夜中ってテンション変になるよね。




「名字…」

笠松先輩?

「もっとこっち来い」

え?な、何言って…

「ほら」

ちょ、近い、近いです!

先輩の匂いに包まれる。

恥ずかしくて死ぬ!




・・・・・

・・・・

・・・

・・



「は!?」




ガバッと起き上がった。


周りは真っ暗である。

ここはどこ!?私は誰!?

混乱する頭をフル回転させ、現在の状況を確認する。



私は名字名前。海常高校2年生だ。

ここは、笠松先輩のお部屋の、ベッド。

べ、ベッド!?

なんで私がベッドの中に!?

ご丁寧に布団もかけてあるし。




そうか。

私の家のお風呂が壊れて、

先輩のお家でお風呂を借りて、

ご飯もいただいて、

私は先輩の服を着たまま、

寝てしまったということか。





なんということをぉぉぉぉ!くぁwせdftgyふじこlp;!




あれ?

先輩は???

真っ暗な部屋で肝心の先輩がいない。

そして今何時?

慌ててかばんの元へ行き、携帯を探す。

画面には01:47の文字。

…めっちゃ真夜中ですやーん。

草木も眠る丑三つ時まであと少しですやーん。



と、ここでメールが来ていることに気付いた。

開くと差出人は笠松幸男。

内容は



  起こしても起きねぇからオレらも寝る。
  ベッド使っていい。
  オレは下の和室で寝る。



やらかしたのねぇぇぇぇぇ。

秘技“寝たらなかなか起きない”

まさか人のお家でも発揮するとは…。



このメールが来た時間を見ると、00:35だった。

さすがにもう寝てるかな、と思いつつ一応返事を返す。



  すみません。
  本当にすみません。
  明日の朝すぐ帰りますので。


とだけ。


送ってまたベッドに戻った。

すると携帯のバイブが鳴る。



差出人は笠松先輩だ。


  起きたか


の一言。



急いで返事をする。


  すみません、起こしちゃいました?
  私も今起きてびっくりしてます。
  迷惑かけてごめんなさい。



  ちょうどうとうとしてた。
  とりあえず明日は家から学校行くぞ。



え?

なんかそれって…

「恋人みたい」



もう死ねよ私!

なにこの思考!!

止まれ!!!!!!!




  明るくなったらすぐ帰ります。
  これ以上迷惑かけられません!




  いまさら何言ってんだ。
  親もそれでいいって言ってるから。
  もう寝ろ。



「寝れませんよ」


恥ずかしいやら申し訳ないやら色々な感情が混ざって、目が冴えてしまった。

大体先輩の布団なんかで寝るからあんな夢を見たんだ。

もう数時間前の自分を殴りたい。






  目が冴えちゃいました(笑)
  なので先輩の部屋でも漁ってますね(笑)



そんなノリでメールを返すと、数秒後、どたどたと足音がして部屋のドアが開いた。


「てめぇ!人が優しくしてやったらつけあがりやがって!!」


「声大きいですよ!しー!」


先輩の声が思ったよりも大きくて、私は慌てて口の前に人差し指を持ってくる。

先輩もそれに気付いて声のトーンを落とした。


「漁ってないじゃねぇか」

「さすがにそんなことしませんよ恩人に対して」

「そうか」



「先輩、眠くないんですか?」

「さっき少し寝たから」

「え?」


詳しく聞くと、私が寝てしまったのでとりあえずベッドに寝かせてお風呂へ行った先輩。

戻ってきても私が寝ていたため、頃合いを見つけて起こそうと思い、月バスを読んでいたが自分も寝てしまった。

お母さんに起こされたのがもう0時を廻っていたので、諦めて下で寝ることにしたらしい。



「本当に、すみません」

「お前って本当よく寝るよな」

「寝るの大好きなんです」

「その割には成長してないけど」

「…」







暇だ…という空気が流れ始めた。


「テレビでも見るか?」

「こんな時間にやってるテレビってなんですか」

「…だよな」



「何か面白い話でもしてください」

「ねーよ」

「ですよね」




そういえば、と先輩が切り出した。

「お前、なんでバスケ部のマネージャーなんかなったんだ?」

「中学でマネージャーしてたんです。自分は運動できないし、他の人のサポートとか分析するのが得意で」

「そうか、でもなんで男子バスケ部に?」

「なんでですかねー?早川に誘われたってのもありますけど…やっぱり全国一位目指してたからですかね」


遅刻するし忘れ物するけど、部活だけは真面目なのだ。

海常高校バスケ部に対する愛は誰にも負けないと言い切れる自信もある。

そう言うと先輩は少し笑った。



「もしお前がただの遅刻魔で、部活も適当にやってたら追い出してた」


「え…」


「みんなお前の熱意にちゃんと気付いてるってことだ」


「ああありがとうございます!」



そんなことを話していたらもう3時になっていた。

明日も学校だし寝ないとなぁ…。

でも先輩とのこの穏やかで貴重な時間が惜しい気もする。

すごく楽しいし。

合宿でもこんなに話せないからなぁ。





「寝るか?」

時計を見た先輩が問う。

「うーん…」

「うーんって。明日も学校と部活あるんだぞ」



苦笑いしながら先輩が立ち上がろうとする。

私はある企みが頭に浮かび、先輩のシャツの裾を掴んだ。


「先輩が、一緒に寝てくれるなら寝ます」

「はぁぁぁぁぁぁ!?」

「しー!!」


想像以上に大きな声を出した先輩に、また慌てる。

本当に面白い反応をしてくれるなぁ。


「なななななに言って」

「人のお家で1人って落ち着かないんですよー怖いし」


深夜のノリで笑いながら返した。

やっぱり眠いのかもな。

普段だったらそんなこと絶対言えない。

特に私のキャラでは…ね…。




それにしても私に言われてもこんな反応をしてくるってことは、私のことは女子だと認識してくれているのだろうか。

なんだか扱いが部員と変わらないところを見ているから、先輩のこの反応が新鮮だった。


裏返った叫び声を思い出し、笑いをこらえていると先輩が立ち上がった。


「?」


何も言わないから見上げる。

怒ってしまったのか少し不安だ。




「…寝るぞ」


「え!?」


今度は私が大声を上げる番だった。






「ほら、さっさとしろ」

「ああああの先輩、私その」


先輩に腕を引かれ、ベッドに連れて行かれる。


「奥行け」

背中をドンッと押され、ダイブした。


先輩もすぐに隣に入ってくる。


「これで寝れるだろ。おやすみ」


そう言うと背を向けて黙ってしまった。


私はというとどきどきして眠れない。

まさかふざけて言った冗談でこんなことになるなんて…!


まったく先輩って真面目なんだから。

冗談通じないし、優しいし困るな。

そんなことを思いつつ笠松先輩の背中を見つめる。

大きくて頼りになる背中。

安心する。


そんなことを考えていたら、眠くなってきた。



「おやすみなさい」



大きな背中に、小さな呟きをぶつけた。














「寝たか。ったく…」

そっと布団から出て和室に戻る。

「本当に世話が焼けるやつだな」

















「起きろおおおおおおおお!!!!」


「!?」


脳に直接響くような声で、目が覚めた。


今度は意識がはっきりしている。


私は、笠松先輩のお家に泊まったのだ。

そして今、笠松先輩に起こされた。



「さっさと準備しろ、飯だぞ」






「名前ちゃん、おはよう」

お母さんが笑顔で迎えてくれる朝。

久しぶりだなぁ。

って和んでいる場合ではない。



「ごっごめんなさい!私全然起きなくて!!泊まってしまって!!!!」

スライディング土下座しそうになる勢いで頭を下げる。


「いいのよ〜!だいぶお疲れだったみたいね。女の子の1人暮らしも大変でしょう?たまには家に泊まってゆっくりしてって」


笠松先輩のお母さん、優しすぎませんか?

理想なんですけど。本当に。





なんだかんだお世話になりまくりで、私の分までお弁当用意してもらって。

先輩と一緒に、笠松家を出た。


手を振るお母さんに、何度も頭を下げて学校へ向かう。



先輩は自転車を引きながら、無言で歩く。


「何から何まですみませんでした」

「気にすんな」

「先輩、あの後すぐに寝たんですか?」

「…まぁな」

「あの、服とお弁当箱洗ってお返ししますね」

「おう」


洗濯は家でするからいいと言われたけど、これだけは譲れないと無理言って持ってきた先輩の服。


なにかお返ししないと気が済まなかったのだ。






「…じゃあな」

「はい、ありがとうございました」

「授業中寝るなよ」

「だっ大丈夫です!」

「じゃ、部活でな」


先輩は少し笑うと、3年生の教室へ向かった。


私も教室へ向かう。


「名前!おはよ!」

「あ、おはよー!」

「笠松さんと一緒に登校?仲良しだねぇ」

「ちちちちちが!そんなんじゃないよ!」

「なにその動揺っぷり」


友達がにやにやと話しかけてくるから、色々思い出してしまって真っ赤になる。

これは白状コースかもしれない。










★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
お泊り編長すぎ
130520


*












人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -