スリラーバーク 50

まるで弔いの線香

 ちょうどサンジの行き先を邪魔する位置にいるらしいルフィゾンビに、サンジは喧嘩を売っていた。
 まだナミ救出は果たせてないことに憤っているのは分かるが、明らかに今はナミよりもサンジの方が危ない。あのゾンビにはルフィの影が入っているわけで、つまりあのゾンビの戦闘力プラス、ルフィの戦闘力と考えていいだろう。見るからにサンジの位置は危なすぎるのだ。

「あ!ウソップくん達発見!下の桟橋にいる!!」
「なぜ屋根に、ゾロ!フランキー!キアーラ!ブルック!」

 屋根の上から地上を見渡していたキアーラは、途中で別れたウソップ達三人を見つけた。ウソップが一人一人丁寧に名前を呼んでくれるのは構わないが、彼らのいる場所はサンジさんには及ばないものの非常に危険な場所ではないのかとヒヤヒヤする。まだ巨体なオーズの背後だけあってまだ気づかれていないのが幸いだが、それも時間の問題だろう。

「あいつバケモノにどなりかかってんぞ!!」
「あの人は何をやってるんだ…!」

 ルフィゾンビに向かって怒鳴りかかるサンジの方をフランキーとキアーラは身を乗り出して見下ろした。いくらサンジが強いと言っても体格差がありすぎて、あまりにもその行為は無謀である。

「"ゴームーゴームーの〜…"」
「え、これってルフィくんの!?」
「あいつもゴム人間になったのか!?」

 ついに攻撃を仕掛けてきたルフィゾンビ、オーズは、ルフィ特有の技名を叫びながら腕を大きく振り上げていた。
 攻撃パターンも影の影響がゾンビに大きく作用する事は実証済であったが、固有体質までもが影響するなんて聞いてないし、まだキアーラの中で証明が完結されていない。
 どういうことなのだと、キアーラはその光景に釘付けにされた。

「"鎌"!!!」

 伸びはしなかった!!
 サンジに振り下ろされた腕は伸びはしなかったが、あれはルフィが腕を伸ばしたのと同じくらいの長さで、全くリーチなんて関係ないくらいだった。
 サンジも果敢に攻撃していってはいるが、巨体相応の破壊力と巨体に似合わない速さで一瞬にしてサンジはボロボロで、こちら側から見る限り意識などとうになくなっているようだった。

「やべェ死ぬぞあいつ!!!」
「くっ」

 縁起でもない事言うなと、ここは言うべきなんだろうがそんな暇は一瞬たりともなく、キアーラは発火布をはめた右手を奴に標準を合わせた。

「"火の鳥星"!!!」

 その先にウソップの狙撃が炸裂し、キアーラは掲げた右手を下ろした。だが安心するのも束の間。オーズは手に握っていたサンジをゴミのように放り投げ、頭部についた火を頭を振って消すと攻撃の発射口であるウソップ達のいる桟橋へと狙いを定めていた。

「まずい!!フランキー、キアーラ!あいつをこっちにおびき寄せろ!!!」
「よしきた!!」
「了解!!」

 ウソップ達は戦えるには戦えるがオーズのほ戦闘力の差があまりにも著しく過ぎているし、一度オーズの恐怖に飲まれたウソップ達が再び戦う意思を奮い立たせるにはたくさんの時間が必要である。そんなウソップ達にオーズを向かわせるわけにはいかないのだ。
 キアーラとフランキーはオーズに向けて火力全開で攻撃するも、オーズはそれを分かっていたように、屈んでそれらを避けていた。そしてギロリと睨まれたと思った瞬間、あの巨体じゃ有り得ないスピードでキアーラ達のいる塔が蹴り飛ばされていた。

「あ…!っぶね!!」
「っ!」

 ギリギリオーズに塔が蹴り飛ばされる前にキアーラ達はその場から逃げられた。崩れ落ちる塔から離れる時、瓦礫と一緒に黒い物体が雪崩落ちていたのが見えた。
あれは多分、いやきっと"おじさん"の体で、肉体がまだ燃えきっていないのを見るとキアーラが完全に"おじさん"の体を焼却しきれなかったことが確信できた。もう僅かな残火程度しかない。

 しかし今はそれに構っていられない。キアーラは"おじさん"の肉体から目を逸らした。



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