むしむしする、と彼が不快そうに呟く。
何だかその顔と言い回しが可愛くて思わず笑うと何だよとこれまた不快そうに睨まれた。
いえ、と適当に流してエアコンをつける。リモコンから発されるピ、という音が何だか間抜けだ。
除湿に設定して、冷蔵庫からアイスを取り出すと彼は目を輝かせる。

「懐かしいな、コレ」
「でしょう。今でも売ってることに驚いて、昔夢だった大人買いしちゃいました」

値段は変わらずだ。
10本買っても630円。何て安いんだろうか。
テレビを眺めながら無言でアイスを貪っていた彼が急にお、と声を上げた。

「どうしました?」
「見ろよコレ」

嬉しそうにニヤニヤと笑う彼が僕の目の前に突き出したのはアイスの棒で、そこには60円名糖ホームラン[1本当たり]と書いてある。

「ふっふっふ、この棒は俺のものだ」
「ふ、構いませんよ……」

別にそれくらい、と笑うと彼もつられたように笑う。
棒を持ったまま触れるだけのキスをする。ベタつく感触が不快なのか一瞬だけ眉を潜めた彼はしかし直ぐに機嫌を直したように口角を上げた。
遠くでポンポンポン、と花火が上がる音がする。

「そういや今日祭りか」

駅の向こうの神社で昨日今日と祭りをやっている。
きっと今頃大通りは浴衣を着た人々が行き交っているのだろう。

「行ってみます?」
「さっき帰ってきたばっかなのにか」
「僕わたあめ食べたいんですよねえ」
「あぁ、いいな、俺りんご飴」

一頻り食べたいものを並べ立てて、ぐうと鳴く腹の虫を抱えた僕らは結局財布を掴んで外に出た。
マンションのエントランスではちびっ子が戦隊ヒーローのお面をつけてキャアキャアとはしゃいでいる。割り箸に纏わりつく白い雲を、口の周りをべとべとにしながら食べる子供たちを見て彼はうまそうだなーと呟く。同感だ。
赤や青や黄色に染まる舌を出してお互いにきもちわりーなんて笑い合う中学生たちの手にはプラスチックのカップと微妙に底に残る色水。そういえば今年はまだカキ氷を食べていない。

「いいですねカキ氷」
「でもお前、さっきアイス食っただろ」

一日に二個も食うのなんか良心が咎めるんだよなあ、なんてかわいいことを云って彼が苦笑した。
きっと彼の親御さんが彼の体調を心配してアイスは一日一個まで、と躾けていたのだろう。今の僕は良心もへったくれもなく一日に二個食べたりしているけれど。

「まあいいじゃないですか。今日はほら、お祭りですしね」
「あー、まあな」

つうか俺ら食うことばっかだな、と彼が今更なことを楽しげに云うので僕も楽しくなってくる。
お祭りに心躍るような年齢ではなくなってしまったのだけれど、彼と一緒だと何故だかとても楽しい。

「……じゃがバタもいいな」
「フライドポテトも美味しそうです」
「お、ビール」

二人で顔を見合わせてまた笑ってしまった。
お祭り価格とはいえ自治体主体で値段設定が良心的な出店の数々に財布の紐も緩む。
ビールとじゃがバタ、フライドポテト、それからイカ焼きを買って隅の段差に腰掛ける。隣で既に出来上がっているおじさんたちが楽しげに大声で話している。

「俺らも20年後はああかもな」
「ですかね」

ビールを煽って、口の周りに泡の髭をつけた彼が幸せそうにフライドポテトをつまむ。
つまみを食べきり、当初の目的どおりわたあめとりんご飴を手に帰路につくと彼がまた満足げに笑う。

「祭りとか久々だったけど悪くないなー」
「ええ」
「お前の部屋から花火見れるんだし、今年はそれも見るか」

俺ビール持ってくし、と帰りがけに買っていたビールを飲みながら上機嫌に云うものだから思わず笑ってしまった。
どんだけビール好きなんだ、と思うけれど僕も好きだしそこはお互い様だろう。
エントランスではまだちびっ子たちがはしゃいでいた。お面のヒーローになりきって父親と戦っている。
エレベーターに乗ると彼がキスをしてきた。
相変わらず口がベトついていて、彼はやはり不快そうに眉を潜めた。





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