飲酒ネタ。酔い泉君。
※お酒はハタチになってから!







目の前の机に所狭しと並べられた酒、酒、酒。チューハイや、発泡酒、ビール、ノンアルコール類。
何故こんなものを健全な男子高校生たる古泉が持っているのか。

「森さんに、全部飲んでも良いから置いといてくれと頼まれまして」

少し困ったように笑う古泉に思わず深い溜息を吐く。
森さんも大量の酒を上司から押し付けられ困っていたらしい。だからといってそれを高校生である古泉に渡してしまう理由が分からないが…。

「今のうちにお酒に慣れておけとも云われました」

最早脱力である。
まぁ、大学に入学してもハルヒの力が健在だと仮定して、SOS団での飲み会もするだろう。そこで「古泉一樹」が酔っ払って前後不覚だなどとそんな無様な姿を晒す訳には行かないんだろう。それはいい。
しかし、酒に慣れるには少々早いのではなかろうか。

「で、飲むのか」
「飲みたいですか」

へらっと笑って問われ、返事に詰まる。
まぁ、正直なところ、俺も酒に興味が無い訳じゃない。だがしかし、法律では飲酒はハタチからと決められているし、大学に入りサークルにでも入れば新歓で飲み会に行くだろう。
だからまだ飲まなくてもいい、というか、ぐだぐだ云っても仕方ないが、詰まる所俺の良心が咎めるのである。

「キョン君?」
「あぁー…、飲んでみたい、とは思うが…」
「じゃあ飲みましょう」

ぱぁっとまるで花でも咲いたのかと思うような明るい笑顔で古泉はチューハイを手に取った。
どうやらこいつ自身は飲みたかったようだ。それならそうと云ってくれればよかったものを、俺が飲まないといえば恐らく飲まなかったのだろう。
まぁ、存外我慢のできないこいつのことだ、どうせ一人の時に飲んだんだろうとは思うが、俺と飲みたいと思っていてくれたのなら可愛いものじゃないか。
グレープフルーツ味、と書かれたチューハイを手に取り、俺もあける。
プシュッと炭酸が抜ける音に、何となく高揚する。まぁ、こう云ってはなんだが人生初飲酒と鳴る訳だ。罪悪感と期待感が混じり何とも云えない気分である。
一口飲んでみた。
まぁ、味はいたって普通のグレープフルーツジュースだ。普通に美味しい。アルコール独特のツンとしたにおいがしないからだろうか、あまり酔うようなものではない気がする。
横目で古泉を見ると嬉しそうに飲んでいる。

「あんまりぐいぐい行くと酔うぞ」
「はい」

ニコニコにこにこ、俺の言葉はちゃんと脳みそまで届いているか?と問うてみたくなるような笑顔で頷いた古泉に思わず苦笑する。





いやはや…、ヤツが4本、俺が5本、計9本空けてしまった。
古泉は既にべろべろだ。チューハイ2本半、ノンアルコール1本、発泡酒を半分。アルコール度数はチューハイも発泡酒も4%台と低めのものなので、古泉は相当酒に弱いのだろう。俺は古泉が残した発泡酒、チューハイ、それからノンアルコール1本、それから普通にチューハイを3本空けたが、顔が赤くなり少々饒舌になったくらいで大よそ平常時と変わらない、はずだ。まぁあまり自信はないが。

「きょんくん」
「一樹」

返事の代わりに名前を呼んでやる。
俺の足の間に座り、俺の胸に凭れ掛かって古泉はご機嫌だ。用もないのに俺を呼んでは一人で笑っている。まぁ、楽しそうで何よりだ。
泣き上戸だったりしたらどうしようかと思ったが、逆でよかった。

「きょんくん」

また名前を呼ばれ、返事をしようとしたらキスをされた。

「ぎゅー」
「ぎゅーってお前…」

擬音つきで抱き締められた。幼児化してないかこいつ。
それはそれで普段と違う部分を見られて面白いが。

「きょんくん」

少し怒った口調で呼ばれ、顔を覗き込むとどうやらご立腹のようで、可愛らしく頬を膨らませ俺を睨んできた。普段はもっと腹の立つ拗ね方をしてくるから、いやそれはそれでかわいいんだが、普段からこうだと俺もこいつの機嫌を把握するのが楽で良いんだがなぁ。と、まぁそのようなことを思いながら頭を撫で、一先ず謝罪する。

「ごめんな」
「きょんくんもぎゅーってしてくれたらゆるします」

思わず噴出してしまった。本当に普段の古泉からは全く考えられない態度だ。
抱き締めて頭を撫でると機嫌は直ったらしく、すぐに楽しそうな笑顔になった。
暫くの間、俺の手を握ったり空き缶をゴミ箱に投げてみたりと一人遊びをしていた古泉だが、段々眠くなってきたらしく瞼が下りてきている。

「ベッド行くか」
「なにするんですかー?」
「寝るんだよ…」

さすがに、明日の朝には記憶が消えていそうなコイツを抱こうとは思わん。
古泉は寝ると聞いて不満そうな声を洩らしたが、可能ならば起きているうちに着替えてベッドに入っていただきたい。

「ほら、朝までぎゅーってしててやるから」
「ぎゅー…」

きらきらと顔を輝かせた古泉は率先して寝室へ向かうと、覚束ない手付きでパジャマに着替えベッドに潜り込んだ。
背中から聞こえる急かす声に返事をしながら俺も着替え、古泉の横に寝転ぶ。
この際片付けもシャワーも明日で構わんだろう。
腕枕を要求され、それに応えながらそんなことを思った。





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