遅刻しましたがオナニーの日。キョンが最低かも。潮吹き。





今日が何の日か知ってるか、とまるでいつもの僕のようなことを言い出した彼の顔は、見るからによろしくないことを企てている表情だ。
「海の日、でしょうか。あとはそうですねえ、ドイツの独立記念日でもありますが」
自然公園の日や神前結婚記念日なんていうものもあるが、たぶん彼は存在すら知らないだろう。
「俺が言いたいのはそういうちゃんとした記念日じゃなくてだな」
語呂合わせだよ、と言われてカレンダーを見る。7月21日。なな、に、いち。何となく察してしまった自分が憎い。
「わかったみたいだな」
「……あ、僕そういえば今日機関の集まりが」
「ないだろ」
寝室に連れ込まれあれよあれよという間に服を脱がされて、じゃあよろしく、なんていう彼を睨みつけるしかできない。彼にオナニーの日なんてくだらないことを伝えたのはいったい誰なんだ。そもそも、自慰というのは普通一人でするものだろうに。自分の部屋で己を慰めることで満足してくれていればよかったのに、どうして僕の自慰を眺めるという発想に至るんだろうか。
男として恋人の自慰に興味があること自体は理解するけれど、それを実行に移す彼に恨みを抱かずにはいられない。性に関する好奇心と妙な思い切りが良すぎる。
「しないのか」
「できるわけないでしょう……」
ベッドの下に雑に投げ捨てられた衣服を拾おうと伸ばした腕を掴まれて、結局またベッドの上に座らされてしまった。
「俺のこと嫌いなのか」
「どうしてそんなお話になるんですか」
好きじゃなかったらこんな話をされた瞬間に殴って逃げている。何だかんだで従ってしまっている時点で、僕は相当に彼のことが好きなのだ。
「そんなに嫌がるなって。見せてくれたらもうコレ使わないから」
勝手に人の鍵付きの引き出しにしまい込んでいる尿道バイブ片手に頼む、なんていうけれどどうせ嘘だ。彼がこの手の約束を守ってくれたことなど一度もない。
「……そんなに仰るなら。でも一度だけですから」
こんな風に彼の言うことに従って後悔したことは数えきれない。どうせ今回だってロクなことにならないとわかっているのに、惚れた弱みなのか何なのか、結局今回も許してしまった。
正面に座ってじっと見つめられて、もう既に後悔に苛まれている。性的な興奮など一切ない状態で自慰なんて、しようとも思ったことがない。
「手伝ってやろうか」
「手伝い、ですか」
キスをされて困惑しているうちに舌をねじ込まれて思わず彼の肩を掴むと、乱暴に口内を犯される。
「んっ、ふ、んんぅ」
両手で耳を塞がれて、はしたない水音と自分の喘ぎ声が脳に響く。彼の手をどかそうと手首を掴んだが、それが気に食わなかったらしく軽く舌を噛まれてしまった。
「っ、は……ぁ」
「もう勃ってる」
「や、っ……ちょ、っと……!」
既に反応し始めている自身を軽く握られて思わず反応した僕を見て、彼は楽しそうに笑う。
「なあ、見せてくれよ」
腕を掴まれそのまま股座に誘導されて、仕方なく屹立を握る。そういえば最近バイトが忙しくて彼と肌を重ねるどころか自慰もしていなかった。
こんな異様な状況で興奮しているのは、だから仕方ないのだと自分に言い訳をしながら手を上下に動かすが、彼の視線が気になってどうにも集中しきれない。
第一、目の前に彼がいるのにどうして自分で自分を慰めなきゃいけないのか、やはり納得がいかない。
「……あ、の」
「ん?」
「手を、貸してください……」
絶対拒否されると思ったが、彼は案外あっさりと頷いて、後ろから僕を抱きしめてくれた。手を貸すだけだ、動かさない、という宣言通り、本当にただ僕が動かしたようにしか動かないが、それでもほかでもない彼の手であることと、それから細かい動きが制御できないもどかしさからか、先ほどよりはるかに気持ちがいい。
「ん……、んぁ、っ……」
「もうぬるぬるしてるな」
気持ちいいか、と言われて頷くと軽く親指で先端を撫でられる。たったそれだけの刺激で腰が跳ねる自分が憎らしいが、耳元で小さく笑う彼はより憎たらしい。楽しそうで何よりだ。
声を抑えることができない程度には気持ちがいいのに、けれどこのままではいつまで経っても達することはできそうにない。彼と付き合い始めてから殆ど自慰なんてする機会はなかったが、多分前回したときには前だけでは達せなかった気がする。腹立たしいが、僕はもう後ろも刺激しなくては満足できないらしい。今だっておなかがどうにも切ない。
ここまで来たら、きっと彼は僕が一度達するまでは本当に一切手を出してくれないだろう。仕方なく引き出しからローションを取り出すと、彼が後ろで息を飲んだ。
彼の指に雑にローションを掛けて後ろに宛がって軽く息を吐くと、軽く頭を撫でられる。
「久しぶりなんだから、もう少し使った方がいいんじゃないか」
「……はい」
言われるままローションを足して彼の指を一本、ゆっくりと挿入する。何が悲しくてこんなことを、などと考えてはいけない。彼に教え込まれた気持ちいい場所を探して、少しずつ抜き差ししながら押し進める。自分で触ったときは前立腺に触れるまでどちらかというと気持ち悪さの方が大きかったというのに、彼の指だからただ挿入しているだけでも気持ちがいい。
「ん、んっ、きょんくん……っ」
「あぁ……、もう少し手前だろ」
ほら、と言いながら彼がほんの少し指を抜いてぐ、とおなか側を押す。
「ひぁっ……あ、」
場所を教えてくれただけ親切なんだろうが、結局それ以上動かしてはくれなくてもどかしい。もう一本挿入できるよう解して自分の指も使いながら、先ほど教えられた場所を刺激する。
「っ、ふぁ……、んっ」
急に彼の指が口に突っ込まれて、驚く間もなく口内を犯される。口の中なんてそんな気持ちいいものでもないと思っていたのに、彼の指で口蓋をくすぐられ舌を摘ままれるとぞわぞわと緩やかな快感が背筋を走る。
「ほら、指動かさないといつまでも終わらないぞ」
「ぅ……、ふ……」
僕だってできることならこんなことは早く終わらせたい。
けれど自分の指ではイけそうにないし、彼の指だって自分で動かさないといけないからもどかしい刺激ばかりで、中々決定打がないのだ。
それに、背中に当たる熱が気になる。何より、指では届かない奥が、ずっと疼いている。
「もぉや……、やです……」
早くいれてほしい、彼に抱きしめられているのに触ってもらえないのは寂しい。そう彼に訴えると、そっと頭を撫でられる。
「……仕方ねえな」
指が抜けてすぐうつぶせに寝かされて、振り向くと彼がベルトを外しているところだった。
「っ、はやく、ください」
「焦るなよ」
入れるぞ、言いながら彼のものがゆっくりと挿入される。
「んんっ……、うあ、っ」
腰を掴まれて最奥まで穿たれ息が詰まる。少し苦しいけれど、それをはるかに凌駕する気持ちよさだ。きっと少し突かれただけで達してしまうに違いない。
「動くぞ」
必死で頷くとすぐにピストンが始まる。
「あ、やぁ……っ」
軽く抜けては奥を突く、いってしまえば単調な動きではあるが、指より太くて熱いものが、中を無理やり押し広げていく感覚すらも気持ちがいい。
「や……っ、だめ、だめ……っ」
「は、中すげえうねってる」
久しぶりの彼の熱に、我慢なんてできるわけがない。
「いきた、ぁ……っ」
「ん、一回出しとけ」
思い切り奥を抉られながら前を触られて、もう駄目だった。
「イ、あぁ……っ、イく……っ!」
彼の手を汚してしまった、と一瞬申し訳なくおもったが、尚もピストンは止まらないし前を触る手はむしろ激しくなっている。
「いや、やめ……っ、やだぁ!」
「もー少し我慢な」
必死で彼の手を掴んで外そうとするけれど、力なんて殆ど入らず抵抗の意味を為さない。先端をこねるように弄られて痛くて苦しいのに、彼は僕が必死で抵抗すればするほど楽しそうだ。
何か尿意に近い感覚に苛まれてどれだけ必死で我慢しようとしても、一向にやまない刺激のせいで何かがこみあげてくる。
「な、や、なんか……っ、もれちゃ、やめ、きょんく……っ」
「出せよ古泉」
ほら、と先端を軽く爪で引っ掻かれて、何かが彼の手を濡らす。
「ほんとに出るもんだな」
彼の汚れた手が目の前に差し出されて思わず目を逸らすとまた思い切り奥を抉られた。
「んぁ……っ」
「ほら、透明だろ。匂いもしない」
「へ……」
彼が言う通り、少なくともアンモニア臭はしないしどうやら透明なようだ。僕が先ほど吐き出した白濁もついているから良くわからないけれど。
「男でも潮吹けるってまじだったな」
「っ、悪趣味ですよ……」
人の体で試すなんて最悪だ。
彼を罵ろうとした瞬間に律動が再開する。そういえば彼はまだ一度も達していなかった。
「んんっ……あ、っく……」
「悪い、もう少し」
ピストンが早まりやがて背中にあたたかな液体を掛けられる。
「はあ、疲れた」
ごろりと隣に寝っ転がる彼を睨むと、仕方なさそうにティッシュを数枚とって背中を拭いてくれる。中に出されなかっただけマシとはいえ、色々と今日は最悪だった。
もう二度と彼の言うことなんて聞かない、と何度目になるかわからない決意をして、そっと嘆息した。





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