「お前は、バラみたいだよね」 「バラ…?」 「そうさ。あ、でも野バラの方ね」 「何が違うの?」 「大違いさ、俺はバラはあまり好きじゃない」 「え…そうなの?」 「だから、お前は野バラ」
オウム返しのように野バラ、と呟いた春菜は、その違いをわかっていないみたいだった。確かにバラと言われれば、真っ赤で、花びらが幾度にも重なった、あの豪華な花を思い浮かべるだろうね。でも俺はあの花は好きじゃない。美しいとは思う。だけどいかにも、人の目を誘うようなあの花に春菜は似合わない。春菜の魅力は俺だけが知っていればいい。
「白い花びらはお前の肌みたいに透き通って…」「せ、」 「触れてしまえば、トゲが刺さる」 「せいい、ち」 「痛い、けど刺さって抜け出せないんだ…」 「…痛い、の?」 「あぁ、お前が俺以外にその美しさを向けていると思うと」
居ても立ってもいられない。嫉妬なんて、醜いと思っていた。だけども所詮は、俺も人の子。神の子でいるのはコートの上だけなんだ。お前の前では俺もただの男で、嫉妬だってするし、もちろん欲もある。むしろ感情は他人より豊かだ。愛とか美とか、そうゆう綺麗なものを求める、その気持ちは誰より強い。…っていうのはただ綺麗事なんだけどね。男は単純だ。目の前に儚げに光る美しいものを見つけると、手に入れて、独り占めにしたくなる。
「野バラはね、真っ赤な実をつけるんだ」 「バラなのに?」 「そうだよ。お前は花に興味はないのかい?」 「有名なのしかわかんない」 「そうか」
それでいいんだ。お前は俺だけを見てればいい。誰の目に止まることも、誰に目を向けることもないように。純粋なお前に世界を教えるのは俺だ。真っ白なお前に、色を与えるのは俺だけ。こんなにお前のことが好きなんだ。誰にも渡したくない。誰にも渡さない。まぁ、俺に刃向かってくるやつは、へし折ってやるだけどね。そうしたら悲しむだろうお前の色は青。眉を下げて顔を歪める姿、収めてしまいたいくらい綺麗なんだろうな。
「ねぇ、」 「ん?」 「お前は何色に染まりたい?」 「…え、?」 「興味があるんだ」 「ちょ、せいいちっ、」 「俺の好きな色に、染めてもいいだろう?」
スッと伸びた手は、早くも春菜の腕をとらえた。脚を挟んで追い詰めてしまえば、俺の勝ち。もちろん負けたことなんてないけどね。なめらかな肌をつたっていくと、肩がピクッと反応する。ふと目が合って、キョロキョロ泳ぎ出す瞳は暗黒。その向こうに映る先が、俺であることを確認したくなった。両手を頬に添えて、こっちを向かせると、今度は魔法にかけられたように見つめあう。恥ずかしいのか、頬の色はほんのりとピンク。かわいい、そう呟くと色は濃さを増した。今から起こる出来事に緊張してるんだね、フフ、そうゆう真っ白なとこ、ほんと、また大好きになっちゃうな。そっと前髪をかき分けて、見えた額にちゅ、とキスを落とす。瞼、耳、頬…こんなにも愛を与えてあげてるっていうのに、目は開けてくれないのかな?いつだってそうさ。俺が見つめれば見つめるほど、お前は視線を反らしていく。俺が触れれば触れるほど、お前は赤く熟していく。俺が愛すれば愛するほど、お前は罠を仕掛けてくる。甘くて、痛くて、抜け出せない。
「お前を…摘ませてくれるよね?」
耳元で囁く。ピチャ、と舌が這うのと同時に、俺の服を握る春菜の手に力がこもった。あーあ、しわくちゃ。そんなに握りしめなくても、俺はどこにも行かないよ?こうしている間は、すっごくすっごく落ち着くんだ。お前が俺だけのものな気がして、すっごく安心する。本当は、俺がお前だけのものなんだけどね。結局はお互い様。罠にかかってあげる代わりに、なぞれば反応するこの身体は俺のもの。心はとっくの昔から、お互いの中にあった。
「ひゃ…せ、いちっ」 「……ん?」 「なんか…変だよ」 「どうして?」 「わかんないけど……何か、あったような感じがする」 「そう、かな…」 「だいじょ、ぶ…?」
大丈夫かって?愚問だね。よくそんなことが聞けたなぁ。この俺が、こんなになってしまったのを、一体誰のせいだと思っているんだい?フフ、わかってるよね?まったく、俺は愚かだ。女1人にここまで溺れてしまうなんて。もう溺死さ。お前の、表情を幾度も変えるその顔も、赤く火照った唇も、白く長く伸びる手足も、全部全部、狂おしいくらい、いとおしい。こんなに何かを欲したのは初めてだ。あぁ止まらない。それでも拒絶しないで、俺の熱さを受け入れてくれるお前が全ての原因なんだ。俺はまたかかってしまった。病に、それも、
不治の病
20000HIT 梨花様リク 090425 ヒロインに溺愛な幸村様。彼がヒロインを「お前」って呼ぶのは、私の願望です(笑)ほんのりエロスにしたつもり。ありがとうございました
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