俺は古泉が好きだ。愛してるといってもいい。
だからどうと云う訳でもないが、ふとした瞬間に見える素の表情にいつもそう思う。
恋人になりたい、という訳ではない。いや、なれるのならそれはとても嬉しいことなのだが。
ただ、古泉が笑っているだけで俺も幸せになれる程度には綺麗な感情だったりする。

「どうかしましたか?」
「いや」

週末恒例の不思議探索で偶然俺は古泉と二人で組むことになった。
随分と珍しい組み合わせだが、古泉はSOS団でいるときよりもずっと表情豊かで、こちらとしては楽しい。

「何か楽しそうだな古泉」
「そうですか?」

珍しい組み合わせですし、とにこにこ笑う古泉にそうだなと返す。
何か見つけるたびにあれ見てくださいこれすごいですねと嬉しそうに報告してくるのが物珍しくて、俺も中々楽しい。

「キョン君も」
「ん?」
「キョン君も楽しいですか?」

急に足を止め真剣な表情で聞いてくるもんだからどうしたらいいのか分からず固まってしまった。
それをどう捉えたのかしょんぼりとし始めた古泉にまたまたどうしたらいいのか分からない。

「俺は」
「…はい」
「お前がはしゃいでるのを見てるだけで十分楽しいぞ」

そう伝えると古泉は突然足早に歩き出した。
置いていかれてはかなわん、と慌てて追いかけるが何故だか古泉は俺のほうを見ようともせず小走りで逃げていく。

「おい待てって」

気分を害したなら謝る、といいつつ腕を引っ掴むと古泉が諦めたように立ち止まった。

「ぶはっ…」

顔を見て思わず吹き出してしまう。
古泉は首から耳まで驚くほどに真っ赤になっていた。

「わ、笑わないで下さいよっ」
「スマン…」

笑いを堪えながら謝ると古泉は拗ねたようにもう…と呟いた。

「あなたがいけないんです」

くどくどとさっきの台詞がどれだけ小っ恥ずかしかったかを説明する古泉がまた妙に可愛くて面白い。折角収まった笑いがまたじわじわとこみ上げてきて、古泉の文句を聞きながらも俺はやはり笑ってしまった。

「笑わないで下さいってば!」
「悪い…、いや…、お前が中々可愛くてな」
「かっ…」

思わず絶句すると古泉はそのまましゃがみ込んでしまう。
少しからかい過ぎただろうかと思ったがしかし出てしまった言葉を取り消すことは出来ないし、何より紛れもなく俺の本心だったので黙って髪をぐしゃぐしゃと撫でておく。

「貴方には敵いませんね…」
「そうか?俺もお前には勝てる気がしない」

少し赤みが引いた古泉が不思議そうに顔を上げた。
あぁ、やっぱり好きだ、と思った。
今日この数時間に、今まで一度も見たことがなかった表情をたくさん見せてもらったが、それは俺にとってやはりこれ以上ないくらいに嬉しいことな訳で。

「あの、」
「お前が好きだよ古泉」

何か云おうとする古泉を制して俺は続ける。

「まぁだからどうって訳でもないし何が望みって訳でもない。何となく云いたくなっただけだから忘れてもらって構わん」

そろそろ戻るか、と云うと古泉はやっと立ち上がった。
それを見届けてから歩き出そうとしたときに、腕を掴まれた。そんなことをするやつは古泉しかいない。

「ずるいです」
「は?」

思わず間抜けな声が出てしまった。
一体何がずるいと云うんだ古泉よ。

「云い逃げはずるいですよキョン君」

振り向くといつになく真剣な表情をしている古泉と目が合う。
古泉は腕を掴んでいた手を下ろし、手を握ってきた。さすがに街中でこれは、と振り払おうとしたが思いのほか強く握られていてそれは出来なかった。

「なぁ、」

何も云わない古泉にじれて思わず口を開いたときにやつがそれを遮るように云った。

「僕もあなたが好きです」

驚きすぎて声も出ない。
今こいつは何て云った?僕もあなたが好きです?それはつまり、どういうことだ。
混乱している俺をよそに古泉は手を離すと戻りましょうか、と今度こそ歩き出した。

「あ、おい待てよ!」

慌てて追いかけると、やはり古泉は顔を赤くてして思わずこちらまで赤面してしまう。
あぁ、恥ずかしい。いったいなんだってこうなったんだ。
嬉しい、が、ものすごく恥ずかしい。
あぁ、でも嬉しい。
何だってこんなに、と思うぐらいに古泉が好きな自分を自覚して、俺は思わず俯いた。


陽だまりのようなこの気持ち

(古泉のことを想うだけであたたかくてしあわせ)





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