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顧問の武田先生は、バスの座席に収まっている私を見て、ものすごく驚いていた。
「部外者ですけど大丈夫ですか?」
ちらりと月島くんを見ながら質問すると、月島くんは気まずそうに視線を逸らした。その後ろで山口くんがオロオロしている。
「まぁ、県内ですし問題ないかと…でも名字さんこそいいんですか?」
「え、なにが…」
「今日、職員室で『夕方のアニメが楽しみなんですよねー!』って大きな声で話してましたけど」
「あわわ!そ、それはお気になさらず!」
「アニメって…ぷっ」
「月島くーん!アニメを笑う者はアニメに泣くんだからね!」
「意味が分かりませーん」
「つ、ツッキー!」
車内でプチ恥を晒したところで、バスは出発した。
潔子ちゃんの隣をゲットした私はご機嫌である。
「潔子ちゃん、着くまで寝てなよ。もたれていいからさ」
「ありがとう」
そう言って窓側の席で目を閉じた潔子ちゃんを確認し、通路を挟んだ隣に腕を組み1人で座る澤村に小さく声をかけた。
「そういえば、今日の相手ってどこなの?」
「知らずに来たのか…青城だよ」
え。
「…ちょ、ちょっと待って?聞き間違えたかも」
「青城」
「SEIJO?」
「うん、だから、青葉城西高校だよ」
嘘でしょ。
「お、おろして!」
「ハァ!?名字何言ってんだ急に!」
「青城だなんて聞いてない!」
「知らん!今更おろせるか!!」
「え!?なにごと!?」
「…寝られないんだけど」
後ろに座る菅原に頭を叩かれ、澤村に怒られ、先生は動揺して車体が揺れ、潔子ちゃんは不満そうだ。
そうこうしているうちに、バスの後ろの方も騒がしくなり、田中くんが「止めてええええ!」と叫んでいた。日向くんが吐いたらしい。
「なんか色々とうるさすぎ」と呟く月島くんに、私は頭を下げるしかなかった。
「着いちゃった」
「何?青城と因縁でもあるの?」
バスを降りた私に、菅原が声をかけてきた。澤村と先生が挨拶に行っているのでバスの前ではそれぞれが準備をしている。
「いや…会いたくない人が…」
いや、人たち…か。と小さくウンウン唸っていると、菅原は大して心配していないといった表情で
「ん?元カレとか?」
「元カレェ!?」
「え!名字先輩の!?」
「ちっがーう!」
田中くんと日向くんが連続で食いついてきたので慌てて否定する。元カレなんてものじゃない。でもそれより厄介な奴がいるんだよこの学校には!
「…こっそり帰るか」
迷ったとかお腹痛くなったとか言えばなんとかなるだろうと我ながら最低な考えで、そっとみんなから離れた。まずはこのだだっ広い学校から脱出しよう。
そう思いながら歩いていると、校舎の陰から声が聞こえてきた。
「烏野かー。昔は強かったみたいだけど」
げ、バレー部か?
「マネがエロい感じでさー。あと坊主で目つき悪くてさーあったま悪そうな…」
なんて、男子高校生らしい言葉が聞こえた瞬間、逃げる間も無く私は彼らと遭遇してしまった。
「あ。烏野?」
「あはは、お邪魔しておりま…あ」
「え、マネ…?え?この人?」
「いや、エロいのはこの人じゃ…」
2人が私を見て混乱している。私も混乱している。
片方は見覚えがあった。あまり関わりはなかったけど、確かこの子は…。
「…先輩?」
背の高い方の男の子が私を見て口を開きかけた。が、私の後ろを見て固まる。
そっと振り返ると、目つきの悪い坊主くんが首だけ覗かせていたので肩が跳ねた。
その後ろには長身男子たちが控えていて、青城の2人は怯えている。月島くんは人を煽るときイキイキしてるね…。
すると急いで走ってきた保護者の澤村が田中くんを捕らえ、謝り倒していた。どさくさに紛れて私も一緒に首根っこを掴まれ引きずられる。あぁ、逃げそびれた。
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201213
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