『浪速のスピードスターVSみちのくの流れ星』と大々的に宣伝されたポスターを眺め、謙也はベンチに深く腰を下ろした。

指の一本一本を確認するように、ゆっくりと手を目前にかざし、グッと握り締める。

誇らしい、大きな拳だ。

誰よりも速く、
誰よりも力強く。

すべてはこの日の為に、身体も精神も鍛え抜いた。まだ足りない、まだ足りないと、貪欲に叩き上げた日々が懐かしく、遠く感じる。


控室のドアが、ノックののち重たく開いた。ひとつ頷き、口を固く結ぶ。

吐くほどの弱音は無い。






ライトが照らす対の戦士は、まさに野心の権化――瞳の奥で肥大する炎は、どちらも青く、はかなく揺れる。

たとえば痛みが増える度に、炎は血を吐き出してゆく。ひとつ、またひとつ、己の弱々しい吐瀉によって、やがて炎は消えるのだ。


右ジャブ、
見えた

また右ジャブ、

そう

左フック
遅い、

今、

今だ




目にも留まらぬ右ストレートが、汗と歓声と、ひとりの青年の夢を切り裂いた。

涙ぐむ余裕すら無く、赤いグローブが高々と掲げられ、勝者への光が降り注ぐ。




「勝ったモン勝ちや!!!」



























「‥っていう夢を観てん」

「‥‥」

「なぁ財前。俺が今から世界チャンプ目指す言うたらどう思う?」

「死ねばええのにと思います」

「厳しいなぁ」


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