美しい漆黒の髪は、彼女が動くのに連動してなびいた。吐息を奏でるその唇が、いとおしくてたまらない。肌は、触れてはならないほどになめらかだ。猫のように擦り寄ってくる彼女を、俺は決して戒めたりしない。 だって、今日は…
「俺の誕生日だからね」 「うん、おめでとう」 「ありがとう。じゃあ、早速行こうか」 「え?行くってどこに?」 「何言ってるの。まあ、お前がいい子にしてれば、天国に連れていってあげるよ」 「……結構です」 「遠慮はいらないから」 「いや!遠慮じゃなくて!」 「え?なに?彼氏の誕生日を祝えないっていうの?」 「…祝えます」 「なら話は早いな。ほら、ゴートゥーベッド」 「ノーセンキュー」 「チッ…」
何をそんなに拒否られなきゃいけないのか、俺にはわからないけどさ。何も初めてじゃないんだし。とにかく、ケーキもいいけど、誕生日プレゼントがないっていうのはいただけないよね。プレゼントあるなら「ほら、プレゼントはこっちだから!」とか言って拒否されるのは納得だけど。
「プレゼントなくしたの、誰だっけ?」 「それは……」 「ん?だ れ だ っ け?」 「わわわたしです!」 「ハァ、今日はお前の愛しい愛しい素敵な彼氏の誕生日だよね?お前にとっては1年のうちで最も大事なイベント。お前と同じように、俺も今日が来るのを、首を長ーくして楽しみに待ってたんだよ?なのに…プレゼントなくしたって、どんな仕打ちかな?というか、なくしたとか、ありえないよね。彼氏への誕生日プレゼントっていうのは、1日中、肌身離さず持っておくものじゃない?」 「(大袈裟な…)ごめんなさい」
視線を四方八方に飛ばしながら謝られても、誠意が全く感じられないや。とは思いつつも、この子がプレゼントなくしたって…ドジだしマヌケなのは認めるけど、なくすなんて普通にありえないだろ。まぁ、この子B組だし、誰が何したかなんて、目に見えてるんだよね。
「というわけで、身も心も俺にプレゼント。ってことでいいよね?」 「え…」 「い い よ ね ?」 「ゆ、幸村様!それだけは!」 「何?今日はそーゆープレイ?ハハ、嬉しいなあ」 「ちょっ、ほんとに…」 「うるさい口は塞いであげないとね」
ちゅ、 隣にいた彼女の肩を引き寄せて、可愛いキスを贈る。今日は俺の誕生日だけど、この子はいつも俺に笑顔だとか、幸せを贈ってくれるから、そのお返し。フフ、と笑うと恥ずかしそうに顔を背けられた。本当に、恥ずかしいんだろうなぁ。だって、拒まない。耳まで真っ赤だけど、彼女は決して「イヤ」だなんて言わなかった。こうなることが望みだったのか?少なくとも、プレゼントを盗んだ犯人には美味しい展開だと思う。
「…んっ、」 「…可愛いな、お前」 「待って、精市」 「ヤダ」 「ちょっとだけ」 「ねぇ、こっち向いて」 「待ってほんとに。すごく大事なことなの」 「……なに?」 「お、おめでと…」 「あ…」 「本当に、生まれてきてくれて、ありがと」 「……」 「いつも傍にいてくれて、ありがと」
全く、何言ってるんだ、この子は。お礼を言うべきなのは、俺の方なのに。泣きそうな瞳に滑らせた手は、彼女の頬と同じくらい、火照っていた。驚いた。俺がどれほど、お前を欲しがっているか、改めて気付かされた。見たい、聞きたい、触れたい。そんな衝動は、簡単に俺と彼女を侵していく。愛しい言葉を紡ぎだす唇を、全部俺のものにしたときは、奥まで、もっと奥まで、彼女が欲しくなっていた。眉をひそめて、後を追って、俺の気持ちを必死で受け止めてくれる。溜め息でさえも、熱い。好きという彼女の言葉は俺の核心をついた。チロリ、 赤い舌が覗いたとき、俺はローソクと共に、理性を火を吹き消す。
Innocent 090305
幸村様のお誕生日をエロチックにお祝いしよう!という素敵な企画DIVA様に提出です。
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