確か事の始まりは長門さんの一言だった。

いつもの様に長門さんは読書、僕達はオセロ、涼宮さんと朝比奈さんは談笑をしていた。
此処までは特に何も変わらない。
くぁ、とキョン君が猫の様な欠伸をした時、長門さんは不意に今まで読んでいた本から顔を上げ僕の方を見ると、

「パパ」

と言った。

「は?えーと…今何と?」
「パパ」
「パパ、ですか…」

行き成り何故?と思っていると、彼女は僕に本をくれた。
取り敢えず受け取り、あらすじを読んで納得した、一応。
先程まで彼女が読んでいた本は如何やら家族の絆がテーマの物の様だった。
主人公は意地っ張りな母親、無口な娘、母親にベタ惚れな父親。
恐らく長門さんは其々のキャラクターにキョン君、自分、僕を当てはめたのだろう。

「成る程、理解しました」
「何を理解したんだ?」

今の今まで衝撃で固まっていたキョン君が口を開いた。

「長門さんが読んでいた本の登場人物が貴方や僕、長門さんに似ているのですよ」
「意味が分からん」
「主人公で一児の母親である女性が貴方に、その夫の男性が僕に、娘が長門さんに似てるんです」
「長門、そうなのか?」
「そう。だから貴方はママ」
「だそうです」

この話を聞いて、今まで黙っていた涼宮さんが

「良かったわね、有希。たっくさん可愛がってもらいなさい。キョン、古泉君、有希の事は名前で呼ぶのよ」
「承知いたしました」

何だか長門さんが嬉しそうだ。
僕には余り分からないけれど、キョン君が長門さんの方を見て諦めた様な表情になったからやはり嬉しそうなのだろう。
それにしても、長門さんが娘とは。

「可愛らしい娘が出来て良かったですね、キョン君」
「…本当にそう思ってるか?」
「えぇ、思ってますよ。困りましたね、こんなに娘が可愛いと将来連れて来るであろう彼氏が憎いです」

冗談でそう云うと、長門さんは少し考え、僕の膝の上に座り背中に腕を回すと。

「パパと結婚する」
「おや、嬉しいですね」
「おいっ!」

キョン君が複雑そうな表情で僕たちを見ているが、見ないふりをする。
長門さんはと言えば、満足気に盤上を眺めている。

「では、オセロの続きをしましょうか」
「私もやる」
「では有希が僕の代わりにやって下さい」
「了解した」
「…もう好きにしてくれ」

今日は長門さんの新たな一面が見れた。
たまにはこう云うのも悪くないかも知れませんね。