部室には古泉と俺の二人だけ。 ハルヒは用があるらしく今日は部室に顔を出さずに帰った。 朝比奈さんも先程用があると言って長門と帰宅。 なら何故俺と古泉が残っているのかと云うと、答えは簡単である。 古泉が珍しく机に突っ伏して寝ているからだ。 そして俺は古泉が何故か好きなので少しでも長く一緒に居たいというまぁそんな理由で残ってるのだ。 それにしてもよく寝てる。 そんな事を考えながら古泉の寝顔を見ていると、俺の視線に気付いたのか古泉が起きた。 「あれ…、皆さんは?」 「帰った」 「…そうですか。すいません」 「否、別に」 思わず素っ気無くしてしまう俺に、気付いているのかいないのか苦笑しながら帰りましょうかとだけ言って古泉は立ち上がった。 戸締りをして部室を出たのはいいが会話が無い。何と無く気まずい。 「そう言えば明日は活動無いんだよな」 「涼宮さんはそう仰ってましたが」 「じゃあゆっくり休めると良いな」 「……貴方がそんな事を言うなんて驚きです。てっきり僕なんて嫌いなんだと思ってましたから」 「…嫌いじゃない」 寧ろ好きだ、なんて一生言う気は無いが。 というかやっぱりそんな風に思われてたのか。分かってたけどちょっとショックだ。 「ふふ、それは好きだ、と受け取っても宜しいですか?」 「っは?」 「いえ、ちょっと顔が赤いので」 「…好きにしろ」 どうせ俺の好きは古泉の思ってる好きと違うんだしな。 「照れてます?」 「って、照れてない!!」 「うそ。だって真っ赤ですよ。可愛い」 「かわっ…!?普通友達に可愛いって言うか?」 「…貴方は僕の事を友達だと思ってるんですか?」 いつもの坂道まで来た時、古泉が立ち止まってそう言った。 しかし少し悲しそうに笑って、今の言葉は忘れてくださいとだけ言うとすぐに歩き始める。 「どういう意味だよ」 「いえ、気にしないで下さい」 「でも気になる」 腕を掴んで引き止める。 意味が分からない。 古泉は俺の事を友達だとすら思ってないって事か?それなら理解出来るがなら何で悲しそうに笑ったんだ? 振り向いた古泉は今度は真面目な顔をしていた。 腕を放すと逆に腕を掴まれる。 「おい、古泉…?」 「嫌だったら避けて下さい」 聞き取れるかどうか分からない位の声でそう言うと、ゆっくり顔が近付いてくる。 そのまま動けないでいると、触れるだけのキスをされた。 「僕はこういう意味で貴方が好きです」 「な、に?」 「忘れて下さい。さて、帰りましょうか」 いつもの様な作り笑いでそう言うと何も無かったように歩き出した。 「おい、待てよ!」 「はい、何でしょう」 「今の、本気か?」 信じられない。古泉は男だし、カッコいい。俺のような可愛くもカッコよくも無い、しかも同性を好きになるなんてありえないだろ? そう思うのが普通だと思う。 けど、古泉は至って普通に。 「…そうですよ?」 「ホント、に?」 「本当に」 今まで見た事が無い様な、作り笑いじゃない優しそうな笑顔でそう言った。 「でも、俺は普通の男だぞ?可愛くないし」 「貴方は十分可愛いですよ?貴方が気付いてないだけで」 「だから男に可愛いって言うな!」 顔が赤くなるのが分かる。恥ずかしすぎる。嬉しいけど。 でも古泉は気にする様子もなく、ただ笑いながら俺を抱き締めてきた。 「貴方もそういう意味で僕の事を好きだと受け取っても良いんでしょうか」 「っ…。好きにしろよ…」 「さて、帰りましょうか」 「おう…」 今なら恥ずかし過ぎて死ねると思う。 取り敢えず周辺に誰も居なくて良かった…! 道端であんな恥晒してたなんて有り得ないよな、うん。きっとどうかしてたに違いない。そうだきっとどうかしてたんだ。 俺が一人でぶつぶつとそんな事を言ってると古泉がクスクス笑いながら何か言った。 「ん?何か言ったか?」 「いえ、独り言です」 「何だよ、気になるだろ」 なぁなぁ、と腕を引っ張って聞くと、何故か照れた様に少し顔を赤くして、暫く迷っていたが結局ボソッと小さな声で教えてくれた、のだが。 「……あぁ、可愛いなぁ、って言ったんですよ、僕は…」 ああ、うん。聞くんじゃなかったな。 後悔しながら早足で古泉を追い抜く。 深い意味は無い。顔を見られたくないってのはあるが。 が、すぐに腕を掴まれ、そのまま手を繋がれる。 「…おい」 「大丈夫ですよ、人居ませんし」 そういう問題じゃないんだが。 まぁ、今日ぐらい良いか。 「そうだ、明日家来ませんか?」 「…良いけど」 「じゃあ明日は一緒に帰りましょう」 「おう」 特に会話は無いが今度は気まずくは無い。 古泉が作り笑いじゃないってのは何かなれないというか恥ずかしい様な気もするが。 …末期だな。 何処の乙女だ俺は。 けど、まぁ、偶には良いかなんて、思ったりもしたのだった。 |