※キョン古



わん、と足元で鳴くのは俺の可愛いペットだ。
しかし俺は犬は飼っていない。では一体ナニがわんと鳴いているのかといえば俺と同じ人間だ。
視線はテレビに向けたまま手を下ろすと頭を押し付けるようにしてもう一度わん、と鳴いた。

「なんだ、手じゃ不満か」

視線を向けると慌てて首を横に振るペットが目に入る。
辛うじて肩に掛かっているだけのワイシャツを直してやると嬉しそうにまた擦り寄ってきた。
ソファに乗ることを許してやるとおずおずと俺の隣に座り、機嫌を伺うように顔を覗き込んでくる。
こういった仕草は本当に犬そっくりだ、と思う。まぁ俺は犬なんぞ飼ったことがないんで実際のところは分からないんだが。

「喋ってもいいぞ」
「……キョン君」

普段はわんという鳴き声以外は許可していないが、たまには良いだろうと思いそう云うと不思議そうに首をかしげて俺のあだ名を口にした。学校では名前にさん付けで呼ばれるからあだ名というのは新鮮だ。

「寒くないか」
「はい」

大丈夫です、と擦り寄ってくるのを受け入れてやると腕を俺の首に回して上目遣いで見つめてくる。
中々色っぽい。エロチシズムだとかそういうのは俺には一切わからんが、こういうのは込み上げてクるものがあるな。
背中に手を回し膝の上に座るように誘導してやるとおずおずと俺の表情を伺いながら腰を下ろした。視線は自然古泉の方が高くなる。だからどうということもないが。
もっと体重をかけるように指示するとへにゃりと笑いながらしな垂れかかってくる。
どこか幼げ表情と艶っぽい仕草のアンバランスさにくらくらした。

「キョン君?」
「……あぁ、悪い」

首輪を外してやると愈々不安げな表情になる古泉を落ち着かせるように背中を撫でる。
最初は首輪の違和感に中々慣れず苦労していたというのに今ではない方が落ち着かないというんだから笑える。
俺がそういう風にしてしまったという罪悪感は今ではもうすっかりない。こんな関係になってしまったことに対する後悔だけは、まだ暫く消えそうにないが。しかし普通の恋人よりペットと飼い主という関係性の方がしっくりくるのも事実だ。

「キス、してください」

ぺろぺろと俺の頬を舐めながらお願いしてくる古泉をソファに引き倒して、おねだりに応えるべくキスをした。





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