キョン君、と耳慣れた声が俺を呼ぶ。
振り向く前に後ろから抱きすくめられた。

「今日は5月9日です」
「あぁ」
「何の日だかご存知ですか?」

云われて考えるが古泉が好みそうな記念日は一切思いつかない。

「メイクの日、黒板の日、呼吸の日、」
「……よくご存じですね」

古泉が呆れたような諦めたようなそんな溜息を漏らした。
やはりヤツの望んだ答えはなかったようだ。

「今日は告白の日なんですよ」
「いかにも好きそうだな」

背後で古泉が笑う気配がした。
えぇ、好きですよ。と厭に良い声で囁かれる。
ぞわっとした。気持ち悪い、というよりは情事を思い出してしまったからだ。実に忌々しい。

「キョン君、好きです」
「分かってるよ」
「つれないですねぇ」

楽しそうなクスクスという笑い声が鼓膜に響くのが少しばかりくすぐったい。
離せ、というとあっさり解放された。代わりに手を握られたのは大目に見よう。
夕日の差し込む部室で、何が楽しくて男同士手を握り合っているのかと思わないでもないが、不快ではない――というか寧ろ安心感がある、のも事実だ。

「俺も好きだよ、古泉」
「それは奇遇ですね」

おどけたように笑う古泉に全くだ、と返すとさも可笑しそうにあはは、と笑う声が部室に響いた。






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