そろそろ行きますね、と呟くように言った古泉は、笑ってはいなかった。

泣いても、いなかった。

ただ、何処か諦めたような、疲れ切ったような、そんな表情をしている。




機関の命令で海外の大学へ留学することになったのだと聞いたのはいつだったろうか。

三日ほど前だったろうか。随分前のような、ついさっきのような。

ハルヒの力はもう殆ど無くなり、朝比奈さんは未来へ帰り、長門もまた自分のあるべき場所へ帰った。

古泉だけは、自分の意思で動くことも出来ず。







「キョン君、」




泣かないで下さい。

殆ど息だけでそう言うと、古泉は俺にキスをした。

今までで一番優しいキスを。




泣いているつもりは無かった。

それでも視界は歪んでいるし、何より古泉が言うのだから間違いは無いのだろう。




「一樹」




泣き過ぎて頭は痛いしフラフラするし、声も掠れている。

それでも今呼ばないと後で後悔するような気がして。

俺は古泉の名を呼んだ。

一度も呼んだことが無かった名前を、最後に初めて呼ぶだなんて、皮肉じゃないか。




こんなに好きなのに。

ハルヒは関係ないんだ。

もう、アイツに力は無い。

なのにどうして、まだアイツに振り回されているんだろう。




「なぁ、一樹」

「何ですか」

「また、会えるんだよな?」




分かり切ってるじゃないか。

答えは否だ。

古泉が飛行機に乗ってしまえば、もう二度と会うことは出来ない。

携帯は外国には通じない。

向こうの電話番号は教えてもらっていない。

連絡手段は無いのだから。

それでも、まだ、諦めきれない俺が居る。




「なぁ、一樹?」

「・・・勿論、また会えますよ」




いつものように笑って言った古泉は、泣いていて。

何だ、駄目じゃないか。

最後は笑顔で別れましょうって言ったのは古泉なのに。

でも、俺だって上手く笑えやしない。

もう二度と会えないと分かっているから。

分かっているけど、でも、約束せずにはいられない。



また会いましょう。

(さようならは言わない)(いつかまた、会えますから)(きっと、戻ってくるよな?)





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お題サイト様、昨日と今日の狭間様より。

赦される、偽りの言葉



恐らく三年くらい前の作品
この改行っぷりが恐ろしい
前サイトより転載





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