スリラーバーク 54

無茶も承知

 こうなればロビンさんが集中的に狙われるのは一目瞭然。きっと彼女もそれを承知で私の案にのってくれたのだろう。だから発案者としてそれを援護するのは当然の事だ。

「……!?モリアの影!?」
「影は私が引き受ける!!本体に集中して!!」

 ロビンさんと背中合わせになるように、小さな影たちで集合体となったゲッコー・モリアの影と対峙した。そして地面を強く蹴り上げ、錬成した槍で影を振り回す。
 実体がないせいで、何度も何度を殴りかけても影はスライムのように形状が元のゲッコー・モリアに戻ってしまう。でも少しずつだがロビンさんから影を遠ざける事には成功。こんな物に邪魔だけはさせない。

「グギャ〜〜!!!」
「……やった!!」
「すごーいロビン!!」

 生々しく骨が折れる鈍い音とゲッコー・モリアの悲鳴が聞こえたすぐ後、ウソップくんとナミさんの歓声が届いた。良かった、これでルフィくんたちの影は元に戻るはず。後は優秀な頭脳を失ったオーズを連携して攻撃を繰り広げていけばおのずと結果は見えてくる。
 しかし、何かがおかしいと脳が警告する。視線を交えたロビンさんも手応えのなさそうな表情だ。

「キアーラ!!その"影"に気をつけろ!!!」
「!?」

 視線を影に戻せば、真っ黒だった身体が頭部から足先にかけても色が入っていく。
 迂闊だった。こればゲッコー・モリアの能力の一部。本体から分身体である影へのワープが可能なのだと、容易に予測できたはずなのに。

「まさか"鴉"まで麦わらの一味にいたとはな…、また億越えの影が手に入る」
「…ハッ!あんまり舐め腐ったマネしてると痛い目にあいますよあなた。―――らっきょうは大人しく地中で養分でも吸っておいしくなっとけやらこらァ!!」

 錬成の手合わせモーションをし、地面に手をつけて私の周囲から無数の手の像を錬成すると、それをゲッコー・モリアへ襲わせる。
 七武海にたかが一介の賞金首が叶うはずがない。だけど私にとて億越え賞金首としてのプライドがある。そうやすやすと負けるつもりなんてない。
 ゲッコー・モリアはまたワープしようとしているのか、身体の一部を再び黒く染めて手の像がぶつかったところからあのコウモリのような影が飛び散った。私の方に大群で飛んでくる影コウモリは数匹噛み付いてきたが大半がそのまま通り過ぎて行った。

 近距離はダメだ。影を掴まれでもすればあの大きなハサミで影を切り取られてしまう。でも、見た限り奴はそう速さはないし、あの影法師と対峙した時私の攻撃は普通に当たっていた。…いけるかもしれない。奴がワープする前に、奴に捕まる前に脳天でも一発くらわせてやればいくらでも勝機が増える!!

「キアーラ!無茶はすんな!!」

 外野からウソップくんの叫びが聞こえた。この状況で無茶しないわけにもいかないでしょ。誰かが陽動でもしないと私たちに勝ち目は皆無なのだから。
 私の影に伸びたゲッコー・モリアの手を避けるように、地面を蹴って宙を一転しながら後退する。そして目潰しにゲッコー・モリアの足元を破壊して、奴の背後に回る。影コウモリになった奴の影はさっき躱した。奴の足元に影はないはず。
 いける…!!

「もらったァァァ!!」

 背後から一気に奴へと駆け出し、脳天目掛けて槍を勢い良く突く。たとえ、この一撃が躱されたとしても、きっとゾロさんやサンジさん辺りがこの隙を突いて追撃してくれるだろう。槍の矛先は奴の頭部まであとわずか。




「―――キシシシッ!残念だったな、鴉」
「ッ!!?」

 にょき、とでも言いそうな感じで、奴の首元の影から現れた奴のような指先が尖った手が、槍の矛先を掌で受け止めた。そしてそのまま槍を掴まれると私諸共そのまま地面に叩きつけられる。

「カハッ!」
「キアーラッ!!!」

 そんなちっちゃな影であそこまで実体化した影を作るなんて、質量保存の法則はどこ行ったの。そんな法則この世にはないって事はないんだよね…?

「キアーラ逃げろ!!盗られるぞ!!!」
「キシシシ…、おしかったな。勝負ありだ…」

 狂気に歪んだ奴の双眸が私の影へと移り、そこへ伸びる手から地面に貼り付けられたように倒れる私が逃れる術などなかった。

「……くそッ」

―――ジョキン!!!

 金属がかする音と共に、視界が一面黒く染まっていく。
 てか今回私、気絶しすぎ…。



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