昼休みになり、弁当を食べながら最早週間となりつつあるケータイメールのチェックをする。とはいっても基本谷口からの合コンへの誘いと一樹からの買い物のリストぐらいしかないのだが。そう、一樹にも一台持たせている。連絡手段はあるに越したことはないし便利だ。 そして、話は変わるが教えた甲斐があり一樹は大分料理が上手くなった。お陰で今はお弁当も自分で作らずにすんでいる。他にも一樹は家事全般をそつなくこなしてくれているので非常に助かっている。 因みに一樹からのメールには特に必要なものは無いと書かれていた。 なら偶にはケーキでも買ってってやるか。 そんな事を考えている内に弁当を食べ終わり、弁当箱を鞄に仕舞い仕事を再開する。早く帰りたいしな。 終らなくて残業とか出来れば遠慮したい。 嫌過ぎるだろ。俺は仕事なんて嫌いなんだ。 まぁ好きな奴も中々居ないと思うが。それに、定時に帰れないと一樹が泣く。いや、マジで。 一週間ほど前だったろうか。同僚のミスの尻拭いをさせられた俺はいつもなら5時退社だと言うのにその日は7時退社となってしまい、大急ぎで帰宅したのを覚えてる。いや、一応遅くなるという内容のメールはしておいたのだが。 兎に角、普段は電車なのをその日ばかりはタクシーで帰ったのだ。 何故かと聞かれれば一樹から10分おきに心配しているような内容のメールが来ていたからだ。 タクシー内で仕事が終ったのはさっきで今帰宅途中だと言う旨のメールを送った後、怒っているだろうかなどと考えながら部屋に入ると玄関口で大号泣している一樹に抱き付かれ、それを宥めるのに俺は相当の時間を費やした。 大号泣している姿は不謹慎ではあるがそれはもう可愛かったのだが、体内の水分が無くなるんじゃないかと不安になるくらいで、しかも次の日一樹は声が嗄れていてかなり可哀想だったので出来れば大号泣は避けたい。 しかも泣いていた理由が捨てられたのかと思った、だからな。 実際仕事が遅くなると云う連絡が入ったきり帰って来なかった奴が居たそうだ。 どうしようもないな。 その飼い主も、一樹に大分ベタ惚れな俺も。 なんて、大分仕事と関係ない事を考えながら、いや思い出しながら、まぁ仕事をしていると合コンに矢鱈と誘ってくる、且つ仕事をミスりやがりその尻拭いを俺にやらせやがった谷口に話しかけられた。 「キョン、お前真面目だな」 「煩い黙れ消えろその存在ごと消えてしまえだがその前に仕事が終らなかったらお前に押し付けてやる覚悟しておけ」 と何を言ってるんだか自分でも良く分かってない若干長めのセリフを息継ぎ無しで言い切り、序でに何だかウザかったので鳩尾に一発お見舞いしてやった。 「行き成りなんだよ!?」 「うっせぇな、お前の所為で泣かれちまっただろうが」 一樹に、と云う部分は心の中で谷口に告げると奴は驚愕で目を見開き失礼な事を言いやがった。 「彼女居たのか!?」 「何?殺されたい?喜んで殺してやろう」 「いや、そうは言ってない」 取り敢えず黙らせ、それから自分の席に座らせる事に成功した俺は、谷口の発言を全て無視し仕事を再開する。 詳しく言及された場合一樹のことをどう説明すれば良いのか分からんからな。 ペット、だと一樹は思っているようだが俺は一樹をペット扱いした事はない。かといって親戚の子、と云うのは大分苦しい。が、恋人ではない。 あの年のガキに手を出したら確実に犯罪者だ。つかそう云う感情はない、と思う。 如何だろう。俺としては無いと信じたいのだが、最近結構際どい気がする。 うーん…、無いと断言できないのが悲しいな。 ま、そんな事は未だ考えなくて良いか。取り敢えず大家さんには親戚の子で通してあるがな。大分苦しい言い訳だった、アレは。 確か『遠い親戚の子で、両親が事故で亡くなり、懐かれていた俺が引き取った』とか何かそんなん。 大家さんは良い人であっさり信じてくれたし恐らく谷口は単純馬鹿だから信じてもらえるとは思うがそれを言い触らされる色々と困る。 暫く一樹の事は秘密だな。 そんな事本人に言ったら泣かれそうだが。 と、まぁ相も変わらず下らない事をつらつらと考えつつ、だが確りとやらなければならない事をやり終えた時時計の針は5時数分前を指していた。 帰り支度を終え、矢張り定時に退社している同僚と二人会社を出た。 駅へ向かいながら世間話をしているとふと国木田は思いついたように昼休みの話を持ち出してきた。 「ねぇ、キョン。お昼に谷口と話してたけど泣かれた、って小学3年ぐらいの男の子?」 「あぁ、って何で知ってんだ?」 「この前二人でコンビニに入ってくの見たから」 可愛い子だね、と一見すると人畜無害なエンジェルスマイルを浮かべ言った。 だがしかし何だか黒いオーラが隠しきれていないぞ国木田よ。 「どんな関係なの?」 あぁ、やっぱり。 嘘を吐いた場合ばれた時に大分痛い目に合いそうなので仕方なく本当のことを話す。 「へぇ…。じゃあ遊びに行っても良い?」 「いや、それはちょっと…。また今度にしてくれないか?」 「…分かった。絶対だよ?」 ね?と矢張り一見すると人畜無害な、だがしかし其の実無言で圧力をかけている悪魔の微笑で言った国木田は次の駅で降りていった。 俺も更にその次の駅で下車し、駅ビルの中のケーキ屋でショートケーキを買い、帰宅。 「ただいま」 「お帰りなさいっ!」 ぎゅっと抱きついてくる一樹を片手で受け止め中に入る。 目敏い一樹は俺の右手の箱を見て目を輝かせた。 「それ、何ですか?」 「ケーキだ」 夕飯の後な、と言うと嬉しそうにはい!と返事をしてケーキを持ってタタタっと台所に戻っていった。そしてケーキを冷蔵庫に仕舞い、途中だったらしい夕飯の仕度を再開した。 「今日はシチューです」 「おー、最近食ってないな」 一応ご飯もあります、と云う一樹の頭を撫で、スウェットに着替える。 やっぱ楽だわ。 テレビのニュースをボーっと眺めていると夕飯の仕度は終ったらしい一樹が隣に座った。 そこでふと国木田の言っていた事を思い出したので伝えてみる。 「別に良いですけど…」 「けど?」 「いえ、あの…その人とキョン君は仲良しなんですか?」 「まぁ、それなりに」 「…そうですか」 何故か少し悲しそうな一樹を取り敢えず抱き締めてやる。 「…キョン君」 「何だよ」 「僕とその人どっちが好きですか?」 そのセリフに思わず噴出すと涙目で睨まれた。待て、お前は俺の恋人か。 とは言わなかったがまさか一樹が国木田に嫉妬するとは。 「何で笑うんですか!」 「わ、わり…。泣くなよ、お前の方が好きだから」 「な、まだ泣いてません!それより、本当ですか?」 「本当だよ」 何でそんな事で嘘吐かなきゃいけないんだ、と言うと訝しげな目で見られたが、頭を撫でると大人しくテレビを見始めた。 飯を食い終わり一樹が風呂に入ってる間に皿を洗う。 流石に家事全部やってもらうのは申し訳ないからな。 本人にそう言ったら養ってもらってるんだから当然の事です、って言われたけど。 皿洗いも終わり特にすることも無くなったのでパソコンで適当に近場で遊べる所を探す。 偶にはどっか連れてってやりたいし。 遊園地とかで良いのかね?水族館とか動物園の方が良いか? …まぁ全部順番に連れてってやれば良いか。 そんな事を考えつつアクセス方法やら入園料やらをチェックしている内に一樹が風呂から上がった。 「何調べてるんですか」 「んー?」 「あ、遊園地」 「行きたいか?」 「はい」 「んじゃ来週な」 今週は給料前で財布の中が大分寂しいからな。 「そういやケーキ食ってないな」 「あ、食べますか?」 「いや、明日でも良いけど」 「んー…僕今日食べたいです」 「んじゃ用意しろ」 「はいっ」 やっぱ子供だな、と良く分からない事を思いつつ冷蔵庫からケーキを出す。 美味しそうに食べている一樹を眺めつつ俺も食べる。 久し振りに食った。美味い。やっぱたまには糖分も摂取しないとな。 食べ終わった後の片付けは一樹に任せ風呂に入ることにした。 やべ、寝そう。とか思いつつ湯船に肩まで浸かる。狭い。まぁ当然だがな。 此処も大学生の頃から住んでるがそろそろもう少し大きい所に引っ越したい。 一人なら1DKでも良いんだが、一樹も居るし物も大分増えたし、そろそろ潮時だろう。 せめて2DKだろ。 良い部屋無いかね。まぁそれは今度で良いか。にしても眠い。 そんな事を考えつつ風呂から上がる。 一樹はもう既に寝る体制に入っていた。 但し床の上で。 「一樹」 「んにゅ…、なんですか?」 「ベッドで寝なさい」 「ぅー…ふぁい」 フラフラと危なっかしく起き上がりベッドに潜り込んだのを見届け電気を消す。 テレビを消し、部屋の端っこでパソコンをつける。 いや、まだ俺は寝れない。 幾ら眠くても睡眠に直結する眠さじゃない。 まだ9時前だし。 取り敢えずイヤホンを付け動画サイトであえて動画ではなく曲を聴きつつ色んなサイトを覗く。 そんな事をしていると時間が経つのはあっという間で、とは云えまだ11時であるが今日は少々早めに寝る事にした。 パソコンの電源を切り一樹を起こさない様にベッドに入り、目を閉じた。
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