「〜っしゃぁぁぁあ!」


4時間目が終わると、やって来るのは丸井くんの大好きな、お弁当のお時間です。朝から厳しい部活動をこなし、頭のついていかない授業をうけている彼にとって、一番の至福の時でもあります。彼曰く、「うまいモン食うと、幸せな気分になんだろぃ?」ですが、とすると、彼は1日中、いや、1年中幸せなのでしょう。私は、彼が何も食べないでいるところも、彼が「まずい」と言っているところも、見たことがないのですから。私には到底理解できない行為です。毎日毎日、飽きずに食に浪費…、そんなことをするなら、参考書でも買って、弱い頭の足しにしたらいかがでしょう?しかし、これが丸井くんなのです。丸井くんがここまでハマる食の楽しさと言うのを、ぜひ教えていただきたい。


「今日も昼飯リプトンのみの雅治くんに」
「うっざ、仁王うざっ」
「柳生のマネ」
「似てる〜」
「うぜー似すぎて反論できねぇー」
「柳生の心の声じゃよ」
「うっざ」
「でもさ〜、柳生くん『ハマる』とか言わなくない?」
「……」
「言うなら、『夢中になる』とかでしょ」
「……」
「…ぶははっ!お前ダッメじゃん!何がイリュージョンだよっ!天才ブン太様の妙技に比べたらそんなの…」
「静かにしたまえ!!」
「こわっ!比呂士こわっ!」


そんな感じで、俺らの昼飯は始まる。仁王にはツッコミたいとこ多々有りだけど、もうそんなもん無視だ。つーか、リプトンのみって…ヤバくね?どんな腹してんだよ。お前胃袋大丈夫?とか思いつつも、ピーチ味っつー何とも乙女チックな選択に笑いたくなる。ピーチ味って…まぁ、うまいけどよ。腹の足しにはなんねぇーからいいや。俺は親の弁当+コンビニで買ったパンとか、横では春菜は自分で作った弁当食ってて、その横では春菜の卵焼きを食べる仁王。あ、あ〜んしてもらってっし。おいおい、朝のテンションはどこ行った。


「仁王、お前子供じゃねーんだからよ」
「ん?春菜の弁当うまい」
「え〜!ありがと!」
「お前さん、将来いい嫁になるぜよ」
「ほんとにっ?」
「なんなら嫁に来い」
「ブッ…!」
「うわっ!きたなっ!」
「ブンちゃん、食べ物を粗末にしちゃいかんのぅ」
「お前が言うな!」
「顔にかかったぁ〜」
「えまじで?」
「可愛い顔が台無しじゃ。ブンちゃん、腹切れ」
「はぁ〜っ?!」


隣でアハハッと笑う春菜を見て、今日も幸せじゃなって思う。俺は春菜が好きだ。丸井と同じように好き。2人とも、嘘つかんし、何より2人が笑っとると、一緒になって笑えるから。思えば、クリスマスも正月も誕生日も、この2人とは必ず一緒にいる。どんなにくだらないことも、3人でいると、大切な思い出になる。女は嫌いじゃ。しつこくて、ネチネチしてる女は。だけど春菜は違う。家族よりも近い大切な存在。


「におくん?」
「…あ、なんじゃ?」
「大丈夫?」
「え?」
「え、じゃねぇだろ。お前今、超ぼーっとしてたぜ?」
「まじか」
「おう」


おいで、と言ってにおくんが手招きしたから近付いたら、ギュッと抱き締められた。一瞬焦ったけど、首のあたりでにおくんがニヤニヤしてる感じがしたから安心した。におくんは普通じゃないけど、普段こんなことしないから心配になる。キラキラ光る銀色の頭を撫でてあげると、ニヤニヤがクスクスに変わって解放された。と、同時に後ろからまた拘束される。赤い髪がチラッと見えれば、ブンちゃんは「何やってんだよぃ!」と耳元にも関わらず叫んだ。うるさいけど、嫌な気分は全くしない。


「なぁ、」
「ん?」
「やっぱしいい」
「なんじゃ?」
「いい」
「え〜なんなの?」
「いいっつってんじゃん」
「なんでよ」
「大したことじゃねぇの」
「じゃあ言ったらよか」
「言わねー」
「えぇ〜!余計気になる!」
「うっせ!」
「ブンちゃ〜ん」
「ブンちゃ〜ん」
「黙れっつの!」


よくわかんないけどおかしくなって、アハハと笑えば2人も笑う。気がつけば、3人の背中は支え合っていた。






幸せには1人じゃなれない。




20000HIT 刹様リクエスト
090524 お前ら好きだよって、ブンちゃんは言いたかったんだと思う。こうゆうのって、私の憧れの関係です!ありがとうございました
title by ニルバーナ