イベントごとには乗っておけ、ってな感じのハルヒはご他聞に漏れず今回も乗ったのだった。
「五分で着替えなさい。良いわね?」
レッドデビルの衣装を着たハルヒはそう言って、魔女の衣装を着た長門とパンプキンの衣装を着た朝比奈さんを連れて出て行った。
「畏まりました」 「…はいよ」
何が楽しくてこんな吸血鬼なぞに仮装せねばならんのか、と溜息を吐く。 横からも溜息。 珍しく古泉も衣装を見て少しばかり抵抗を覚えたようだった。 神父の何が不満なんだ、と思いつつ取り敢えず訳を聞く。
「お前珍しいな、溜息なんて」 「…先程涼宮さんが呼んでらっしゃった小説の内容知ってます?」
少しばかり困ったような顔でそう聞く古泉に知らん、と答える。
「表紙からしてBLだと言うのは分かったがな」
肌色率高かったですもんね、と溜息混じりにそう呟いてから、
「アレ村人に頼まれて吸血鬼を退治しに行った神父が吸血鬼に気に入られて別の意味で食べられるって話ですよ」
僕にキョン君に食われろとでも言いたいんでしょうか、と古泉は諦めたような目で言った。 その顔は優等生の古泉として有るまじき表情だろう、と心の中で突っ込みつつ着替えを始める。
「別の意味でってそれはつまり致しちゃうのか」 「…致しちゃうんです」
成る程な。 って言うか、だ。 別に嫌って訳でも無さそうな反応がちょっとばかり気になるぞ。 そんな事を考えている内に隣も着替え始めた。 紙袋に一緒に入っていた百円商品であろう牙をつけて溜息を吐いた時、矢張り着替え終わった隣から同じような溜息が聞こえてきた。
「似合ってるぞ」
思ったままを言っただけだが、古泉は複雑そうな顔で、
「コレでいつもの作り笑いだと完璧に嘘臭いですよね」
と言った。
「どうしたお前」
キャラがちょっとおかしいぞ、と言うと元からですよ。と返ってきた。 いやいやいや、おかしいぞ、といおうとした時にハルヒがバンッ、と入ってきた。
「遅い!!」 「今終わったトコだ!!」
そう言いながら隣を見ると、すでに作り笑いを浮かべていて、だが本人が思っているほど嘘臭くは無かった。寧ろ何と云うか、ハルヒが読んでいたという小説の吸血鬼の気持ちが分かるかも知れん。読んだ訳じゃないから分からんがな。 ハルヒは古泉を見ると嬉しそうに笑い、想像通りだわ!と言った。
「想像ってお前アレか、さっき読んでた小説の神父様か」 「そうよ?」
いやいやいや、何だそりゃ。 古泉はいつもの笑顔が引き攣ってる。いや、まぁ、当然だ。 想像はしてても、な。
「キョンもまあまあってトコね」
古泉が完璧に笑顔で無くなった。 俺も笑えん。
「キョン、古泉君が美味しそうに見えても食べちゃ駄目よ?別の意味でなら良いけど」
古泉の目が思い切り泳いでる。 いや、うん、そうだな。
「別の意味って何だ」 「勿論さっきの小説みたいな展開よ」 「…致しちゃうのか」 「致しちゃいなさい」
古泉がさり気無くドアに近付き脱走を図るがすぐにハルヒに確保された。 まぁ、その、何だ。
面白すぎるぞ古泉
ジタバタと抵抗する事こそなかったが、最早優等生古泉の面影は無い。 涙目で可愛い女子から逃げようとするイケメンてのは何だ、ちょっと可愛いぞ。 なんて思いながら眺めていると、ハルヒは古泉を俺の真正面に立たせ、
「ほら、食べてもらいなさい」
等ととんでもない事を宣ってくれやがった。 古泉は顔を真っ赤にし口をパクパクさせていたが、俺と目が合うと更に顔を赤くし俯いてしまった。 ハルヒはそんな古泉を見て爆弾発言をした。
「古泉君って受けよね、完璧に」 「受け」 「賛成です〜」
長門と朝比奈さんまで腐ってやがったんですか。
「古泉君あんなに態度に出てるのにどうして気付かないのかしらね」 「気付かないふり」 「そうだったんですか〜?」 「それじゃ最低な奴じゃない。若しくは根性なしよ!」
と思い切り俺を見ながら三人とも「誰か」を貶してくれやがった。 俺か、俺なのか。
「だって本当にそうなのか分かんねぇだろうが」 「分かってんじゃない」
あんたバカ?と呆れたような表情で言われたが俺は別にお前が思ってるほどバカじゃないぞこの野郎。 とか思っていると、古泉が絞り出すような声で、
「あのっ…」
と言った。 見ると右をハルヒ、左を長門にがっちりホールドされていて身動きが出来ない古泉が顔を真っ赤にしていたたまれなさそうな表情で救いを求めるような目で俺を見ていた。 仕方なく両サイドを退かせて左手を引っ張ると、予想外だったのかバランスを崩し俺の腕の中に倒れこんできた。
「あら、古泉君大胆ね」 「なっ、そっ、違います!!」
と言いつつ離れようとはしない古泉を三人はまるで母親のように温かい目で見ている。 お前ら一体何なんだ…。 とか思ってると朝比奈さんに、キョン君の返事はどうなんですか?と聞かれた。 告白された覚えは無いが、まぁコイツの場合全面的に態度で表してるからな。
「まぁ、何だ。付き合ってやってやらんことも無い」 「良かったわね、古泉君。大丈夫よ、古泉君なら」
と良く分からん励ましをするハルヒに対し古泉は俺の後ろに隠れてしまった。 そんな所に隠れてどうする。 お前の方が身長高いだろうが、と思いながらも苦笑するしかない俺に対し長門は。
「幸せにして」 「や、まぁ、出来得る限りの努力はするが…」 「…そう」
俺の返答に何処か不満そうな顔をする。 ハルヒはまぁ良いわ、と呟いて椅子の上に立つと、
「さぁ、ハロウィンパーティーを始めるわよ!」
と高らかに宣言した。
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