「今日の団活は無しよ!!」

元気良くそう宣言したハルヒは携帯忘れたからアンタが古泉君にも知らせておいて、と云うと颯爽と去っていった。
何でも朝比奈さんの衣装を新調するらしい。朝比奈さんには申し訳無いが若干楽しみです。
兎に角、古泉に知らせなければならないのだが、生憎今日は俺も携帯を忘れたので部室に行くしかない。
途中缶コーヒーを二本買ってから部室に行くと、古泉と長門がチェスをしていた。

「長門…?」
「パパにチェスを教えてもらっている」
「それは見れば分かる、けど」

つかパパって…。未だに続いてたんだな、長門よ。
それにてっきりハルヒ達と一緒に出掛けたのかと思ってたぞ。
そんなことを思いながら取り敢えず買ってきたコーヒーを二人に渡し、普段長門が座っている椅子を引っ張ってきて腰掛けた。
そこでふと本来の目的を思い出す。

「そう言えば今日の団活なんだが…」
「涼宮さんは朝比奈さんと衣装を買いに行かれたのでしょう?」

知っていますよ。と笑いながら古泉は駒を置く。古泉がソコに駒を置いたことによって長門の負けが決定した。
珍しいこともあるもんだ、と思いながら頷くと、

「今日貴方と涼宮さんは携帯を家に置き忘れたと長門さん…有希に聞きましたから」

古泉はチラリと長門を見て、名前を言い直した。
どこか嬉しそうに微笑んだ長門はコーヒーを一口飲み立ち上がった。



長門達ての希望で、俺達は古泉の家に来ていた。

「肉じゃが」
「…肉じゃがが食べたいのか、長門」
「そう」

既に私服に着替え終えている古泉は先程から新聞を読みながら俺達の会話に爆笑している。
一体何が面白いのか分からないが実に不愉快である。

「おい古泉」
「…すみませ…っ……あははっ…」

腹が立ったので取り敢えず思い切り叩いておく。
それを見ていた長門は静かな声で

「パパを苛めちゃダメ」
「あのなぁ、長門…」
「コレもママの一つの愛情表現ですから」

古泉は何処か楽しそうに長門にそう言うと、軽く頭を撫で視線を新聞に戻した。
っておいっ、俺の愛情表現はそんなにバイオレンスじゃねぇぞ!
そう反論しようと思ったが長門はどうやら納得したようなので仕方なく黙る。
夕飯を作る為に冷蔵庫を開けて驚いた。中身がろくに入っていない。
またコイツはやれば俺より上手いのにろくな食事を取ってないのかと思い古泉に質問すると

「昨日ですか?昨日はアジの開きと味噌汁でしたけど」

安売りしてたんです、アジの開き。と不思議そうに答えた。
最近スーパーで買い物をしておいて何もないとは…。
大方外食でもする予定だったのだろう。

「古泉、長門、買い物行くぞ」
「あ、空っぽでした?」
「空っぽでした?じゃねぇ!」

古泉はすいませんと言いながら立ち上がり財布を手に取った。
三人で家を出ると既に外は暗くなっていた。長門は何処か楽しそうにスタスタと一人歩いていく。
横を歩く古泉も口許が緩んでいて、此方まで楽しくなってくる。
だからだろうか。家族ごっこも悪くないかも知れないな、なんてらしくないことを思った。
スーパーに着くと肉じゃがを作るのに必要な材料をかごに入れ、さっさと会計を済ます。
長門がお菓子コーナーでチョコ菓子を眺めていたが無視だ。一度甘やかすと癖になるからな。甘ったれた人間になられては困る。
店の外に出ると少し遅れて長門と古泉が出てきた。

「…長門、その袋はなんだ?」
「パパに買ってもらった」

…甘やかすな、と古泉に言っておくべきだったか。
古泉はとことん甘やかすタイプである。それはもうどろどろに。
それに慣れてしまっている俺が言うのもなんだが、決してお互いの為にはならないだろう。
兎に角、お菓子を買い与えるのは止めるように言わなければならない。
先が思いやられるぜ、と溜息を吐いたところで何も変わらないので取り敢えず肉じゃが以外のおかずと明日の朝御飯を考える。
古泉は長門と腕を組んで歩いている。
別に嫉妬心はない。多分長門だからだろう。寧ろ微笑ましいくらいだ。
なんつーか、本当に父娘みたいだしな。
家に着いて俺が夕飯を作っている間に古泉が風呂に湯を張ったらしく、気付いたら長門がパジャマ姿でソファーに座りテレビを見ていた。
つか、いつの間に長門用のパジャマなんか用意したんだ古泉は。

「古泉、」
「何ですか?」
「いつの間に長門用のパジャマなんか用意したんだ?」
「先ほどの買い物の時に見付けたんです。彼女に合うかと思いまして」

買っておいて損はありませんから。と言うと古泉は冷蔵庫からミネラルウォーターを出して飲んだ。
貴方のはクローゼットに入ってますしね、と忌々しいほど楽しそうな笑顔で言うと、奴は寝室に引っ込んだ。
この時間帯、奴の好きそうな番組はないから恐らく読書か何かでもするのだろう。

「ママ」
「うん?如何した、長門?」

ママと呼ばれたのは取り敢えずスルーして返事をすると、長門は黙って包丁を手に取った。

「…手伝ってくれんのか?」
「そう」

包丁を持ったままキラキラした目で此方を見ていたので、取り敢えず味噌汁を作ってもらうことにした。
必要ないだろうが念のため作り方を軽く教えておく。
長門が味噌汁を作っている間に、残りのおかずを作っていく。明日の朝も食べられるように少し余分に。
途中風呂場から物音がしたから古泉が風呂に入ったのだろう。

「出来た」
「うん?あぁ、サンキューな」
「他には?」
「他…?あぁ…、んじゃあ配膳頼めるか?」
「分かった」

三人分の箸や何やらを運んでもらい、配膳がすんだところで長門に古泉を呼びに行ってもらう。
暫くして、眼鏡を掛けた古泉が長門に連れられてダイニングに来た。パジャマ用のスウェットに着替えているから、矢張りさっき風呂に入ったのだろう。
因みに古泉は普段学校ではコンタクトをつけている。だからまぁ、今は風呂に入ったから眼鏡に代えた、と言うところだと思う。
長門はその眼鏡に異様に興味を示した。

「気になりますか?」

クスクス笑いながら古泉は眼鏡を外し、長門に手渡した。
黒縁のそれは、手入れが行き届いていて傷一つない。
長門は受け取って暫く眺めたり掛けたりしていたが、やがて飽きたのか古泉に返した。
何はともあれ、夕飯を済ませ長門を寝かし付け風呂を済ませ、俺はやっと一息ついた。
リビングでは古泉が机とソファーの間の床に、ソファーに凭れるように座って何やら書類を読んでいる。
音を立てないように紅茶を淹れていると、いきなり後ろから抱き締められた。

「何だよ」
「いえ、疲れたなぁと思いまして」

それじゃあ説明になってないだろ、と思ったが取り敢えず引き剥がすことはせずに紅茶を持って移動する。
若干移動しにくかったが、まぁいつもの事なので気にしない。
渋々と云った感じで離れソファーに座った古泉の横に腰かけると

「…明日はどうしましょうか」
「明日?」
「土曜日で団活もありませんし、何処か行きますか?」

家でのんびり、と言うのも捨てがたいですけど。
紅茶に手を伸ばして、ね?と同意を求めてきた古泉に、軽く頷く。

「まぁ、でもソレは明日長門が起きてからで良いんじゃないか?」
「それもそうですね。じゃあ僕たちもコレを飲んだら寝ましょうか」
「そうだな」

早く寝ようと紅茶を飲み干しカップを洗うために立ち上がると、古泉が軽く微笑みながら僕が洗います、と立ち上がった。
断る理由もないのでお願いすると少し嬉しそうな笑みが返ってきた。
その笑顔に、大人っぽいんだか子供っぽいんだか良く分からないな、と思わず少し笑う。
カップを洗いながら不思議そうに首を傾げる古泉に何でもないとだけ言ってテーブルの上の書類に目をやる。
細かい上に何だか難しい単語の羅列に軽く目眩を覚えたが、古泉が普通は読んでいるのだから、と俺が要らない対抗意識を燃やしている間にカップを洗い終えた古泉がやって来た。

「それじゃあ寝ましょうか」
「だな。お疲れ、古泉」

何となくそう声を掛ける。

「キョン君こそお疲れ様です」

そう言いながらキスを仕掛けてきた古泉に応えながら寝室に向かう。
うあ、何だコレ。どこのバカップルだよ。
そんなことを思いながらも、やめる気にはならないから不思議だ。
長門が寝てて良かった、と内心ホッとする。そんな俺の心を知ってか知らずか、古泉は一度キスをやめると俺を抱き上げた。

「っおい…!」
「別に今日はしませんよ」

クスクスと笑いながら言うヤツを思い切り睨み付けた。