ただいま帰りました、といつものように挨拶をして中に入る。
彼と暮らし始めてからの習慣だ。
いつもは奥からお帰りなさい、と云う声と共に彼が出てくるけど、今日は何故かシンとしてる。
不思議に思いながらリビングに向かうと、エプロンのままソファで眠っている彼がいた。
気持ち良さそうに僕のコートを抱き締めて。
つい先日新しいものを買ったとき、捨てるのは勿体無いから、と言っていたもの。
洗濯してクローゼットの奥にでも仕舞い込んだものと思い込んでいたけれど、どうやら違ったようだ。
それにしても、本当に幸せそうに僕のコートを抱いている。
邪な方向に思考が行きそうなのを無理矢理修正して一度着替えるために寝室に行く。
コートとスーツをハンガーにかけて、Tシャツとジーパンに着替えると、キッチンに入った。
作りかけの肉じゃがときんぴらごぼう。きっと僕が帰ってくる直前に仕上げてしまうつもりだったんだろう。
いつも僕の前に出される夕食は作り立てだ。そんな些細な気遣いが、僕を喜ばせている事を彼は知っているのだろうか。
そんな事を考えながら作りかけのおかずを完成させる。ご飯はもう炊けているからあとはほっけを焼くだけだ。
純和風な夕食は僕の大好きなものばかりで、ふと最近は忙しくて一緒に夕飯を食べていなかった事を思い出した。
久し振りの一緒の夕飯だから僕の好物ばかりなのか、なんて少々都合のいい事を考える。
ほっけも焼けたのでテーブルにおかずやご飯を配膳してから彼のもとに行く。
彼はまだすよすよと寝ていて、起こすのは忍びない気もしたけれど、ご飯は出来てしまったし夜眠れなくなるだろうと思って起こすことにした。

「キョン君、おきて下さい」

そっと体を揺らしてそう言うと、んぅー、と云う声を漏らしながら薄っすらと目を明けた。

「キョン君、ご飯が冷めてしまいますよ」
「…あ、れ……?いつき…?」

今何時だ?と目を擦りながら起き上がった彼に、夜の7時だと教えると、彼は慌てて飛び起きた。

「やべっ、いつの間に寝てたんだ俺!?」
「疲れてたんですね。たまには良いじゃないですか」
「でも夕飯…」
「作っておきました」

マジか、とショックを受ける彼をテーブルに座らせ、取り敢えず夕飯を食べる事にした。

「じゃあ、いただきましょうか」
「…、そうだな。いただきます」
「いただきます」

久し振りの二人での食事は会話は少なかったけど嬉しかった。
彼が好物ばかりを用意してくれたのもそうだけど、二人で食べられるだけで、普通に嬉しかった。
彼の笑顔だけで今月は頑張れる気がして、そう彼に伝えると彼は少しだけ照れたように僕を睨み、

「馬鹿じゃねーの」

とだけ云った。
それが照れ隠しだと云うのは良く分かっているので、貴方が可愛いからだと云うと思い切り顔をそらされる。
キスしたいぐらい可愛い。
そんな事を思っていると、彼がふと下を向いてとても小さな声で、

「明日は?」

と言った。

「明日?」
「ど、土曜だろ…!」

仕事なのか?と悲しそうに聞かれ、思わず目を瞠る。
明日は休みだけれど、そうじゃなくて。
彼は矢張り少なからず寂しいと思ってくれていたと言うことだろうか。
嬉しくて頬が緩む。

「明日は休みです。どこか行きたい所はありますか?」
「…買い物」

最近デパート言ってない、と小さく呟いた彼にでは行きましょう、と言うと耳まで赤く染めて小さく笑った彼と目が合った。
嬉しそうで安心する。

「映画もみましょうか」
「…ん」

彼と二人、明日のことを考えながらゆっくりとごはんを食べた。



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