5/16 性交禁止の日



「今日が何の日かご存知ですか」
学校と変わらない爽やかな笑みで古泉がそんなことを言う。今まさに口づけを交わしつつベッドに倒れ込みこれから恋人の夜の触れ合いを始めようって時に一体何だと言うのか。知らん、と答えれば今外したばかりのボタンを留めながら古泉はにっこりと笑った。
「性交禁止の日です」
「はっ!?」
「だから今日はダメ、ですよ」
ね、キョン君。なんて普段は呼びもしないあだ名で俺を呼び腕の下からするりと抜けると、古泉はそのまま風呂場に向かったようだ。
なんだその意味の分からん日は。電源がつけっぱなしの古泉のパソコンで調べれば成程確かにそんな話もゴロゴロ出てくる。3年以内に死ぬとか言われてもな、世の中のどれだけの人間が今日一日でセックスしてると思ってるんだ。全員が全員3年以内に死んでたまるか。
とはいえ、とは言えだ。
うっかり手を出そうものなら、凶悪なまでに可愛いウソ泣きでもって貴方は僕が死んでもいいんですねと罵倒されてしまうに違いないので、ここは諦めるしかないだろう。クソ、それならそれでもっと前に言えという感じだが、多分思い出して思い付いて言ってるだけなんだろうな。
あいつはそういう所がある。
「人のパソコンで何してるんですか」
「うわ、つめてえ」
急に後ろから覗き込まれて振り向くとまだびしょびしょの髪が顔に当たった。手に持っていたタオルを奪って古泉をベッドに連れていき、髪を拭いてやりながら古泉の恰好を見て溜息を吐かずにはいられない。普段はきっちりとパジャマを着こんでいるくせに何故今日に限ってダボダボのシャツ一枚なのかなんて、まあ理由は分かりきっている。俺がそういう格好が好きだからだ。
多分下着も穿いてないんだろうな。今日は駄目とかいいつつ、誘うような恰好をしやがってこいつは、そんなに俺をからかうのが楽しいのか。
「ほら、次ドライヤー寄越せ」
古泉は案外ズボラだ。ドライヤーだってベッドサイドのコンセントに挿しっぱなしの癖に、自然乾燥派なんです、とか言って普段はあんまり使わない。
俺に髪を乾かしてもらっている間、のんきに携帯のメールなぞをチェックしてでかい欠伸までして、俺の前で要らん演技をしてないのは可愛いが、気を抜きすぎじゃないか。たまにはもう少し可愛いところを見せてくれてもいいと思うんだよな。付き合ってるはずなんだし。
「そら、乾いたぞ」
「ありがとうございます。貴方に髪を乾かしてもらうのは好きです」
「そうかい」
俺も風呂に入るかなと立ち上がろうとした瞬間古泉に肩を押され、そのままベッドに倒れ込む。四つん這いで俺の顔を覗き込んで何やら楽しげだ。
「明日夜までいますよね」
「ああ、そのつもりだ」
「じゃあ、明日は家でのんびりしましょうね」
上機嫌に笑って普段滅多に自分からはしてこないキスまでしてきて、俺が絶対に手を出さない状態がそんなに楽しいのか。それは何よりだ、なんて笑う余裕は生憎俺にはない。まだ健全な男子高校生なものでね。下半身は既に臨戦態勢だ。
クソ、風呂で抜こうと思ったというのに。
古泉は俺の首筋に顔を埋めてすんすんと匂いを嗅いでいる。
今日一日団活で歩き回って汗を掻いているんだから臭いだろうに、やめろと頭を叩いたところでやめる気配はない。
「いいにおい……」
「っこら、」
舐められて思わず頭を掴んで引き剥がすと不満そうな顔をされた。
「何しやがる」
「おいしいですよ、汗」
「美味しいかどうかを聞いてるんじゃありません……」
思わず脱力すると古泉はその隙にまた首筋に顔を埋めて舐め始める。それだけで興奮してるのか段々呼吸は荒くなってきてるし少し腰も揺れてる。というか俺のに古泉のを擦り付けられている。
「これだけで勃っちゃうんですか、貴方」
「誰のせいだよ」
ちらりと時計を見ると23時50分。あと10分我慢すれば今日が終わるわけだ。ならもう少し好きにさせてやるか、と決めて古泉の背に腕を回す。相変わらず細い。
古泉は首を舐めるのに飽きたのか俺のTシャツを引っ張って鎖骨のあたりを舐め始めた。
「伸びるっつの」
「じゃあ脱いでください」
はやく、と不満げに言われて仕方なく起き上がりシャツを脱ぐと古泉は俺の膝の上に座り嬉しそうにまた舐め始める。っていうかやっぱりこいつ下穿いてねえ。背中からすすっと下に手を下ろすと男にしてはすべすべで弾力のある尻に辿り着いた。撫でまわすとくすぐったいのか身を捩りながら肩に噛み付かれる。
「手つきがおじさん臭いですよ」
「知らん、お前の尻が気持ちいいのが悪い」
古泉はリップ音を立てながら胸や腹に吸い付いて、そのうちテントを張っている俺の息子に辿り着いた。雑に前開きの部分から出して何やら嬉しそうにニヤニヤしている。
「何してんだ……」
「可愛がってあげるんです」
へえそうかい、と雑な相槌をすると気に入らなかったのか先端に軽く歯を立てられる。なんて恐ろしいことをしやがる、と思っても急所を握られてちゃ何もできない。おのれ古泉、舐めるなり咥えるなりさっさとしてくれ。
古泉はぺろ、と先端を軽く舐めて、
「しょっぱいです」
などと感想をくれた。そういうのは要らん。
「俺はまだシャワー浴びてないんだよ」
「知ってますよ」
へらっと笑うと口付けてぺろりと舐める。先端と裏筋っていうのはまあ、男なら大抵弱い、はずだ。そこをわざと焦らしてんのかちろちろと小さく舐められるともどかしいったらありゃしないが、しかし普段涼しい顔をしているこいつが欲情した顔でそういうことをしている、という視覚情報による興奮はある。赤い舌が何とも扇情的だ。
時計を見ると12時を回っている。ということは、もうナニをしてもOKなわけだ。
「古泉、こっち来い」
サイドボードの抽斗からローションを取り出し、腕を掴んでベッドに寝かせ覆いかぶさると、慌てたように俺を退かそうと肩を押してくる。痛い。そもそもの話こいつと俺とならたぶんコイツの方が力あるんだよな。
「日付は変わってるんだから、もういいだろ」
「へ、」
間抜け面で時計を確認している隙に股間に大量にローションを掛ける。バスタオルを敷くのを忘れたことに気付いて、慌てて椅子にかかっていた俺用のタオルを下に敷くと軽く頭を殴られた。軽くとは言ってもいたいものは痛い。
「何しやがる」
「っ、貴方が、ちょ、っと……っ!」
軽く握るだけで古泉は身もだえて喘ぐ。後ろに垂れているローションを塗り込めるようにゆるゆると指で押すと気持ちいいらしく、びくんと震えながら脱ぎ捨ててあった俺のシャツを掴み、顔を埋め必死で声を耐えている。顔のいい男に無体を強いているのは楽しい。
いやまあ、一応和姦のはずではあるんだが。本気で嫌なら暫く起き上がれない程度の強さの蹴りを入れてくるような奴だコイツは。
「っふ、ん、ん……ぅ、」
前も緩く刺激しながらそうやって弄っていると少しずつ後ろも緩んできて、指が入るようになってくる。指で軽く押して引いてを繰り返し、そっと指先を挿入すると、シャツを握っているのとは反対の手が伸びてきて、前を触っている手を握られた。仕方なく軽くタオルで拭ってから手を握ると、その手にぎゅ、と力がこもる。
「痛いか」
ふるふると首を振って長い前髪の隙間から俺の顔を覗き見る古泉は、耳も首筋も真っ赤だ。
そういえば今日は前戯など全くしていないことを思い出して、体を起こす。そっとシャツを取ってベッドの下に捨てると腕が伸びてきてぎゅっと抱きしめられた。
「古泉、」
「ん、ふぁ……」
軽く耳を唇で食むとそれだけで気持ちよさそうな声を上げ、より強く抱きしめられる。
「これじゃキスがしづらい」
「……はい、」
吐息交じりの小さな声で頷くと、ゆるゆると腕から力が抜けた。こいつは多分、キスが好きなんだと思う。どんなことでも大概キス1つで機嫌が取れるし、今だって軽く触れるだけのものを繰り返しているだけで体の力が抜けている。
「口、開けろ」
「ぁ……は、い……っん、ふ」
舌が触れるだけでとろんとした顔になって、夢中で俺の舌に吸い付いている。後ろの指を軽くぐるっと回しても気持ちよさそうにしがみついてくるだけで、痛くはなさそうだ。少しずつ奥に入れては軽く抜いてを繰り返して根元まで入るようになったら指を増やす。
「痛くないか」
「だい、じょぶ、です……あ、っ」
気持ちよさそうだな、と安心して頭を撫でてやると嬉しそうな顔でへらっと笑い、またぎゅっとしがみついてきた。控えめに言って可愛い。
いつもより時間をかけて解し、指が3本入るようになった頃、古泉は我慢できなくなったのか俺のナニに手をかけておずおずと言った感じで可愛らしくおねだりなどをしてきた。
「も……っ、いれ、て……、」
「……おう」
普段決してそんなことはしてくれない古泉の貴重なおねだりに、俺の息子は危うく暴発するところだった。
抽斗からゴムを取り出すと古泉は俺の手から奪い、股座に顔を埋める。
「うお、」
「んぐ、……っん」
今日は珍しく積極的だ。舌で裏筋を刺激しながら、苦しいくせに根元まで加えてぐぽぐぽと卑猥な音を立てている。
「古泉、出ちまうから」
「っ、だめ、ですよ……」
古泉はまた俺の肩を押して倒すと、上に乗っかってへらっと笑う。
「イくなら僕の中で、です……」
そう言って古泉は既に限界迎えそうな俺のものにゆっくりと腰を下ろししていく。少しずつ飲み込まれていく感覚は気持ちが良すぎて、気を抜くとイってしまいそうだ。中は熱く、搾り取るようにうねっている。
「っは、ぁ……、ん、入った……」
嬉しそうな顔で倒れこんできて、何かと思えばキスを求められた。
「きょんくん、きす、しましょう……?」
「ああ」
顔にまとわりつく前髪を耳にかけてやると、指が触れただけでぴくっと反応して、恥ずかしそうな不満そうな顔でまるで交通事故のようなキスを仕掛けてきた。勢いがつきすぎて唇が痛い。
それは古泉も同じだったようだが、自業自得だろうな。しかし唇を舐めてやるとそれだけで口元をもにょもにょさせて嬉しそうなのは可愛い。何度か舐めているとそのうちに小さく口が開いて、舌で同じように舐められる。舌と舌が触れるだけで気持ちよさそうだ。
「ふ……、ん、ぅ……んっ」
夢中になっている間にそっと尻を掴んで軽く突き上げると、抗議するように軽く舌を噛まれた。
「もう……、急にうごかないでください……」
「悪い」
理不尽だ、と思いつつも謝ってしまうのは、まあ古泉の拗ねてるような顔が可愛いからだろう。何となく、そうやって理不尽な我が儘をぶつけてくるのも甘えているんだろうし、そんな相手はきっとこいつにとっては俺しかいないはずで、そう思えばいくらでも我が儘を聞いてやりたくなるのも仕方ない。
「動いていいか」
「……はい、でもゆっくり、がいいです」
言われた通り余り激しくしないように軽く揺すると耳元で小さく喘ぐ声が聞こえる。古泉はいつも控えめな声だが、それもまた可愛いと思っている俺は重症かもしれないな。
「んっ……、ふ、ぁ……っあ、」
時折古泉は快感を逃そうとしてか必死で俺にしがみついて首を振る。
「ん、んっ……んあ、っ!」
足の力が抜けたのかぐちゅりと酷い音を立てて奥まで届いてしまい、その衝撃で古泉はどうやらイったらしい。中が思いきり締め付けてきて、びくんと体も痙攣している。
落ち着くまで背中を撫でて動かずに堪えていると、軽く耳を噛まれた。
「ん……ふ……」
軽く頭を撫でてやるとほんの少し体を起こして、俺の顔を覗き込んでくる。
「うごいて……いいです、よ……」
「あぁ、じゃあ体勢変えるか」
一度抜いて古泉を寝かせて、古泉が握ったままだったゴムを受け取ろうとすると拒否された。中に出さない自信がないし、そうなれば腹を下して苦しむのは古泉自身だというのに。
「こら、」
「きょうは、これなしで、しましょう……?」
腕を掴まれ引き寄せられて、果ては足でがっちり背中をホールドされてしまった。これはいわゆるだいしゅきホールドなのでは。
「……風呂は入れてやるけど文句は聞かねえぞ」
「はい」
意志が弱いというか、本当に古泉が大事ならつけるべきなんだろうが、悲しいかな生が気持ちいいということを既に知ってしまっている俺は、結局欲にあらがえずそのまま挿入してしまった。
「っん、ふ……あ、っも、だめ……っ」
「駄目なのか」
「おく、は……っ、んぅ……っ」
奥は嫌だ、と言いながらも腰は動いている。誘われるままに突き当たりまで押し込んで、古泉の両手を掴んだまま軽く揺する。
「やぁっ、あ……っだめ、だめ……!」
一度イって余計敏感になっているのか、ぽろぽろと泣きながら必死でかぶりを振る姿は、申し訳ないが余計に興奮するだけだ。手加減してやりたい気持ちもあるが、中はきゅうきゅうと締め付けてくるし先ほどイきそびれているので俺も限界が近い。
「ん、悪い、もうちょっと付き合ってくれ」
「っひ、あ……、あっ、きす、してくださ……っ」
可愛らしくお願いされて覆いかぶさるとぎゅうっとしがみつかれる。ねだるように頬を舐められて、全くこんな可愛らしいおねだりをどこで覚えてきたのかと思いながらキスをする。
「んんっ、ふ、っんく……」
時折苦しそうにするくせに、息継ぎの間を作ろうとすると両手でぐっと頭を抑え込まれてしまった。これでは俺も苦しいが、必死で吸い付いてくるのは可愛い。
律動を早めると腕は下に降りて、古泉は俺の肩に口を押さえつけながら必死にしがみついてくる。
「っ、そろそろ、イきそ……」
「ぁ、ふ……っ、だし、て、くださ……っや、ぁ!」
ぐ、と足で抑えられて思わず一番奥でイってしまった。
抜いて溢れ出てくるもんをタオルで拭っていると、古泉は恥ずかしいのかまた俺のシャツに顔を埋め小さな声で唸っている。多分この後俺がまだ中に残ってる精液を掻き出すのを想像して嫌がってるんだろう。
風呂場でもう一戦やりてえなあ、なんて考えながら抱き起してつれていく。歩くたびに中から溢れ落ちてくる感覚に顔を顰める古泉を宥めるためにキスを1つ。それだけでへらっと笑って好きですなんてご機嫌になるんだから安いもんだ。やっぱり大切にはしたいし次からはちゃんとゴムをつけよう、なんて既に何度目になるかも分からない決心をして、やっぱり無理かもなんて小さくため息をついた。
古泉が可愛いのがいけない。





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