深海に沈んでいくような気分やった。深いブルーの中に、身体がゆっくり沈んでいくような。何もない、頭が真っ白になっていく。脳に酸素が回らんくなって、フワフワして、気持ちええ。何も考えなくてええ…、ちゅ、ちゅーか、何も考えられへんくなってきた。あれ?今俺何しとったんやっけ?あれ?何か苦し…
「ブハッ…!」 「あはははっ!」 「コホッ…おま…、何しとんじゃ」 「目覚まし」 「目覚まして…、口と鼻ふさぐ目覚ましがどこにあんねん…」 「え〜だって謙也起きひんねんもん」
謙也があかんの〜と言って、春菜は俺の鼻をつまんだ。要は俺、殺されかけとったっちゅー話やな。おん、通りで身体がめっちゃ沈んでったんやな。こいつが俺の上に跨がって…またっ…!ま、跨がっとったんかこいつ!俺の!上に!なな、なーにやってんねん!おまっ、ちょ、えー!うっわ、鼻血でそ。でもあかんな、あかん。仮にも女の子なんや、こう…は、恥じらいちゅーもんを持たんと、なぁ?わかっとらんねん、こいつ。俺が白石やったら、朝からた…大変なことになるんやで?しゃーない、注意したろ…
「もしもし蔵りん〜?」 『おはようさ〜ん!』 「おはよ」 『おう、なんや春菜、今日電話出るん遅ない?』 「謙也が起きひんかってん、朝起きられんとかスピードスター失格や」 『Wake upのスピードスターか』 「あはは!蔵りんうける〜!発音良すぎやろ〜!」
思った側から!!ほんまこいつら仲良えよな…クラスもおんなじやし…まぁ、俺もおんなじクラスなんやけど、な…ハハ。ちゅーか、朝一に電話してくる白石もどーなん?俺の彼女やって知っとんのやろ、気ぃつかえアホ。あ〜腹立つ。なんやなんや2人して、もう知らんで!…とか思いつつも、しっかり朝飯の支度を始める俺。ええ夫になれるわ。おん。
「謙也〜」 「…なんっやねんっ!!」 「わ、何でそんなおっきい声出すんの?うっさい」 「え、あ、すんません」 「ええけど」 「で?なんや?」 「そうそう、白と赤と黄色と青、どれがええ〜?」
なんやねんそれ、俺は卵焼きを焼いてん、ねんっ。と、四角いフライパンの上で卵をクルッと返した。上手くできた、へへ〜ンっと自慢気になって、パッと前を見れば、目の前に春菜がいてビックリした。ジーっと、俺の瞳を捕らえて離さない。きれいな、目。気が付いたときには、パッと目を反らしとった。お、俺は獲物かっ。即座に答えたんは「黄色」やった。視線を戻した卵焼きの色。
「黄色?」 「お、おん」 「ヒヨコだから?」 「はぁ?」 「謙也のあたま、ヒヨコやん」 「は、ヒヨコちゃうし」 「黄色い」 「金なんやけど」 「ねぇ」 「なん?」 「鳴いてみて」 「…はぁ?」 「ピヨって、ほら」 「ほ、ほらちゃうやろ!何言って…」 「何で?ええやん」 「ええわけな…て、ちょっ、」
鳴 い て。 耳元でそう聞こえてきたころには、俺は春菜に後ろから抱き付かれとった。鳴いて、って…つま先からぐわーっと血が巡り始めて、脳に届いたころには身体は固まっとって。な、何やっとんねん、俺。よっわ。だっさ。な、鳴いて、なんて、女の子言うセリフとちゃうやろ…俺が言わんといかんやろ…。そんな心とは裏腹に、口に出してまうんは、ヒヨコの鳴き声やった。背中でフフフンと笑う春菜の動きを感じて、何やっとんねん俺って、また思った。
『今日最も運勢が悪いのは、黄色を選んだ貴方でーす!』
そうテレビから聞こえてきた瞬間、春菜はパタパタと、まるで何もなかったかのようにリビングへ走っていった。俺にとっちゃ、一大事ちゅーか、こんなこっぱずかしいことないで、ちゅーくらいなんに。しかも、最下位って…俺今日ロクなことあらへん気ぃするわ…。こんなんでええんかなぁ…。ちゅーか、こうやって1人でメソメソしよって、俺、ほんまに男失格や。春菜は、俺とおって、こんなんで、ええんやろか?
「謙也」 「…お、今度はなんや?」 「貸して」 「ん?」 「持っとるやつ。んで、エプロンも」 「?朝飯は…」 「ええから!はよどき。リビングにでも、おって」
しかめっ面の春菜に、持っとったおたまやら、着てたエプロンやらを渡したら、なんと朝飯の続きを作り出した。気まぐれ…?珍しいことも、あるもんやなぁ、なんて思ってリビングのソファーに座る。パッとテレビを見れば、視界に入ってきた『最下位の貴方は、今日は火の元に気を付けましょう!』というテロップ。え、嘘やろ。もしかして、これ見て、代わってくれたん?嬉しくて嬉しくて、でも恥ずかしい俺は、もちろん春菜にそんなこと言えへんけど、
魔女の一撃
顔真っ赤にしとるお前見て、これでええんやなって、そう思った。
20000HIT こけし様リクエスト 090601 け、結局デレデレになっちゃったんですけど!Sチックなヒロインに…というか、私の欲望の塊になってしまった…(笑)リクエストありがとうございました
|