「お前、ほんとドジ」
「は?」
「は?じゃねぇよ。定期落としたんだろぃ?」
「えっ…なんで?」
「知ってんのかって?」
「うん、」
「ほら」



朝、落としたはずの定期券が、何故かブン太の手の中なかにあった。駅から学校に着くまでの道のりで落とし、気付いてまだ、5分も経っていないだろう。学生、ましてや中学生の身分の故に、食料を買う以外のお金は持ち揃えていない。帰りどうしよう、と思っていたところに、颯爽とブン太は登場した。



「なっ、言うことは?」
「ありがとう、ブンちゃん」
「ったくよ。いつも気を付けろって言ってんじゃん」
「次からっ!ちゃんと気を付ける!」
「ちょっ…お前からそれ聞くの何回目……」
「う…」



ごめんなさいは?なんて言ってくるブン太は、まさにお兄ちゃんだ。すっごく我が侭そうだし、末っ子な顔してるけど実は長男で、年の離れた弟が2人もいて、すっごく面倒見がいい。
この前、ブン太の家に夕飯をご馳走になったとき、一番下の弟くんがオムライスにつけるはずのケチャップをあたしに向かって発射したことがあった。もちろん、故意ではなくて、出ないよお〜…なんて言いながら振ったケチャップが、まるで空気砲のようにバフッ!とあたし目掛けて飛んできたのだ。



「ギャハハッ!春菜姉ちゃんの頭、兄ちゃんみたい!」
「キャハハッ!ねぇちゃん、にぃちゃんみたい〜!」
「なっ!おいっ!何やってんだよぃっ!」
「俺悪くない!」
「僕も〜!」
「僕も〜じゃねぇよ!明らか犯人お前だろが!!」



春菜姉ちゃんに謝りなさい!あのときのブン太は、長男の鏡だった。お前もボサっとしてんなよ、そう言ってあたしの頭まで拭いてくれたし、いいか?ケチャップ振るときは、ちゃんとフタしめてからな、と弟たちに知識まで伝授してあげていたからね。ごめんな…とか言いながら結局笑ってたけど。



「お兄ちゃん」
「は?」
「ブンちゃん」
「いや、意味わかんね」
「お兄ちゃんみたい、ブンちゃん」
「お前が妹みたいだからな」
「えへへ」
「そーゆーお前さんらは、バカップルみたいじゃの」
「あ、仁王」
「朝からうざい、廊下でイチャつくのやめんしゃい」
「イチャついてねーし」
「黙れ、赤いイベリコ豚め」
「豚じゃねーし!」
「におくん、怒ってる?」
「…は…別に」



におくんの体温ともに血圧は、朝はすこぶる低いらしく、寝起きの機嫌はもう最悪だ。起きてから時間が経った今でも、なぜか怒ってるこの状態。よく解らないけどとりあえず、ごめんね?と謝ってみたのに、におくんはプイッと顔を背けてしまった。もう仕方ない、におくんは気分屋だからな…と思い、教室に入ろうとしたその時。



「ていやっ」
「わっ!」



ズデーン!効果音があったらこんな感じに、あたしは見事、におくんのながーいながい足によって、ずってんいきました。地味に痛い。派手に飛べなかったけど、地味に足痛い。におくん、機嫌悪いからって、暴力(?)に走るのはよくないよ!キィ〜!怒りが脳に浸透してきた。パッと顔を上げる。目の前にはブン太。



「お前…大丈夫か?」
「もうなんなの…」
「痛かった?」
「痛かったというか、痛い」
「あ〜、現在進行形な」
「足首痛い〜」
「グキってなってたもんな」
「におくん、機嫌悪」
「仕方ねぇよ、朝だし」
「てか意地悪すぎ」
「それは…仕方ねぇよ」
「そればっかり」
「だってよ!…ほら、アレだろ?可愛い子ほど、いじめたくなんだろ、あいつ」
「え…?」
「あ〜も〜…立てっか?」



大丈夫、立てるよ。つまづいて、転んで、顔をあげて、そこにブン太がいてくれるなら、ブン太がドジだなって笑ってくれるなら。あたしにとってブン太は、お兄ちゃんみたいに優しい救世主。






090223

ブンちゃんと家族みたいな女の子。におくんが2人の空気に入り込めなくて妬いちゃってるお話。