届かない恋(HQ・及川)
※デフォで姉さん呼びのため、地の文のみにしか名前変換がありません。
「おねえちゃんっ」
「ふふっ、なあに? とおるはあまえんぼうね」
夢を見た。小さいころの自分と姉の夢。
及川徹は姉である名前に懐いていた。
しかしそう思っているの当の彼女や家族、周りの人間だけで徹自身が名前に抱くそれは姉弟のとしてのものではない。
我ながら不毛な恋だと自嘲する。
名前への恋心を消し去ろうとしたことはもちろんあった。許される感情ではないという自覚もある。
例えばよく似た女性や、敢えて真逆の女性と付き合ってみたり。距離を置くために部活以外でも外出の機会を増やしたり。
それでもふとした瞬間に名前の顔がちらついたり、どこか比較してしまったりして長続きせず、現在に至る。
また眠って、思考停止してしまおうかとベッドに寝転がると控えめなノック音が聞こえた。
「......何?」
「徹? 今、大丈夫?」
心地よくて甘い声。誰か分からないわけがない。
「いいよ姉さん、入って」
名前を招き入れ、しばらくは自分の部活の話や名前の職場の話など他愛もない話をした。
しかし彼女が夜遅くに自分の部屋に来るときは、決まって何か悩み事や大事な話をするときなのだ。
「で、どうしたの。姉さん?」
「あの......実はね、」
紹介したい人がいて。
「それでね、先に徹には話しておきたくて。姉さん、徹が一番信頼できるから」
ほんのり頬を染めて少しだけ恥ずかしそうな姉の笑顔。
それは、ずっと名前の一番近くにいた徹が初めて見た顔だ。
その瞬間、徹は目の前にいる彼女がもう追いつけないほどに遠くへ行ってしまったのだと実感した。
一番信頼できる。
大好きな姉からの嬉しい言葉のはずなのに、その言葉はまるで傷口の上からさらに傷を付けるように徹の心を抉って。
「徹? 眠いの?」
呆けていると思われたのか目の前でひらひらと振られる手。
「......姉さん」
「ん?」
「幸せに、なってね」
「ありがとう、大好きよ徹」
名前は、先ほど徹が夢に見たままの笑顔を浮かべていた。
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