好きという気持ちだけで突っ走れた学生の頃が懐かしい。
恋愛に必死になって、どうして伝わらないんだともどかしく思いながら、ただ傍にいたくて気持ちをぶつけていたあの頃。
曖昧に笑って流していたアイツは、今何処で何をしているだろうか。
SOS団という、俺の青春の全てを捧げたあの奇奇怪怪な集団は、今はもう思い出の中にあるだけだ。
写真という記憶の残骸でしか見ることのできなくなったあの頃の俺たちは、馬鹿みたいに必死だったのだと思う。
今はもう、何かに真剣に打ち込むことなどなくなってしまった。

(況してや恋愛なんぞ、もう何年もしてないな……)

珍しく定時に上がれた嬉しさで、滅多に寄らない駅前のコンビニに来てチューハイやビール、おつまみ、煙草を買って外で一服していたら目の前で初々しい高校生の男女が漫画のような青春を繰り広げていて。
横にいた自分より二回りほど上に見えるサラリーマンも自分と同じように高校生を眩しそうに見詰めている。
大方(俺にもあんな頃があったなぁ)とでも考えているんだろう。俺も同じだ。
懐かしさに目頭が熱くなるね。
もう10年以上前の話だ。
……今なら、アイツが俺を拒絶したその理由が分かる。

「不安は全部受け止めるから、どんな小さなことでも話してほしいんだ」

随分大人びた台詞に視線を戻すと、真剣な表情の男子高校生。
古泉にどことなく似ている。女子の方は、朝比奈さん似だ。
誰が見ても羨む美男美女カップルだろう。
煙草を灰皿に押し付けて火を消す。
あぁいう希望のありそうなカップルは見ていてどうにも不快になる。
きっと俺自身の高校時代は未来なんて何一つ見えない恋をしていたからだろう。
必死だった。傍にいれるのはほんの少しの間だったし、冗談でもなんでもなく世界がかかっていた。
一生に一度と、死んでもいいと、そう思っていた。
あの頃は辛くて辛くて堪らなくて、けれど何処か幸せだったのかもしれない。
ぼんやりと生きている今よりもずっと濃密な時間を過ごしていた。
戻りたいとは思わないが、今の方がいいとも思えない。

(あまり思い出したくない話だな、あの頃なんてのは)

不安を受け止めるどころか気付くことすらできていなかったのだと知ったのはつい最近だ。
俺たちは明らかに両想いなのに何故俺の想いに答えてくれないのかとそればかりが気に食わなくて、アイツの気持ちを思いやることができなかった。
悔やんでも悔やみきれない。
もっとアイツに寄り添えていれば、若しかしたら俺の隣にはアイツがいたかもしれないのだ。
たらればなんていう無駄な仮定話は好かないが、それでも思わずにはいられない。
やり直せるなら、俺だって。

(……俺だって何だよ。不安は全部受け止めてやるのにってか?)

何度やり直したって俺はアイツを支えてやれないだろう。
結果は何一つ変わらない筈だ。あぁ、若しかしたら俺以外の誰もが望んだようにハルヒと一緒になる未来が一つぐらいはあったかもしれないな。
ハルヒも、古泉も、長門も、朝比奈さんも。今誰がどこで何をやっているのか俺は全く知らない。この先も知ることはないんだろう。
それでいい。
SOS団は、気付けば一種神聖なものになってしまっている。侵してはいけない領域とでも云うべきか。
ダイヤのように一転の曇りもない輝きに満ちたそれを、俺はこの先も宝石箱に仕舞っておくべきなのだ。時々取り出して眺めるだけで十分だし、それ以上どうしようもない。
すっかり年を取ってオッサンになってしまった今、そうやって心の拠り所にするしかないというのは悲しくもあるが。
どこかで生きているはずの古泉達も、俺のようにあの頃を大切なものの一つとして覚えていてくれたらいいなと思う。





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