大雨の中でも部活をやめへん野球部の根性と体力にはいつも感心する。窓に打ち付けられる雨は結構な量や。視界なんて、ほとんど真っ白やろうに。なんでも、監督がめっちゃ怖いらしい。雨の中やらせるわ、次の日休んだら怒るわで、大変そうやなぁって謙也が言っとった気ぃする。監督オサムちゃんでえらいよかったなぁ、なんて思っとったときやった。


「やばーい!」


バケツ上から被ったみたいにずぶ濡れになった彼女が部室に入ってきよった。部活は、雨がポツポツきた瞬間にボールアップ。そんとき、入部したての1年生がコート外に飛ばしたボールを彼女が拾いに行ってくれたんが見えた。雨は一気に強まって、身体はもちろん、助けたボールまでビショビショやな。「大丈夫か?」声をかけたとき既に足元は水溜まりになっとった。


「大丈夫ちゃうわー」
「ははっ、せやな」
「サッカーゴールの方まであってん、めっちゃ走ったんにビショビショや」


しっかも何かみんな帰っとるし!プンプン!まさかのたまお。「ネタ古いで」なんて言うたっても、更にプンプンするから、笑いがこぼれた。おもしろかったっちゅーより、ただ俺はこいつを可愛えと思って、ギャグセンどうのこうのっちゅーより、ただ俺はこいつが好きなんやと思う。そんな笑み。愛しい気持ちが溢れだした、幸せの象徴。目の前の彼女は、その俺の笑いをウケたんやと捉えて、にひーっと笑っとるんやけどな。


「…くしゅんっ!」
「自分風邪ひいたんとちゃう?」
「え〜、タオルタオル…」
「うつさんといてな」
「わ!信じられひん!」
「せやかて俺、部長やし」
「しかも本気〜」
「ハハッ、冗談やって。ほら、こっちきい」
「さ、どうだか〜!」


そんなくだらんやりとりをしながらも、向けられた背中に伸びる髪の毛を拭いてやる。幸い、身体は冷えきっとらんみたいや。逆に雨に負けんように、身体が体温をあげようとしてるんか、頬がほんのり紅かった。外は相当寒いんやろな。止みそうにもあらへんし。そんなことを頭で考えながら、結われとった髪をほどいていく。女の子特有のやらかい髪とともに、フワッと甘い香りが広がった。しつこない甘さで、思わず手にとって嗅いでまうと、クスクスと肩を震わせられる。


「くすぐったいっちゅーねん!」
「めっちゃええにおいすんねんもん」
「変態か〜」
「変態にもなるわ。シャンプー何使っとるん?」
「マシェリィ〜」
「ハハッ、一時期流行っとったやつや」
「一時期ちゃうわ。ウチん中では流行の最先端やで」
「ちなみに俺は、よ う こ そ日本へ〜」
「ハハッ!さすが女系家庭や」


クンクン。お互いの頭嗅ぎ合っとる俺らは、端から見たらバカップルか、2人して変態やな。でも今は2人の世界や。周りなんか気にせんでええ。こうやって2人でおれる時間っちゅーのは、部活で忙しくて、ましてやこれから受験の身には、大事な、貴重な時間。それでも雨は、俺の気持ちに反比例しとんのかって位、強まってくる。さっきから雷が鳴り止まんし、もうちょいここにおっとった方が頭ええな。そう彼女に伝えようと思ったら、既に彼女はヘアアイロンを温め始めとった。なんちゅー自由人。ちょっとも雷にビビったりせぇへんとこも、彼女らしいと思ってまうのは、惚れた弱味っちゅーやつなんやろな。


「くら、後ろの髪アイロンやって…わーおっ!!雷めっちゃおっきい!」
「今のかなり近かったやろ」
「無駄にテンション上がる!ウチんちに落ちとりませんよーに!」
「アホか。ま、俺んちには落ちとり…あ、」
「わ!電気消えた!停電や!!」
「ブレーカーが落ちよったな」
「何ちょっとうまいこと言っとんの。うわ、暗い〜!」
「何か明かり…」
「めっちゃいやや〜、暗い〜!」
「なんや、暗いのダメやったん?」
「なんも見えへん!」
「わかったわかった。外出るで!」
「え〜!!」
「濡れるんと、暗いんとどっちが…」
「バックどこ?!」
「…しゃーないな。ほら、これや。行くで!」


歩いて10分もせぇへん彼女んちまでの道のりを走ったのにも関わらず、俺らは結局ビショビショになった。傘なんかさしたって、全く意味があらへん。でも、不思議と風邪はひかんかった。その日泊まらせてもらって、2人で寝たからやと思う。隣の彼女とは同じ鼓動のテンポ。次の日の俺の頭は、彼女と同じ香りがした。










20000HIT 沙綾ちゃんリク
090615 くらりんって、自分から好きになると絶対周り見えなくなるタイプだと思う!絶対バカップル(笑)ありがとうございました
title by にやり