スリラーバーク 34

霧の煙る島

 暗い空気が漂った時もあったけど、少し歩くと大分開けた場所に行き着いた。歩くと言っても私はケルベロスもどきに乗せてもらっていて、ただ先を歩くルフィくんの後を付いて行っていただけなのだけど。

 霧のせいで湿度の高い空気がここ数十分でどんどん増してきたような気がして、最初は気にならなかったケルベロスもどきの違和感ありまくる毛皮がギトギトしてとても気持ち悪くなった。よし、降りよう。まだ歩いたほうがましである。

「自分で降りれたのか」

 偶然飛び降りるところを目撃したらしいゾロさんが意外そうにそう言った。この人、私が高所恐怖症か何かと勘違いしているのか?もう上陸の際の事は気にしてないけど、なんかムカついたから彼に肩パンくらわせてそのままルフィくんの横まで早足で歩いた。

「おい、ここで弁当食おう!!」
「バーカ、メシがマズくなる。それに急いでんだおれ達は」

 おいおい、勘弁してくれよ。サンジさんの言う通り、私達はこんなところで呑気にしている場合ではない。ナミさん達を見つけないといけないし、ガイコツも見つけないといけないし、私達にはやる事がたくさんあるはずなのだ。「キアーラも腹減っただろ?」と隣に来た私に同意してほしそうなルフィくん。残念、今の私はサンジさんの味方だ。「早く先進むよ」と返せば、「ええぇぇぇ」という本当に落胆したような声がした。
 お腹が空いたという点においては否定しきれないけど、私はこの島とは大層相性が悪いみたいで出来れば早くこの島を脱出したいと思っている。あんだけ楽しみにしていたはずなのに、蓋を開けてみれば何とやらというやつである。機械鎧の付け根が張って痛いし、何か嫌な予感もする。

ボコッ…
「…ん?」

 何気にルフィくんと先頭を歩いていたその時、何かを掻き分けるような妙な音が聞こえて辺りを見渡した。普通に見渡せば、何の変哲もないただの墓石と枯れ木ばかりで何かが動くような様子なんてない。
 自分で言うのもあれだが、裏の世界で生きて来た私がこんな些細な違和感を見逃すはずがない。僅かな異変をすぐに察知できた。

ボコッ
「あーー……」
ゾボボボッ!!
「ア〜〜〜〜……!!!」
パシッ…
「……」
「あーー…、………!!って帰るかアホンダラァ〜〜!!」

「大ケガした年寄り!?」
「「「ゾンビだろどう見ても!!!」」」

 不気味に現れるゾンビに多少ビックリしたけど、這い出てくるゾンビを普通に地に還そうとするルフィくんにはもっとビックリした。そして斜め上をいく回答にも驚き半分呆れ半分で、ケルベロスもどきから降りたロビンさんと顔を見合わせて肩を窄めた。
 一体のゾンビが出てくるのが合図だったように、体に縫い痕がある多くのゾンビが異様に高いテンションで飛び出てくる。
 何なんだここは。文献で見た"ゾンビ"という概念が瞬く間に覆されていくではないか。もっとのそのそしたものだと思っていたのだが、目の前で「舐めんじゃねー!!」と怒り狂うゾンビ達は想像したものとまるっきり正反対だった。

「ゾンビの危険度教えてやれェ!!」
「「「ウオオオオオ!!」」」

「な〜んだやんのか。危険度ならこっちも教えてやる…!!」

 ルフィくんのこの言葉を聞いて、各々が武器を構える。
 私は両手を祈るように勢いよく合わせるとパンッと音が鳴り、即座に地面に両手を付けた。

『7億B・JACK POT!!』



* * *



「お前らここで何してたんだ」

「えーと」
「…ゾンビだし…埋まってたっていうか」
「腐ってたっていうか…」
「腐ってた」
「おれも」

「フザケてんのか」
「「「スミマセンッ!!」」」
「ほんとにっ!」

 一番高い墓石に座って星座するゾンビたちを見下ろすルフィくんは何というか、とても船長らしかった。ゾンビ達からナミさん達の事を聞き出すと、三人を前に見える大きな屋敷に向かわせるように追いやったらしい。私達もそこへ行くべく、ゾンビ達をまた地面に埋めて屋敷へ向かった。



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