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愛は世界なのか?(くおみく)





ミクは恋愛主義だ。世界は愛でできている、愛は世界を救う、人間で一番美しいのは愛である、と、ミクはさも当然のようにそう語るのだ。


「僕はそう思わないな」


そう言えば、ミクは顔をしかめた。
僕からすればなぜしかめるのかすら分からない。そんな不服そうな顔する理由が分からない。まさか自分の考えが正しいとでも思っているのか?


「愛は、素敵だよ。わたしはクオを愛してる」

「違うよ。確かに僕だってミクが愛してくれてるのはすごく嬉しいけど、それは僕もミクを愛してるからだよ」

「...?」


ミクは首を傾げた。
あぁ、これ分かってないときの反応だ。


「そりゃ、僕だって。人類の全てが逢ったこともない他人を愛せるなら愛は世界を救うって言えるけどさ、そうでない限り愛なんて押し付けじゃないか」

「押し付けじゃないと思うけど。誰だって愛されたら嬉しいよ!好意が嫌な人なんていないんじゃない?」

「ミクは本当にお花畑だよね」


ミクはまた顔をしかめるのだった。でもお花畑以外に言いようがないじゃないか。好意が嫌な人なんていない?それは自分に好意を持つ対象が少なからず自分にとっても好意を持つ人間であること前提だ。


「まず愛ってさ、人それぞれなんだよ。分かる?ストーカーだってあいつらも立派に愛してるの」

「ちょっとミクオ、ストーカーを擁護するつもり?」

「いや、擁護しないけど。でもストーカーだって相手を愛してるんだよ?例えばそのストーカーさんはたまたまミクを見かけて、美しいと思って恋をするわけだ。ミクを愛して愛して止まない彼はミクのことを知りたい思う。愛した相手のことを知りたいと思うのは当然のことだよね?そして彼はミクを追跡する、ミクのことをもっと知りたくて家までついていく。もしかしたらミクを攫うかもしれないね。でもそれも彼にとっては愛なのかもね?」


ミクは口元を押さえた。想像しただけでも気持ち悪いようだ。すっ、口元から手を離すと形のいい唇が露わになる。そしてそれに口付けたいと思うのは愛ではなく性欲なのかもしれない。けれどそれはミクを愛してる故だ。ミク以外に美しい唇があろうとも、僕は口付けたいなどと思わないだろう。


「ミクオは、意地悪だね」

「そうかな...僕はただ嫉妬してるだけだよ」

「しっと??」


ミクの大きな瞳が僕を見つめた。綺麗だ。
そうだな、僕はミクがすきだ。


「だってさ、ミクの言う愛がすべての世界なら、ミクは当たり前のように誰かを愛して、誰かも当たり前のようにミクを愛するんだよ」


ミクが僕を好きでいてくれるのは嬉しいけど、そんな世界なら、それすら当たり前なのだ。愛に順位をつけるとして僕はかろうじてその他の人より愛されるのかもしれないけど、ミクはその他人のことも愛しているのだ。


「...あ」


ミクの声がした。ミクを見ると、それはそれは嬉しそうに笑っているではないか。笑っているというよりにんまりしている。にやにやしている。ミクはそんな笑顔のまま続けた。


「わたしは、ミクオがわたしのことを愛してくれて、わたしもミクオのことを愛していれば、それ以外何もいらないかもしれないね」

「かもしれない、って何」


そこは断言してよ、そう言えば、ミクはまた笑うのだった。今度はにやにや笑うのではなく、優しい笑顔だった。


「やっぱりこの世界は愛でできてるよ。わたしの世界はミクオが愛してくれるからあるんだもの」


あぁ恥ずかしい。けれどやっぱり愛しいと思うので、そんな彼女が僕のすべてなのである。というのであれば、世界の全てが愛であるというのはあながち間違っていないのかもしれない。



2015/11-22
2年ぶりに書いた文がこれですよ?



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