あまりの寒さに目が覚めた。
ぼやける視界で天井を確認し、そして横を見る。寝る前は確かにいたはずの男はいない。温もりすら残っていないということは、ヤツがベッドを抜け出してそれなりの時間が経っているのだろう。
サイドボードには携帯もない。ついでに云えばクローゼットに掛けてあったジャケットもない。
恐らく高確率でやつは閉鎖空間だ。いたいけなカミサマは一体こんな夜中に何だってそんなに不機嫌なのかね。悪夢でも見たか、親と喧嘩でもしたか。まぁいずれにせよ理不尽なことに発生してしまった閉鎖空間の所為で、こんな夜更け過ぎに古泉は駆り出されているのだ。
こんな寒さでは寝れそうにないので、ベッドの下に落ちていたヤツの寝巻きを羽織って、ベッドを抜け出した。
リビングは真っ暗だ。カーテンの隙間からはどんよりと曇った夜空が見えている。
ちらりと壁に掛けられた時計に視線をやると、時刻はまだ3時を回ったところだった。
キッチンに入ると鍋をコンロにセットした。牛乳と砂糖を適当に入れて火を点ける。
膜が張らぬように、沸騰しないように、時折おたまでかき混ぜながらぼーっとしていると、玄関から控えめにガチャリという音が聞こえた。静かにドアを開け、そっと音を立てぬように靴を脱ぎ、やはり音を立てぬように廊下を歩いているのだろうが、音を殺しきれていない。古泉の行動が、そして位置が手に取るように分かって、何だか笑ってしまった。
火を消すとマグカップを二つ用意して、ホットミルクを注ぎ入れる。甘い匂いに、少し気分も明るくなる。
がちゃ、と大きめの音が響く。古泉はリビングに入ってくるなり俺に抱きつき、深く息を吐いた。
不安なとき、疲れているとき、古泉は必ずこうやって俺に抱きつく。少々痛いが、それで落ち着くのなら、まぁいいかといつも好きにさせている。

「タイミングがいいな、丁度ホットミルクができたところだ」

自分のマグカップを手に取り、一口飲んでみる。
甘い。少し砂糖を入れすぎたかもしれない。次回は少し砂糖を減らそう。

「きょんく…」
「飲めよ」

ほら、とカップを渡すと渋々、と云った感じで俺から離れ、口をつけた。一口飲んで、また深く息を吐く。

「落ち着いたか?」
「…はい」

半分ほど飲み干すと、古泉はまた俺に抱きついた。先ほどよりもずっと緩く、さして力は入ってない。振りほどこうと思えば簡単に振りほどけるだろう。
それなりに落ち着いたことを確認して、腕の中から抜け出す。少し不満そうな声が聞こえたが、洗物が先だ。
鍋とカップをシンクに置くと、古泉は僕がやります、と云った。
拒む理由も無いのでお願いして、ソファーに腰掛ける。テレビをつけるとグルメ番組がやっていた。こんな時間にも放送しているのかと少々驚く。実に美味しそうな料理が次から次へと出てきて、何だかお腹が空いた。
洗物を終えた古泉がリモコンを取り、テレビを消す。

「お腹、空いちゃいますよ」
「あぁ、腹減った」

何か食べますか?と聞いてくる古泉は楽しそうだ。

「いや、いい。寝よう」
「そうですね」

古泉に連れられ寝室に戻ると、ベッドに飛び込む。
古泉は笑いながら寝巻きに着替えようとして、そして俺を見た。

「あ、悪い」
「いえ、僕は新しいの出しますから」

クローゼットから適当に出して着替えると、古泉もベッドに潜り込む。
そして俺を抱き枕のように抱き締め、満足気に笑った。

「おやすみなさい、キョン君」
「あぁ、おやすみ」

暫くして寝息が聞こえてきた。
俺は古泉がきちんと寝たことを確認してから瞼を閉じた。





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