「ようこそ、club Lightへ!」



ギャグか。これは何かのギャグなのか。それとも夢なのか。目の前に並ぶ綺麗なお兄さんたちの列、光り輝くゴージャスな世界に目眩がしそうだ。あ〜、ドラマの見すぎかもしれん。…ちゅーか、なんやねん。クラブライトって。「お客様の生活に光を射すのが、私たちの仕事ですので」…え?ウチ、間に合っとりますわ。むしろ眩しすぎやわ!ライト消して〜。




「どう春菜?イケメンぎょーさんやろ?」
「男は顔とちゃうで」
「春菜ちゃん、ええこと言うやんか、わかっとるわ〜」
「ハハハ」
「なんなんー?春菜ええ子ぶってはるだけやんなぁ」
「そうなん?なんや、春菜ちゃん、ここで気張ってもしゃーないで?」
「せや〜!楽しめ〜!」
「ハハハ」



もう渇いた笑いしか出ない。何が気張ってもしゃーないやねん。女の財布気張らせとんの、どこのどいつやし。あ〜帰りたい。だいたいこんなとこ、普段のあたしには縁がない。最近友達が何か輝いとるな〜思ったら、こんなとこ通っとったらしい。最近どうしたん?なんて、聞かなきゃ良かった。と今更ながら後悔。代々な、顔がええ男には、絶対裏があんねん!ウチが行っとった中学は、他校からイケメン学校や〜とか言われとったけどな、特にテニス部!あいつらホンマに、顔ばっかりやで!白石は学年1モテとったけど、ただの変態やし、謙也はヘタレやし、千歳学校きぃへんし、財前くん生意気やし、テニ部だけちゃう!サッカー部やってな…



「それ愚痴なん?自慢なん?」
「へ〜、エライかっこええ人ばっかおったんやな〜」
「顔だけはね」
「四天宝寺やろ?ウチ隣やってん〜惜しい〜」
「え、春菜ちゃん四天なん?」
「おん」
「ホンマかぁ〜!うちのナンバー1と同じ出身やで!」
「………え、」



…………さ い あ く や !どないしよ〜!あかんやろ!誰か嘘だと言って!え、ホンマ?会いたない会いたない!普通に無理!え、あかんあかん!だって、…ええー!普通に!(何がやねん)待って、落ち着けあたし。冷静になれ。浪速のスピードスターの従兄弟のようになれ。あ、あいつ変態や。あかん!ええ例が思いつかん!どないしよどないしよどないしよ!ちょ、とにかく落ち着こ。せや、ヒッヒッフー。ヒッヒッフー。あ、よう考えてみたら、知り合いちゃうかもしれんやん。ちゅーか、むしろ知り合いの方がありえんよね!ハハッ、ハハハ!みんな将来確定組やってん、薬剤師やろ、医者やろ、あれ?あとは…



「デザイナー、やろ?」
「せや、せやったわ〜。おおきに……ってうわ!」
「…キレがない反応は相変わらずやな」
「え、嘘やん」
「どーも、ユージ言います」
「え、嘘やん」
「2回目やから、それ」
「だって、え〜!ひとうブッ!」
「ユージやから、お客様」
「ふひふははふほひへ〜」
「聞こえへ〜ん」
「はひへはひ!」
「ようこそ〜、club lightへ〜」



嫌な予感というものは的中するもんで、ユージさんお疲れさまです〜!とすれ違うホストたちが口々に言う。まさか、まさかだけど、あの一氏が…、ホスト。テニ部の中でも女に一番興味なかった男が…、ホスト。信じられへん。ありえへん。え?だって一氏ってホモちゃうかった?小春は?金色小春はどないした?別れたんか?!(付き合ってもない)しかも、ユージさんナンバー1て…!なんでや、どないしたんや!日本は!地球はどないしたんや!あぁぁぁあー!……ちゅ…ちゅーか、一氏かっこよくなったな。いや、昔からかっこよかったんやけど。ぶ、ぶっちゃけ結構一目置いたんやけどっ!みんなが白石にキャーキャー言っとった中で、一人で密かに一氏に萌えてたんやけどっ!…こ洒落たスーツなんて着ちゃってさ。ま、一氏が何にもなくホストやっとるわけがなく、話に寄れば、デザイナーのパパさんがホストが着とるスーツから、ソファーやらテーブルやらこの店の内装まで手掛けいるらしい。つまりは…パパさんに無理矢理やらされとるっちゅーわけなんやなぁ。せやんなぁ、あの小春小春言うとってた一氏が、女相手に仕事なんてするわけがないやんなぁ。



「ところで、小春は?」
「あいつ、一人でしっかりやっとるで」
「え、ホンマに?」
「そや、今や一児の父親」
「え、ホンマに?」
「2回目やから、それ」
「あんたもな」
「お前が言わしとんじゃボケ」
「あ、せやった」
「ハハッ、相変わらずおもろいな、自分」



一氏くんに言われたないです〜っ。そんな何でもない会話で、一氏とこんなに話せる日が来るなんて思わなかった。気がつけばお酒も進んでた。やっぱり、ナンバー1に値するだけの存在なのかもしれない。こんなに饒舌な一氏を、あたし自身も初めて見たなぁ、なんて思う。ススス、と他のホストがこちらにやってきた。ユージさんそろそろ、と耳元で会話を済ます。お酒と一緒に、時間もスッカリ進んでいたらしい。すると、一氏が友達にニッコリ笑って、「失礼します」とあたしの腕を掴んだ。



「なっ、なんやのいきな…」
「いきなりとちゃうで」
「はい?」
「桜田 春菜」
「え?…あはい?」
「ええか、俺はここのナンバー1や。ナンバー1には色恋とか、枕とかいらへんの。わかる?」
「う、うん」
「ん」



引っ張られた先はおそらく事務室的な場所だった。あたしの手の中には、鍵と地図。鍵と地図?…どこのやねん?解らない、と言った顔をするとアホ抜かせと頭を叩かれた。だって意味わからんねんもん!そう大声を出すと、一氏は咄嗟にあたしの口を手で塞いでくる。しーっ。この音はいつになってもあたしの頭を冷静にする。授業中、先生に怒られたときみたいに、一瞬で自分の状況が頭の中に入ってきた。一氏、あたし。2人しかいない部屋、非日常。一枚隔てた向こうには、人人人、日常。


「おうちでおとなしくしてへんと、…死なすど?」



そう言って指先で唇をなぞり、部屋から出ていく一氏の背を、見つめずにはいられなかった。




グッドナイト、knight

20000HIT ころ様リクエスト
090506 一氏くん初めて書いたんで、一氏くんじゃないかも(笑)ユウくんレベル高いっス。ありがとうございました