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 それはやがて、花開く(黒ウィズ・ヴィレス)


 ソウルバンカーオールキャラ夢。ヴィレス寄り。


 定時まであと十数分。
 今日の業務を終えれば、ルダンは暫く休暇を取る。
 久々の長い休みだ、何をしようか。どこかへ観光に行き、普段は足を運べない風景を堪能するもよし、気になっていた映画を片っ端から見て物語に耽溺するもよし。
 まだ仕事中だが夢想するくらいはいいだろうと、明日からの予定に思いを馳せる。
「ルダン、元気にしてた?」
 そしてたった今、それは壊された。
「ちょっと、人の顔見るなり失礼じゃない?」
 目の前の女は不服そうな声を上げる。実際、今のルダンはまさに苦虫を噛み潰したような気分だった。上司の友人とはいえ、彼は彼女が嫌いだったから。
 やたら胸元や足を出したドレス。踏まれでもしたら穴が開きそうなピンヒール。ホルスターに付けた拳銃。その何もかも。
「あら、ごきげんようなまえさん。お久しぶりですね」
 奥から出てきたのは年端も行かぬ少女。
 しかし落ち着いた声色と溢れ出る気品の良さは到底、齢十二のそれではない。
 彼女こそがこの幻想銀行ローカパーラを取り仕切る頭取こと、ヤーシャラージャ・ローカパーラである。
「ごきげんよう、頭取。仕事の帰りについ立ち寄ってしまいました。突然のご無礼をどうかお許しください」
 なまえが恭しくお辞儀し、頭を上げようとした瞬間。
 見計らったように、背後から音もなく頸を挟まんと二刀が交わろうとする。それより速く屈み、そのまま背後に回り込んだ。その軌道を追うように、相手もまるで左腕を鞭のようにしならせる。頸動脈すれすれに刃が触れ、眉間に銃口が当てられたのは同時だった。
 彼女に撃つ気はない。
 だが銃を突き付けられているというのに、男は事も無げに嗤う。
「おやおや、また失敗してしまいましたか。残念ですねぇ」
「出会い頭に頸を刎ねようとしないでって何度言えば分かるのかしら、サージュ」
 そう呼ばれた男は「お久しぶりです、なまえさん」と挨拶した。
 サージュ・ソネガン。
 ローカパーラの人事部に所属しており、銀行員としての素質を持つ者をスカウトしている。彼の得物で頸を刎ねられると、その身柄を【差し押さえ】られてしまうため、立ち寄るたびにこうして頸を狙ってくるのだ。文字通りのヘッドハンティングである。
 先ほどから行内で暴れるな、その物騒な物を早くしまえというルダンの小言を無視しながら世間話に花を咲かせていると、ふとサージュが尋ねてきた。
「そういえば貴女、うちの新入りにはお会いしました? なかなか面白い人達ですよ」
「へえ、新入り……結構久しぶりなのでは?」
 ヤーシャラージャの方を向く。彼女は女神のような慈愛に満ちた笑みを湛え、同意した。
「お二人にもなまえさんをご紹介したいですし、呼びましょうか。……ヴィレスさん、ラシュリィさん。一度戻ってきて頂けますか?」

「先日から銀行員として務めております、ヴィレス・ニュナンと申します」
「同じく、ラシュリィ・ミスクと申します」
 優雅な仕草で、二人並んで一礼する。男の方は端正な顔立ちで見るからに紳士的、女の方も大層な美女であり、常に微笑みを浮かべている。どちらも物腰が柔らかく丁寧だ。
「初めまして。ヴィレスとラシュリィね、なまえよ。どうぞよろしく」
「彼女は私の友人です。稀にですが、共に業務をお手伝い頂く事もありますので是非、仲良くしてくださいね」
「左様ですか……」
ヴィレスが彼女の上から下まで見つめていると、隣のラシュリィに「初対面の方に失礼ですよ」と窘められた。
 派手な見た目の女ではある。身長もそこそこあるし、手足も長い。
 しかし、ヴィレスからしたら彼女は細すぎて、とても腕が立つようには見えなかった。武器もホルスターに下げている拳銃くらいだ。
 最も、それを言ったら彼の仕事仲間であるラシュリィもであるが。
「ええ、先ほどもサージュさんと大立ち回りを演じていまして」
「全く、調度品が壊れでもしたらどうするつもりだ……」
 楽しげに言うヤーシャラージャに対し、ルダンは今日何度目かの溜息を吐いた。
 その言葉でヴィレスの中で関心が生まれた。
 自分ですらサージュの刃を躱す事が出来ず、身柄を拘束されたというのに、だ。
「まあ、これでも私は殺しを生業にしてるから。暗殺者ってやつ」
 この言葉で、ますます彼の関心の芽が大きくなる。
 ヴィレスは元・殺人犯だ。彼女は彼の殺人対象である、どうしようもないほどの善人では決してない。
 しかし、思ってしまったのだ。
 彼女と本気で戦ったらどうなるだろう、と。
「なまえさん。わたくし、貴女に興味が湧きました」
「は……?」
 ヴィレス以外の誰もが、呆気に取られた顔をする。
 彼の些細な興味がやがて別の形となり、昇華されることをこの場にいる誰もがまだ知らない。

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