朝起きたら女になっていた。 俺がじゃない、古泉がだ。 女になっても随分と立派なモノを持ってるんだな、忌々しい。 隣ですよすよと眠っている古泉の外見はだな。 肩につくぐらいの緩いウェーブのかかった髪、朝比奈さんよりも大きいのではないかと思うぐらいの巨乳。そして言うまでも無く整った顔。 いつまで眺めても飽きないのだが、こんな奴の顔を眺めているのは癪に障るのでさっさと起こすことにした。 「おい。起きろ古泉」 数回体を揺すって無理矢理起こした古泉は固まること数秒。 「あはは、面白い事になってますね僕」 綺麗なソプラノボイスでそう言った。 「それだけか」 「困りましたねぇ…」 さして困ってもいなさそうな表情と声でそう言うと普通にベッドから抜け出した。 誤解の無いように言っておく。俺たちは上下とも服を着ている。 古泉はクローゼットを開け、中に入っている制服を見て苦笑した。 「セーラー服、ですね」 「…着たらさぞや似合うだろうな」 半分本気半分厭味でそう言うと、あまり嬉しくないですけど、とやはりそうは聞こえない声でそう呟いた。 「ご飯食べて学校行きましょうか」 「そうだな」 まだ寝てても構いませんよ、と云う古泉に朝飯を作らせ、俺はテレビを見ることにしたのだが、一寸後悔。 何故って? エプロン着けて朝食作ってる美少女だぞ。 新婚みたいだとか良く分からない考えに自分で自分に若干引いた。 「どうかされました?」 「…いや」 「そうですか」 なら良いんですけど、なんて微笑む古泉に何で俺が赤面なんぞしなければならんのだ。 相手は古泉だぞ? イケメンの癖に変態で鬼畜で意地の悪い、しかも周りの人間にさして興味の無いあの古泉だぞ? 否、確かに良い所もあるが…。 って何を考えてるんだろうね、俺は。 古泉の作った飯を食い、制服に着替え、家を出たのは良いが。 きっと今の俺たちはさぞや不釣合いなカップルなんだろうな。 とりあえず並んで歩いていて気付いたのだが今の古泉は俺より目線が数センチ低い。 「ねぇキョン君。手繋ぎませんか?」 「…まぁ構わんが」 「ふふ、僕達普通のカップルに見えますかね?」 お前が美人過ぎて俺がお前に釣り合わんだろう、とは言えなかった。 嬉しそうな顔で笑ってるから。 「あ、でもコレじゃ貴方を抱けませんね」 「アホか」 女だとか関係ない、殴らせろ。 「痛いからヤです」 と、まぁ下らないことをしている内に学校に着いた。 「長門に会いに行くか」 「放課後会いますし別に良いでしょう」 「そうか?」 「えぇ、僕の事を考えてくださってるのは嬉しいのですが」 感情の読み取れない顔でそう言うと古泉はさっさと教室に行ってしまった。 少し古泉が心配になりながらも教室に入ると、ハルヒが何やら紙袋を俺に渡してきた。 「何だよコレ」 「一姫ちゃんに着てもらおうと思って」 中を覗くとメイド服が入っていた。超ミニの。 「あー…、まぁアイツが嫌がらなきゃ良いんじゃね?」 嫌がるわけ無いじゃない!とやたら自信たっぷりに言われたが、敢えて何も言わず席に座る。 「なぁ、キョン。お前まさか古泉さんと付き合ってる訳じゃないよな?」 行き成り谷口にそう聞かれ、んな訳あるか、と答えようとしたが、何を血迷ったか気付いた時には正反対の事を言っていた。 「俺とアイツが付き合ってたら悪いのかよ」 「マジか!?」 「ちょっとキョン!聞いてないわよ!」 「言ってねぇからな」 「そういう事は団長であるアタシに最初に言うべきよ!!」 「悪かったな」 後ろから参戦して来たハルヒとごちゃごちゃ五月蝿い谷口と、何やら面白がってる国木田に根掘り葉掘り聞かれ、俺は今更ながら言わなきゃよかったと後悔した。 まぁ取り敢えず古泉の事についてはやたらとからかわれたが後は特に何も無く放課後になった。 もう既に来ていた古泉を見付けると、ハルヒは俺をさっさと追い出した。 やっと中に入れたのは後から来た朝比奈さんが着替え終わった後だったので、まぁ30分程の時間を一人で待たされたことになるな。 「どう、キョン?一姫ちゃん可愛いでしょ?」 「あ、あぁ…」 確かに激しくお似合いなのだが、目のやり場に困る。胸のボタンは二つほど外され、まぁ、絶景といえば絶景、なんだが。 古泉は胸のボタンよりスカートの丈が気になるらしく、ずっと裾を引っ張っている。 「ほら、一姫ちゃん。キョンが可愛いって」 「あ…はぃ、ぁりがとうございます…」 何とかいつものような爽やかスマイルを作ろうと努力しているらしいのだが、涙目な上顔が真っ赤で、正直危険だ。男が居たら間違いなく襲うであろう。 何だか妙な気分だ。普段は可愛いだ何だと言われる側だからな。 身体が女になって中身もちょっと乙女になってるのか? 「ほら、キョン!アンタが微妙な反応しかしないから泣きそうじゃない!彼氏なんだからもうちょっとマシな反応しなさいよ!!」 「…悪い」 「ぃ、ぃえ…、その、気にしないで下さい…」 あ、ヤバイ。ちょっとその笑顔は。 「…可愛い」 「は?」 ん?俺今変な事口走ったよな。なんつった?可愛い? …ないわー、マジないわー。 古泉も驚いた顔してるし。 しっかりしろ、俺。 「キョン、あんたちょっと危険」 「うるせー、ほっとけ」 ハルヒに不審者を見るような目で見られた。朝比奈さんに若干哀れみのこもった目で見られた。長門は…、視線が痛かった。古泉は、何一つ理解出来ていない様な、不思議そうな顔で俺を見てくる。 「良い?一姫ちゃん、キョンはね、そこら辺に居るエロ親父と同じなのよ。だから信用しちゃダメ。男は皆狼なんだから!」 「ぁ…、そぅいう…」 古泉はちょっと考えてから納得した。 「私は構いませんよ?」 いつの間にか一人称が私になっている。って言うか良いのか。朝はコレじゃ貴方を抱けませんね、とか言ってたくせに。 古泉に俺の危険性を勝手に説明しているハルヒを眺めていると、いつの間にか長門と朝比奈さんが背後に居た。 「今日が終ると同時に元に戻る」 「そうか」 「それにしても何で古泉君が女の子になってしまったんでしょうか」 「それは昨日彼女がそういう話を読んだから」 「男が行き成り女になってる話か」 「そう」 まぁアイツの身近な男は俺か古泉で、まぁ古泉だったら飛びっ切りの美女になると思ったんだろうな。 まぁ実際、かなりの美少女になった訳だ。 「貴方は女である古泉一姫の方が好き?」 「難しい質問だな。俺は性別がどうとかではなく、古泉一樹と云う人間が好きなんだ。だからまぁ、女の古泉も好きだぞ?」 「きっと古泉君が聞いたら喜びますよ」 「あはは…」 そんな恥ずかしい事出来るか、って感じだが、もしかして古泉の奴俺が女の方が好きなんじゃ…とか思ってるのか? 妙な所で乙女だな。 んー…、と考えているといつの間にか団活が終っていた。一体どんだけ考え込んでたんだ、俺は。 「キョン、一姫ちゃん、二人は残って良いわ。じゃ」 残って良いわ、ってお前。残って何するんだ、という前にハルヒは朝比奈さんと長門を連れて出て行ってしまった。 マジで何をしろと。いや、男泉ならばナニをするのだろうが。 「困りましたね」 「…あぁ」 「ヤります?」 「は?」 「僕は別に貴方に抱かれても構いませんが」 また一人称が変わっている。 まぁハルヒが居ないから戻しただけだろうが。 って言うかサラッとコイツは。 「良いよ。どうせ俺じゃ女は抱けんだろう」 ムカつくが俺の体は古泉の野郎にしっかり開発されてしまったのだからな。 「そうですか」 「それに明日には戻ると長門も言ってたし」 「…はぁ」 「嬉しくないのか?」 「複雑です。この体でしたら貴方と付き合ってても何の問題も有りませんから」 「そうか?その体じゃ俺が抱けないんだろ?」 「…えぇ、まぁそうなんですけど」 「じゃあ良いじゃねぇか。おら、ちゃっちゃと着替えろ。あぁそうそう、金曜までお前ん家には泊まらんぞ」 「それは残念です」 そう言って笑った古泉はもういつも通りだった。 ったく、世話の焼ける奴め。 「古泉、良く聞け」 「、?」 「俺はな、古泉。男であろうと女であろうと、古泉一樹と云う人間が好きなんだ。序でに言うと俺は男のお前の方が好きだ、ぞ…?」 うん、大分恥ずかしい。 暫くはこんな恥ずかしい事なぞ言ってやらん。 「え、あ、あの、もう一回お願いします!」 「断る」 「お願いします!」 「断る」 「もう一回だけ!」 「えぇい、しつこい!もう言わんぞ俺は!ほら、良いから帰るぞ」 全く、もう一回ぐらい言ってもいいか、とか思っちまうあたり、俺も古泉には弱いよな。 惚れた弱みってヤツか? そんな事を考えながら古泉の手を取った。 |