「きっと何百何千と繰り返された今までの僕もこうして貴方に想いを伝えたのでしょう」

また、忘れてしまうかも知れません。僕も貴方も。
そう云って泣き笑う古泉を、器用だなと思った。
悲しそうに泣いているのにどこか幸せそうに笑っている。それは実に器用な表情だ。

「そうだな。今までに何千と繰り返されたシークエンスで、俺も飽きもせずにお前を受け入れてるんだろう」

或いは此方から告白したか。
いずれにせよ全て無に帰ることが前提の関係である事に間違いはない。
存外空しさは感じないが、そんな自分に呆れはしている。
逃すまいという意思表示なのかしっかりと囲うように抱き締めてくる腕は、しかし逃げてほしいとでも云うように緩く全く力が入っていなくて、さてどうしたものかと考えてしまう。
抱き締め返すべきか、或いは逃げるべきか。

「どうかしましたか」
「……下らない考えごとだよ」

腕を振りほどいて距離を取る。
古泉はもう泣いてなどいなかった。涙は流れているが、それでも泣いてはいない。
同性ながら惚れ惚れする爽やかな笑みを浮かべている。

「お前と付き合うつもりはないよ」
「……えぇ、分かってました」

愛してます、とまるで天気の話でもするような気軽さで口にする男に、此方も同じように返事をする。

「俺も愛してるよ、お前を」

蝉時雨が、俺の言葉をかき消そうとでもしているのか騒がしい。
蝉の種類なんてもう忘れてしまったが、ざっと3種類はいるんだろう。
今がまさに夏のど真ん中であるかのような、日陰にいても汗ばむ蒸し暑さだというのにつくつくぼうしの鳴き声まで混じっていて何ともアンバランスだ。
まだ、夏は折り返し地点だというのに。

「まだ、当分終わりそうにないですね」

眩しそうに眼を細め太陽光から逃れるように手を翳している古泉が、少し声を張り上げた。
つられるように見上げた空には真っ白な入道雲。
遠くで雷がなる音が聞こえた気がして、俺たちは歩みを速めた。





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