古泉の自宅。
明日は平日だというのに俺はこんな時間(現在時刻は21時30分を回ったところだ)になってもまだ滞在していることに深い理由はない。
ただ、古泉に居てほしいと云われたから此処にいる。
家には泊まる、と電話してあるし、下着を含め服などは置いてあるし。特に問題はない。

「キョン君」

俺に膝枕をして満足げにテレビを見ていた古泉が、ふと思い出したように俺を呼んだ。
読んでいた本から古泉に視線を移すと目が合う。

「今日が何の日か知ってますか?」
「ラブレターの日か?」
「それもあるんですけど」

テレビから、正解はキスの日でしたー、という少々馬鹿っぽそうな女子アナウンサーの声が聞こえた。

「ほう?」
「日本で初めてキスシーンが登場する映画である、佐々木康監督の『はたちの青春』が封切りされた日なんだそうです」

そういえば去年だかにテレビで見た気がする。あの時はサラッと流したが。
本に栞を挿んで起き上がると、テレビでは丁度ラブレターの日の解説をしていた。
523がこいぶみと読めるとか、浅田次郎原作の本がどうとか。
日本人てのはこじつけが好きなのだろうか。1年365日、毎日が何かの記念日だ。
それが悪い、という訳ではないが。

「古泉、」

名前を呼ぶと律儀に此方を向いてなんでしょう、と答える。
犬のように従順で、非常に可愛らしい。
少々乱暴だが頭を掴んで、此方に引き寄せ、キスをした。
こうして古泉に口付けるのももう数え切れないほどしたが、相変わらず飽きない。
少しかさついている、女性らしさのない唇。それを思う存分貪ってから放すと、飲み込めなかったのであろう唾液が垂れる。
些か、いや、相当、エロい。
そう思う俺は沸いているのかもしれないが。

「いき、なり…!」

怒ったように睨み付けられても何も怖くない。
それどころか、上気した頬や潤んだ瞳のせいで豪く扇情的だ。
が、しかし、機嫌を損ねると明日の俺の昼飯が無くなってしまう可能性があるので(明日の昼は古泉が弁当を作る予定となっている)、宥めつつ触れるだけのキスをする。

「悪かったって」
「そんなこと思ってないくせに」

唇が触れそうな距離で謝ると、拗ねたように文句を云いながら、今度は古泉がキスをしてきた。
勿論、触れるだけの可愛いものだ。
それを何度も何度も繰り返すと、機嫌が直ったのか、くすくすと笑いながら古泉が俺を押し倒してくる。

「おい、」
「キョン君」

俺の言葉はあっさり遮られ、また何度も触れるだけのキスを繰り返す。
若干長めの髪が首筋に当たって割とくすぐったいのだが、キスの合間にそう告げても古泉は意に介さない。
きっとキスに夢中で俺の言葉なんてろくに聞いちゃいないんだろう。全く困ったものだ。
そこがまた可愛いんだが、なんてまた沸いたことを考えて、一人苦笑する。

「キョン君?」
「…気にするな、ほら」

こっちに集中しろ、と体勢を入れ替えて深く口付ける。
最初こそ多少抵抗するものの直ぐに諦めて背中に手を回した古泉を抱き締めた。
少しだけ、痩せた気がする。もっと太れといつも云っているのに困ったものだ。

「愛してる」
「…僕も、」

愛してます、と吐息混じりに囁く古泉にまたキスをした。





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