岩泉の幼馴染み彼女が変質者に遭遇したようです。

※青根と二口とすでに知り合ってる設定です。
※変質者に出会いますので苦手な方は注意してください。




日曜日、午前練で終わると前日に言われたので早めに行って練習するかと及川とマネの名前と約束をした。
しかし俺らは2人揃ってアラームの設定をいつもと同じにして寝坊し、名前からの着信でそれぞれ起きるという失態を犯した。

【溝口くんに早く行くって言っちゃってるから、私とりあえず先行くねー!】
【すまん】
【ごめんね!!】
【徹は朝シャンしてる場合じゃないからね】
【なんで分かったの!?】

ガキの頃から一緒にいて、「徹の行動なんてお見通しだよーん」とからかう名前が目に浮かぶようで寝坊を棚に上げて笑ってしまう。
結局いつも通りの時間より少しだけ早く合流した及川と、少しだけ早足で学校へ向かった。







体育館に到着すると、中には金田一がいてボールを準備しているところだった。

「あれ?名前なにしてんの?」
「おはようございます!名字さんはいないっすよ?」
「は?いない?」
「最初に来たの、自分っす。コーチに鍵開けてもらったんで」
「え…」
「どういうことだ」







及川と2人で顔を見合わせていると、続々と部員が集まってきた。しかしその中に名前はいなくて、及川がポケットからスマホを取り出すと電話をかけるも繋がらないらしい。
監督とコーチが現れたので、名前が来ていないことを伝えようとすると、すぐに別の教員が追いかけるようにしてやってきて、2人を引き留めた。

「えぇ?」
「はっ警察?」

おい、なんだよ。警察って言ったよな?
隣にいた及川を見ると、さすがの奴も驚きが隠せない顔で固まっていた。
そして監督だけが体育館に入らずに戻っていくので、俺たちは急いで追いかけようとする。

「おい!お前らどこ行くんだ」
「溝口くん、警察って」
「静かにしろ。今監督が話聞いてくっから」
「名字のことっすよね!?」
「いいから、整列しろ。他の奴らが動揺するだろ」

まだ何も分からねーから、と諭されたので仕方なく及川は部員を整列させて、部活開始の号令を出した。
他の部員には先ほどの様子は聞こえていなかったらしく、名字さんは?休み?という声がちらほら上がった。






監督が戻ってきて体育館の外にコーチを呼んだので、俺も及川も2人から見えないところに移動して聞き耳を立てた。

「溝口くん、悪いが警察に向かってもらえるか」
「構いませんけど… 名字は大丈夫なんすか」
「あー、それはよく分からんが。とりあえずあいつの親御さんがつかまらないらしくてね、家まで送ってやってほしい」
「分かりました」

監督とコーチが入れ替わるように動いたので、慌てて体育館の外に出ると「聞いていたのか」と驚いた顔をされた。

「コーチ、俺も行きます」
「俺も!」
「何言ってんだ!お前らまで来たってしょーがねーだろ」
「部活に集中なんてできません!」
「…溝口くん。連れてってやれ」
「え!?」
「名字も君1人だけで迎えに来られるより心強いだろう。午前で終わる予定だし問題ない」
「でも主将と副主将が抜けるなんて…」
「及川は残します」
「え!?岩ちゃんひどい!」
「お前まで来たら名前が気を使うだろ。しっかり部活まとめとけ」
「…わかった。名前に会えたらすぐ連絡してよね」

監督と及川が体育館へ戻ったのを確認すると、俺は部室に荷物を取りに行ってから職員用の駐車場へ走り、コーチの車に乗り込んだ。






近くの警察署の自動扉を潜り、コーチが案内の人と話している後ろでぐるりと署内を見回していると、こんなところにいるはずのない人物たちが歩いてきてお互いに固まった。

「青城の…コンニチハ」
「伊達工…二口と青根か。なんでここに」
「わ、覚えててくれてるんすね」
「当たり前だ。それより、何があったんだ」
「青城のマネさんとちょっとね」

勿体ぶった言い方をする二口に、つい力が篭って襟首を掴んでしまった。「げ」とコーチが慌てているのが分かる。

「あいつに何かしたか」
「まさか!俺も青根も、マネさんの仲間だっただけですよ」
「仲間?」
「ほら、呼ばれてますよ?本人から聞けばいいでしょ」

それじゃあ、と一言も発しない青根を引っ張りながら二口が去って行くのを、俺もコーチに引っ張られながら睨みつけた。






決して豪華とは言えないが、それなりに落ち着いた雰囲気のテーブルセットがある部屋に通されると、1人用の椅子に名前が座ってぽかんとこちらを眺めていた。
彼女の前と、向かい側にある大きめのソファの前にはカップが置かれていたのでおそらく伊達工のやつらも先ほどまでここにいたのだろう。

「名字、大丈夫か?」
「溝口くんごめんなさい」

声をかけたコーチにすぐさま謝罪をする名前は、特に怪我をしたりといった様子はない。怪我してたら病院か。
案内してくれた女性警官が「少々お待ちください」と立ち去ったので名前に近づき、腕を掴んだ。

「痛いよはじめ」
「何があったんだ!」
「岩泉、落ち着け」

コーチに肩を叩かれたので仕方なく名前を解放すると、眉間にシワを寄せて小さく口を開いた。
ちなみにこれは話したくないことや恥ずかしいことを言うときに名前がする顔だ。

「露出狂に遭った」
「…はっ!?」
「だーかーら、学校行こうとしてたら、なんか曲がり角から突然男が出てきて、バーンってコート開いて中見せてきたの!」
「…そんなベタな奴いるのかよ」
「溝口くんちょっと笑ってないですか?」
「い、いや!」

じろりと名前に睨まれ、コーチは一歩後ろへ下がった。そして名前はため息をついて続きを話す。

「で、中身はすっぽんぽんだったからどうしよーって思ってたら、伊達工の二口くんと青根くんがたまたま通りがかって、二口くんの言葉と青根くんの見た目に逃げようとしたから…」
「おいまさか」
「捕まえたの」
「誰が」
「3人で」

しばらく沈黙する。コーチはもう全く口を開くことなく目を点にしているだけだった。

「名前も、捕まえたのか?」
「私は逃げ道塞いだくらいだよ。青根くんがいたら私なんて戦力にならないし」
「いや、でも」
「あとその変態とちょっと話しただけ」
「何話したんだよ?」
「いいじゃんそんなのどうでも!もうさっき警察の人に話したし!」
「なんでだよ!」
「もうおしまい!犯人捕まったしもう帰るだけでしょ!?ねぇ溝口くん!」
「あ、あぁ」
「おい名前、あぶねーことすんな」
「…ふんだ」

イラッ。コーチがいなかったら軽く拳骨くらいいってたかもしれない。
どれだけ心配したと思ってるんだ。ふざけんな。

「お前は気が強いから怖くなかったとか言うかもしれねーけどな」
「…」
「女なんだから、いざとなったら勝てねーんだよ」
「…そんなの分かっ」
「分かってねえ。今後絶対無茶すんな!俺らがどんなに…」
「岩泉、言い方」

コーチがやっと口を開いて俺を止めたとき、ちょうど担当だという警察官がやってきて少しコーチと話すと帰っていいと言ってくれた。

「勇敢な高校生がいるんですね。伊達工業の子たちは大きかったし、頼もしいです」

自分も昔バレーをやっていたと話す警察官に、3人で深々と頭を下げて車へ戻った。
そのまま俺たちを家まで送ると言ってくれたコーチにお礼を言って、後部座席のドアを開けると名前はさっさと助手席に乗り込んだ。

「名字、後ろに…」
「えっ?なんですか!」
「いや…2人ともベルトしろよ」
「「はい」」

名前に気圧されたコーチは静かに発進させ、そのまま誰1人としては口を聞かずに俺らの地元へ車は到着した。




コーチに礼を言って車を見送る。名前は俺をチラリと見てからさっさといなくなろうとしたので、急いで声をかけた。

「名前ごめん」
「…え」
「きつい言い方した」
「あー。私も無視してごめん」

本当は、と名前が続けるので黙って続きを待つ。

「怖かった。でもはじめに連絡したら泣いちゃいそうで、そしたらきっとはじめは自分のこと責めるでしょ?だから隠しておこうと思ったの」
「…そりゃそうだろ。俺らが寝坊したから」
「勝手に先に行ったのは私だもん」
「それは当然のことだろ」

そうだとしても、と言葉を遮られた。
名前は一歩俺に近づくと、そっと手を握ってきたので無意識のうちに握り返していた。

「はじめに心配かけたくないの。でも、逆に迷惑かけてごめん」
「…これからは絶対一緒に学校行くぞ」
「はい?」
「変質者とか近づけねーし、もしいたら今度は俺がお前のこと守るから」
「!!」

ガバッと勢いよく俺の胸に飛び込んできた名前を受けとめると、顔を持ち上げて俺を下から間近で覗き込んでくる。

「な、なんだよ?」
「汚いもの見たから、はじめのこと見て目の消毒してんの」

うわ、可愛い。







なんたる偶然か、あれからわりとすぐに伊達工と練習試合が組まれた。

「二口、この前は悪かった!勘違いして」
「別に気にしてないです。な、青根」
「うす」
「それよりそちらのマネさん、なかなか格好良かったですよ」
「?」
「あの露出狂、青根に抑えられたら諦めて動機とか勝手に話し始めたんすけど、なんでもずっと好きだった幼なじみが結婚するって聞いて自暴自棄になったとか言ってて」
「なんだそれ、意味わかんねー」
「でしょ?俺もそう思ってたんすけど、そちらのマネさん『いつまでも行動に移さなかった自分が悪いんでしょ。私は大好きな幼なじみにちゃんと伝えましたよ。怖くても、絶対他の人に取られたくなかったから』って、腕組んで仁王立ちで言ってました」
「なっ…」
「超格好良かった〜。マネさんの幼なじみってすげー幸せ者っすよね。どんな人なんだろ。バレー部っすか?」
「……」

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201006

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