何も無い日曜、何と無く古泉に会いたくなった。 敢えて連絡は入れず、30分程掛けて歩いて行くことにした。ドアホンは鳴らさず、以前無理矢理渡された鍵を使って中に入る。 中に入ると古泉は俺が入ってきたことにも気付かず必死に書類を片付けている。 きっと機関の報告書なんだろう。 それにしても…。 随分と意外な格好をしている。よれよれのジャージに黒縁のメガネ。男にしては少々長い髪は後ろで一つに束ねられ、同じ様に長い前髪はちょんまげの様になっている。 (かわいい…) いつもの様な爽やかさはないし、カッコ良さもない。 でも、 「…うん、かわいい」 「へ?は?うわっ!!!」 「よ、」 「ななな、何で貴方が此処に?え?あれ?」 普段からは想像出来ない慌てっぷりである。 「落ち着け。何と無く来てみただけだ」 「ででで、でも!か、鍵!マンションですから玄関は開いてても!」 「お前が合い鍵くれたんだろ?」 「あ…」 やっと落ち着いたらしくいつものようにそう言えばそうでしたね、などと言っているが格好が格好なので何とも言えない。 「それにしてもかわいいな、お前」 「っは、しまっ…」 「ぶはっ…」 今更な反応に思わず吹いた。 反応が一々面白すぎる。 何だか知らなかった一面だ。 (良いこと知ったな) 「そうだ、飯食ったか?」 「…いえ、それがまだ……」 「じゃあ作ってやるよ」 冷蔵庫にあった少ない野菜と残り飯でチャーハンを作る。 古泉はその間にTシャツとジーパンに着替えていた。ちょっと残念だったがその格好も団活では見れないカジュアルな格好で中々格好良い。(古泉相手にカッコいいとか俺キモいな…) 「今日は随分と機嫌が良いんですね」 「お前の新たな一面を垣間見た」 「あはは…」 落ち込んでる古泉の前にチャーハンを置く。 「ちゃんと三食食わないと倒れるぞ」 「貴方が作って下さればいいんですけどね。そうだ、高校卒業したら同棲しましょう。貴方はもっと僕の事が分かりますし、僕はきちんと三食食べられます」 「確かになー…。んじゃ卒業する前から少しずつ荷物運んどいた方が楽でいいよな」 「…えぇ」 「何だよ」 「いえ」 貴方がそんなあっさりOKするなんて以外で、なんて言いながらチャーハンを食い始めた古泉の横に座る。 暫くボーっとしていて、偶にはこうやってのんびりするのも悪くないな、なんて血迷った俺は更に血迷った発言をする。 「今度から週末飯作りに来てやっても良いぞ」 「本当ですか!?」 「おー…」 「じゃあ是非」 「おー」 いつの間にか食い終わってた古泉は食器を流しに置くとすぐに戻ってきた。 そしてソファーに腰掛けると俺を足の間に座らせ抱き締めてきた。 「何だよ」 「いえ、珍しく貴方が素直なので」 嬉しそうに笑う古泉に、脳が沸いてる俺は、甘えてやっても良いかなんて良く分からない事を考える。実行はしないけど。 「なー、古泉」 「はい」 「後で散歩行こうぜ、今日良い天気だから」 「えぇ」 「んで、今日の晩飯の買い物して」 「良いですね。勿論泊まっていかれるでしょう?」 「んー、考えとく」 「おや、連れないですね」 ボーっとテレビを眺めながらそんな会話をして、夕方、家を出た。 少し日が傾き始めていたけどそれでも良い天気だ。 誰も居ない道で自分から手を握ってみる。 古泉は何も言わずに黙って握り返してきた。 「なぁ」 「はい」 「ねこ、飼いたい」 「良いですね。じゃあそれは大学卒業してからですかね」 「おう」 「キョン君が専業主婦だと嬉しいんですけどね、僕は」 「バイトぐらいさせろよ」 「構いませんよ、バイトなら」 ハルヒの事があるから先の事なんて判らない。 でもいつか本当に一緒に暮らせる様になったら良いな、なんて思った。 「なぁ」 「はい」 「クリスマスは指輪な」 「…。っはい!」 「こたつ欲しい」 「はい!」 子供みたいな返事に思わず笑う。 また、かわいい、なんて思ったりもして。 あぁ、幸せかも知れない、なんてらしくないことを考えた。 |