雨が降っている。
梅雨だから当然と言えば当然なのだが、昼前までは降る気配はなく、久しぶりに雨が降らない日になるのではないかと期待していた俺は、若干なるダメージを受けた。
うん、ショックだ。
それは目の前の男も同じ様で、

「雨、ですねぇ…」

窓の外を見ながら残念そうに呟いた。
ハルヒはぼんやりパソコンの画面を眺めていたが、何かを思い出したらしく、勢いよく立ち上がった。

「あぁっ!」
「うぉっ!」

かなりビックリした。
ハルヒよ、一体何事だ?

「アタシ今日傘持ってきてないのよ」

何でも昨日傘を壊してしまったらしく、今日は持ってこれなかったらしい。
なら折り畳み傘は無かったのか、と云う話だが、折り畳みも破損したとの事。
時期的にそれはキツいだろう。
古泉もそう思ったらしく、苦笑いしている。

「男物ですけど良かったら使って下さい」

鞄から出してさりげなく渡す辺り、さすが古泉だな。

「有り難く受け取っとくわ。って言いたいところだけど古泉君は?」
「もう一本ありますから」
「本当?」

疑わしげな視線を向けられた古泉は、笑顔を崩すことなく頷いた。

「ちゃんとありますから」
「そう、なら良いけど。じゃ、アタシ達は先に帰るわ。鍵、ヨロシクね」

ハルヒはそう云うと長門と朝比奈さんを連れ部室を出ていった。
さて、俺達もこの勝負が終わったら帰るか。

「古泉、早くしろ。お前の番だ」
「あ、はい」

今俺は古泉と将棋をしていた。
古泉はじっくり考えてはいるのだが、何故そんな所を動かすんだ、と疑問に思う様な手ばかりで正直弱い。
まぁ、楽しそうだから良いんだがな。
そんな事を考えながら古泉を眺めていると、此方を見て不思議そうに首を傾げた。

「どうかしましたか?」
「お前本当に傘もう一本あんのか?」
「…それが…実はないんです…」

呆れた…。
コイツもしかして濡れて帰るつもりだったのか?

「仕方ねぇな…。俺の傘に入れてやる」
「ありがとうございます。でも良いんですか?」
「お前の家までな」
「すいません…」

将棋をさっさと終わらせ、帰宅準備をする。
二人で入るには小さい折り畳み傘を広げ、男同士肩を寄せ合い坂を下る。
時々触れる肩に、柄にもなく緊張する。
今の俺は相当赤い顔をしているに違いない。
いくら二人きりの帰宅が久しぶりだとはいえ恋する乙女かお前は、と自分に突っ込みをいれ、そして恋する乙女よりよっぽど俺の方が乙女に違いないと思い直し落ち込む。
自分が気持ち悪い。
だって古泉の事が滅茶苦茶好きみたいじゃんか、俺。
そんなの仮に事実だとしても認めたくないね。
と、まぁそんな事をぐだぐだ考えていると古泉の住んでいるマンションに着いた。
古泉は俺の手を握り当然の様にエントランスに入った。そのままエレベーターに乗せられ、気付けば古泉宅のリビングに居た。
「すいません、濡れてしまいましたね」
「構わんさ」
「でも風邪を引いたら大変ですから着替えましょう?」
そう言って渡されたスウェットに着替え、古泉が入れたコーヒーを飲む。
制服をハンガーに掛けたり何だかんだとドタバタしていた古泉も、コーヒーを片手に俺の隣に腰掛けた。
特に会話はないが、居心地が良い。
あぁ、幸せだな、とまた柄にもない事を思った。
もう考えるのは面倒なのでマグカップをテーブルに置き、古泉に凭れ掛かる。
頭上でクスクスと笑う声が聞こえ、肩に回された腕が俺の頭を撫でる。
その感覚が心地好くて、眠くなる。
「眠いですか…?」
「……ん…」
「寝ても良いですよ」
「……ん…」
そう言えば今日は金曜だったな、そんな事を思いながら俺は目を閉じた。





僕に凭れ掛かりすやすやと寝ているキョン君の頭を撫でていると、キョン君の手が僕の服の裾を掴んだ。
一体どんな夢を見ているのか、幸せそうな顔をしている。
可愛いな、と思った。
きっと本人に言ったら怒られるのだろうけど。
にしてもこの体勢は辛くないのだろうか。
そう思いベッドに運ぼうとするが、キョン君の手は僕の服の裾をしっかり掴んで離さない。
このままで良いか。
もし辛そうだったらその時はベッドに運ぶ事にし、僕はテレビをつけた。

一時間程眠っただけで案外すぐ起きた彼と夕食を作る。
それを二人で食べ、二人でお風呂に入った。
いつもは一緒に風呂なんて論外だ、とでも言うような反応をされるのに、今日は何だか素直というかなんというか。
彼自身も自覚はあるらしく、真っ赤な顔で睨まれた。
そんな顔で睨まれても怖くない事を知らせるべきだろうか。
否、きっと彼はそれも分かっている上で睨んでいるのだろう。取り敢えず眉間のシワに口付ける。
顔を更に真っ赤にしてあわあわしているキョン君はやはり可愛い。
「可愛いですね」
「…っさい…!」
逆上せる前に、と上がると彼は髪を乾かすのもそこそこにベッドにダイブした。
「キョン君、髪まだびしょびしょですよ」
「……んー…」
彼からバスタオルを取り、髪を拭いてあげる。
バスタオルを片していると、キョン君はふと思い出した様に口を開いた。
「なぁ古泉」
「はい」
「明日映画見に行こうぜ」
「良いですよ」
遠回しなデートの誘いに自然と頬が緩む。
彼はチラリと僕を見てすぐに顔を枕に埋めてしまった。
「おやすみなさい」
「…ん、おやすみ……」
もう半分寝ているのかトロンとした目で見上げてくるキョン君は、ふにゃりと笑って僕の手を握ると満足そうな顔をして寝てしまった。
今日は驚かされてばかりだな、と思いながら僕もベッドに入る。そして明日のデートの計画を練りながら目を閉じたのだった。


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一体一書いたものなのか・・・
一年以上前に書いたものですね
加筆修正してあります





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