今日、お前の誕生日だろう。

彼にそう云われて思い出した。そうだ、今日は五月四日だ。
GWど真ん中で、いつも祝ってはもらえない誕生日。
今年は、彼が居る。

「しかしお前、ハンバーグなんかでいいのか」
「はい」

夕食に好きなものを作ってくれるという彼に甘えて僕がリクエストしたのはハンバーグだ。
彼の作るものは少し形が歪で大きさもばらばらで、けれどとても愛情がこもっていて美味しい。
彼は呆れたように笑って立ち上がった。

「買い物行くか」
「ぼくケーキも食べたいです」

財布を持って僕も立ち上がる。
こうして彼と肩を並べて近所のスーパーへ通うのももう何度目だろう。
彼は慣れたようにカゴを取ると店内に入った。そのカゴを横から奪うと彼は一瞬驚いたように僕を見て、それから睨みつけ、最後に苦く笑う。
これも、いつも此処に来るたびにやっているイベントのようなものだ。
メモを片手にあれやこれやとてきぱき必要なものをカゴに入れていく様はまるで主婦のようだ。云うと怒るから云わないけれど。
直ぐに会計を済ませると彼は出口付近のケーキ屋さんに立ち寄った。

「どれにする?」
「キョン君はどれがいいですか?」

どれもこれも美味しそうで、彼に決めてもらおうとそう聞いたら、「お前が決めろ」と笑って返されてしまった。僕の誕生日ケーキなのだから、確かに彼に決めてもらうのは可笑しいかもしれないなと思ってもう一度ショーケースに視線を戻す。

「うーん…。抹茶ケーキも美味しそうですねぇ…」
「ああ、だな」
「じゃあこれで」

珍しくあまり悩まずに決めた僕を珍しげに見て、本当にそれでいいのか、と確認してきた彼に頷いて返すと、彼は店員さんにチョコプレートとチョコペン、それから蝋燭もお願いした。

「名前くらい、俺が書いてやるよ」
「楽しみです」

ケーキは彼が、夕飯の材料は僕が、それぞれ持って帰宅する。
今年も彼と誕生日を過ごせることが嬉しくて思わず笑みが零れた。そんな僕を見て、彼も何も云わずに笑う。
帰宅すると彼は早速夕食作りに取り掛かった。
僕はその間に、とお風呂洗いをする。彼は誕生日なんだからしなくていい、と怒ったけれど誕生日だからといって全部彼に任せるのは申し訳なくて厭だった。
お風呂洗いも終わってすることもなくぼんやりとテレビと彼を交互に見ていたら、テレビに集中しろと笑われる。

「けど、貴方のことも見ていたくて」
「…そうかい」

呆れたように固まってからやれやれと首を振って彼は直ぐに作業に戻った。
高校時代のようなべったりラブラブ、なんてことはもうないけれどこうして彼が台所に立って料理している姿を眺めていると、以前よりも幸せを感じる。
きっと高校時代は色々と必死で、心に余裕がなかったからだろう。
今は涼宮さんという心配事もないしお互いに成長して、こうやって幸せを噛み締めることが増えてきた。彼はそういう僕や彼自身に年寄り臭くなったな、なんて厭そうにするけれど、僕は大人になったのだと嬉しく思っている。

「出来たぞ」
「相変わらず、とても美味しそうです」

いただきます、と両手を合わせると彼が召し上がれ、と返して食べ始める。
あまり会話はないけれど、元々彼も僕も話す方ではないし全く気まずさもない。それどころか夫婦のような安心感があって、僕はまた自然と笑顔になった。

「このスープも美味しいですね」
「あぁ、我ながら良く出来た」

どれもこれも本当に美味しくて、あっという間に平らげてしまった。少し物足りない気もしたけれど、彼が笑いながらケーキを持ってきてくれて、さらに目の前でチョコプレートに名前とメッセージを書いてくれた。
数字の蝋燭を立てて火をつけて、お決まりの歌を歌って、

「一樹、誕生日おめでとう」

飛び切りの笑顔でそう云われて、胸がじんわりと温かくなる。
蝋燭の火を吹き消すと、鼻の奥がツンとして、何か生暖かい液体が頬を伝ってぽたりとテーブルに落ちた。
彼は驚いてか、がたんと立ち上がり、そして僕の方へ回ってきて、よしよしと頭を撫でてくれる。ついでに抱き締められて僕の方が驚いていると彼は優しい声で、もう一度おめでとうと云った。

「ありがとうございます、キョン君」
「来年も、再来年も、祝ってやるから」
「…はいっ」

泣くなよばか者、と頭を小突かれて顔を上げると彼は矢張り笑っていて。

「幸せで泣けるなんて、思いませんでした」
「…愛してるよ、一樹」

滅多に云ってくれない彼が、僕を泣き止ませるためなのか、そんなことを云うから僕はまた泣いてしまう。

「僕も愛してます」

暫しの抱擁の後彼が切り分けてくれたケーキを食べながら、来年再来年のことを思って、僕はまた少しだけ泣いた。



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PS2ソフト「S宮Hの戸惑」内の設定を使いました。
公式にはないから小野さんの誕生日といっしょにお祝いさせてもらいます。
誕生日おめでとう古泉君。





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