく。
 欲しい。もっとだ。
「んっ、アレ……ん……はあ……っ」
 次に唇を離した時、正面にいたはずのなまえは俺の下にいた。かすかに、涙が浮かんでいるようにも見える。
「あれん、くん、」
 普段からは想像できないほどの震える声。
 俺は自分が何をしでかしたのか理解し、あいつが制止する声も聞かず、部屋を飛び出した。

 身体中の熱を冷ましてくれるかのように、風が吹いている。
 この島は観光業が盛んだ。そのうえ、ここは繁華街。夜遅くでも、いまだ無数の光が夜を照らしていおり、すれ違う人の笑い声も耳に入る。
その喧騒がひどく煩わしかった。一人になりたくて人波を避けるように歩くものの、それが叶わない。
 しかし、今すぐに部屋に戻るのは気が引けた。それほどまでに、制御できない己の存在がたまらなく恐ろしかったのだ。
 三十分ほど街を歩き、部屋に戻ると既に電気は消されていた。片方のベッドが盛り上がっている。それもそうだろう。既に日付は変わっていた。
音を立てないように細心の注意を払い、空いたベッドに腰掛けたその時。
「アレンくん」
「っ!? お、起きていたならそう言え!」
「えっ、ごめん……あ、あの……さっきの事なんだけど」
「ああ、すまなかった。その……上手く言えないが、あの場には俺の知らない俺がいた。これ以上、お前に何かしてしまうのではないかと思うと、恐ろしかった。本当に悪い事をした」
「えっ!? いやいや、元はと言えば、私が変なわがまま言い出したからで……私の方こそごめんなさい。だから――もう一度、キスしてくれる?」
 返事の代わりに顔を近付けていく。先ほどの奪うようなそれでない。たった一瞬だけ、あのやわらかく、温かな感触がした。
 唇を離し、目を開けると、見上げるなまえが微笑んでいた。
「ありがとう。おやすみ、アレンくん」
「ああ、おやすみ。なまえ」

[ back to top ]




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -