「ブンちゃん?」

久しぶりに会った春菜は驚くほど美人になっていた。幼いころポニーテールにされていた髪は、緩く巻かれて下へと伸びている。重力に逆らってまつげはクルンと上を向き、化粧も覚えていた。そういえば、離ればなれになってからどんくらいだっけ?


「ビックリしたー」
「あ?何でだよ」
「だってブンちゃん、真っ赤なんだもん」


あー、そうだった。こいつ俺が髪染めたの知らねぇんだわ。つーことは、小6以来だな。中1のとき調子乗って染めたんだった。俺もあんときゃ若かったなー、って今だってまだワケーし。まだ成人もしてねぇし。高校卒業したばっか。大学は無事に決まった、つっても立海だけどな。仁王も幸村くんも立海だし…あー、比呂士と柳はもっと頭いいとこに行くって。


「友達増えたね」
「あそっか、オマエ知らねぇんだったわ」
「アハハ、何か久しぶりなのに、そんな気がしないね」
「だなぁー、オマエはどうだったんだよ?」
「んー?楽しかったよ」
「良かったな」
「うん、でもブンちゃんいなくて寂しかった」
「あ?」
「なんか、あたしのことブンちゃんみたいに、バカにしてくる人がいなかった…みたいな?」
「俺に聞くなって。つーか、ドMかよっオマエ」


アハハ!それだよそれ!って言う春菜の笑顔は、昔のまんまだ。口を三角に開いて、デカイ目ほっそくして。手叩いて笑ったりすんの、下品だし、ババくせぇし、とか思ってたけど、春菜がやると懐かしいな。…つーか、何だこいつ、すっげぇ可愛い。


「なぁ、オマエさ」
「ん?」
「か、彼氏とか、いんの?」


何聞いてんだよ俺。あー噛んだし。だっせー俺。丸井くん可愛いー!とか、テニスやってるときかっこいー!とか、所謂ギャップ萌えってやつ?んで、中高と女子をそんな感じでキャーキャー言わせてきた、天才ブン太様だってのに。あんな大勢に囲まれても全然平気だったのにな、やっぱりこいつは俺にとって特別だ。幼稚園ときからずっと一緒で、同じマンションで隣だったんだよな。で、俺んちが一軒家に引っ越すっつったときに、お前は遠くに行くんだって言ってさ。あんときも変わらず「またね」って、チューしてたよな。


「いないよ」
「……ふ〜ん」
「…安心した?」
「なな、何言ってんだよぃ」
「フフフ」
「笑ってんじゃねーよ!」
「だってー!」
「んっだよ、人のことバカにしやがって…」
「…怒った?」
「別に、怒ってねーし」
「良かったー」
「つか、何でんなことで怒んなきゃ…」
「ブーンちゃんっ」
「あ?今度はなんだよ」
「大好きっ」


え…。真面目な顔して見れば、ビックリしてキョトンとしてる春菜がいた。 何て顔してんだよ…俺。春菜の目に映った俺の顔、見たことねぇ俺の顔。大好きって、何で…何でそんなこと言うんだよ。俺だって、大好きだ、っつの。だいたい、オマエのせいだから。彼女いないのも、どんな女に言い寄られてもその気になんなかったのも。オマエがそうやって、大好きとか言うから、俺だって大好きになっちゃったんだよ。ちっちゃいときからマセてて、意味も知らねぇーくせして、普通にチューとかしてきてさ。おはようのチューとか、ありがとうのチューとか、テレビでやってたよとか言って、事あることにチューしやがって。でもそんな無知で無茶苦茶なオマエが、俺は大好きなんだよっ。


「春菜」
「んー?」


ちゅ、と唇にキスを落とす。おかえりのチュー?なんてまた、昔と同じ笑顔で言うから、決まってんだろぃ?って返すしかなかった。好きだ、なんて言ってもさ、オマエはわかってくんねぇだろな。オマエの好きと、俺の好きとは、違うんだよ。エヘヘと笑う春菜の瞳ごし、また情けない俺の顔を見るのがイヤで目を閉じる。ちゅ、柔らかい感触が胸をエグるようだった。






ただいまのチュー、なんかいらねぇから、愛してるのキスをくれ。




20000HIT 絆様リク
090403 ブン太って、気付かないうちに恋に落ちてそうですよね。小悪魔チックなヒロインちゃん。ありがとうございました。
title by zinc