月曜日、追跡開始
「また明日」から一夜明け。
教室に入れば始まるなんてことない日常。
そう思っていたのだけど…
「うぉ、名字が後ろか」
「ど、どーも」
突然行われた席替えで、なんと黒尾の後ろになった。
だるそうに荷物ごと移動してきた男が私を見て目を見開く。
片手を挙げて応えれば、よろしくと微笑まれて昨日のときめきを思い出してしまった。
「つか、俺が前だと黒板とか見にくくない?変わる?」
「うううううん!全然問題ない!見える!」
私が座るのは一番後ろの席である。
確かに前を向けば視界に広がるのは黒尾の大きな背中だけれど、交代するなんてありえない。
黒尾の視線を背中に浴びる日々なんて、耐えられるわけがないじゃないか。
そう思って肩を竦めていると少し遅れて隣が到着した。
「ゲェッ!なんで黒尾が斜め前にいんだよ」
「うーわー夜久衛輔くんじゃないデスカー」
私の隣で嫌そうな声をあげたのは黒尾と同じバレー部の夜久くんで、お前がそんなところにいたら邪魔だろとか喚いている。
夜久くんは黒尾と親しげなやり取りをしてから、ようやく私に気が付いたのかその大きな瞳がこちらを向いた。
「名字さん、だよな?よろしく!」
明るく眩しい笑顔を向けられて、つられて微笑みながらその眩しさに眼を細める。
夜久くん…人懐っこい笑みが可愛いやら男らしいやらでたまらない。
「名字、うちのリベロを気持ち悪い笑顔で見ないでくれる?」
黒尾の嫌味な(そして実は的確な)言葉で我に返るまで、私は夜久くんオーラに癒され続けた。
授業が始まると、前を向くたびに黒尾の背中が視界に広がる。
癖なのか、少し丸め気味なその背中は男らしくて格好いいなとつい見つめてしまう。
黒板に向けていた顔を逸らし、小さく欠伸をする姿までバッチリ見ることができてしまって眼福やら照れ臭いやら。
しっかり観察してしまっている自分を恥ずかしく思いつつ、私はどうしてもその後ろ姿から目を離せないのだ。
その日は休み時間になるたび、黒尾は夜久くんと話をするために斜め後ろを振り返った。
黒尾ってクールそうに見えて、実は友達のこと大好きなんだよなぁと心の中で笑いながら黙って2人の様子を見ていると、夜久くんが眉を顰めて「黒尾」と声を出す。
「お前こっち向くのはいいけどさ、その度に名字さんの机に凭れるのやめろよ。迷惑だろ」
その指摘で私も改めて気付いたが、黒尾は身体ごと夜久くんの方を向いて毎回私の机に上体を乗せるようにしていた。
当然私の机は彼によって占拠されるため、私の使えるスペースが狭くなっている。
「だって、狭いんだもん」
「もん、じゃねー」
夜久くんの気配りに感動しつつ、微妙に近くなる黒尾との距離に少しドキドキしてしまう。
「夜久くん、ありがとう…私は大丈夫だよ」
えへへと笑いながらそう言えば、夜久くんは「名字さんがいいならいいけど」とため息をついた。
「黒尾に迷惑かけられたらすぐ俺に言ってな!」
「迷惑なんてかけませーん!」
「ありがとう、頼りにしてます!」
「名字も乗らないでくださーい」
あぁ、楽しい席になりそうだ。
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210714
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