古泉既婚独白。 意味不明注意。 昔まだ僕たちが付き合っていた頃彼がぽつりと零した言葉があった。 それを聞いた僕は何故だか豪くショックを受けて、暫くは落ち込んでいた。 けれどどんな言葉だったのか、思い出せない。 記憶の彼方 会社帰りに彼によく似た人を見かけた。立ち寄ったコンビニでビールと発泡酒とつまみと煙草を買って、外の灰皿で煙草を吸っていたときだった。 気だるそうな雰囲気を身に纏い、周りから一歩引いて、それでも自然に溶け込むように輪の中にいたその人は、けれど良く見たら彼とは全く似ていなくて、何故だか随分とがっかりしてしまった。 (彼は元気にしているだろうか) そんなことを思って、思わず笑う。 彼と僕の人生はもう十年以上前に分岐してしまった。 高校時代の、あの特別な三年弱の間だけ共に歩んだけれど、元々関わるはずのなかった僕たちだから連絡が途絶えるのはそう不自然な事ではなかったと思う。 彼が涼宮さんや朝比奈さんや長門さんとは違うタイプの女性と結婚したという話を聞いたのがもう5年以上前で、だから僕は彼の近況は一切知らない。 知りようもないし、知りたいとも思わなかったから当然といえば当然だが。 いつもより幾らか遅めの帰宅だったけれど文句は一切云われなかった。 「お帰りなさい、無事で何より」 にこりとも笑わないしかといって怒りもしない彼女だけれど僕のことを心配していたのは明白で、罪悪感に苛まれると同時に、愛されている安心感もある。 彼のことはまだ忘れられないし愛しているが、僕は間違いなく彼女のことも愛している。 「すいません、コンビニで長居してしまって」 「そう。お風呂入ったら?」 「ええ、そうします」 会話が少ないのは彼ににているかも知れない。 けれど、彼女の方が彼より遥かに無愛想だ。まるで長門さんのように表情が変化しない。 そんなところも、好きなのだけれど。 風呂から出て用意されていた食事を食べて、冷えたビールと発泡酒で乾杯する。 いつもの日常なのにどうしても彼が気になってしょうがない。 何故だろう、と考えたところで理由など一切思いつかず結局諦めて彼女と一緒にドラマをぼんやりと眺める。 主人公が夢について語っていて、そしてそれを聞いている友人が「俺、やっぱりもう一回頑張ってみるよ」なんて云っている。ごく一般的でありがちな青春ドラマだ。 それを頬杖をついてつまらなそうに眺めていた彼女がぽつりと、 「夢は夢だからいいのに」 と呟いた。 途端記憶の中の彼が、今の彼女と全く同じ言葉を紡いだ。 『夢は夢だからいいんだ』 それはどういう意味ですか、と僕が聞くと彼は酷く寂しそうに笑った。 『叶ってしまったなら、それは夢じゃないんだよ古泉』 ただの目標だ、と呟いた彼はいつもの気だるげな彼で、僕はそれ以上言葉の意味を聞くことができなかった。 あぁ、やっと思い出した。 そうだ、彼は――。 |