そらのいろ、うみのいろ、ふたりのいろ(白黒因子・賢吾)



※生存かつ、数年経った設定


 携帯の着信音で起こされた早朝。眠気まなこで確認すると、メールがひとつ。
 差出人は浅村賢吾。件名はなし。
 本文は暇ならデートしたい、との事。
 他の人間なら二度寝の体制に入っていただろうけれど、かくして私こと名前は彼氏からのメールによって、のろのろと身支度を開始したのであった。

「ごめん待った!?」
 今日は暑い。とてつもなく暑い。まだ陽が昇ってそんなに時間は経っていないはずなのに、すでに目の前の賢吾は所々、服の色が変わっている程度には汗びっしょりだ。
 何もこんな日に自転車で家まで来なくてもいいのにご苦労な事だと思う。おまけにこんな事まで言い出した。
「後ろ乗って!」
 ニケツというものである。
 渋い顔をしたのがばれたのか、嫌ならいいよと眉を下げて申し訳なさそうに言うものだからつい、仕方ないなあとため息をつくとしょんぼりとしていたのが一変して目がきらきらと輝き出して。
 犬の尻尾が生えていたらきっと、千切れそうな勢いで振ってそうだなと思うと同時に、つくづく私は賢吾に甘いなあと心の中でまた、ため息をついた。
 荷台に跨って目の前の広くて大きな背中にぴったりとくっつく。もちろん、お腹に手を回すのもセットで。私が掴まったのを確認すると、ペダルをしっかりと踏んで車輪が前へ前へと進み出し、やがて風を感じるほどに加速する。
(もっと生温い風かと思ったけど……)
 予想と違って感じるそれはとても心地いい。
 この後はぐんぐん目の前の景色が通り過ぎていって。
この後は休憩がてら、アイスを買って日陰で食べたり野良猫と遊んでみたり。
 気づいたらもうすっかりと青空は橙色へと変わっていた。
 そして最後に来たのは、海。
 砂浜に座ってぼうっとどこまでも続くそれを眺めたり、寄せてくる波に足を浸してみたり、水のかけ合いっこをしてみたり。
 夏の陽が落ちるのは私達が思っているよりずっと早くて、すぐに空には星が広がって。
「帰ろっか」
「だな!」
停めてあった自転車まで向かおうとした時、
「名前!」
 名前を呼ばれるのと同時に手を握られて思わず振り返る。
 その先には顔が赤くなった賢吾。
「あの、俺! えっと……上手く言えないんだけど、その……お前の手、もう絶対離したりしないから! だから、俺と結婚してください!!」
 真っ直ぐで素直な彼の言葉はいつも私の心に届く。
 だから、私の答えはもう決まってる。
「私の事、幸せにしてね。賢吾」





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